第16話:第五の領土
配信の幕開け
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは、緑に近い濃いグレーのスウェットに、膝までのカーキ色のハーフパンツ。髪は寝ぐせのままで、丸い瞳を輝かせながらモニター越しに身を乗り出した。
「ねぇミウおねえちゃん……“大和国のサイバー領土”ってほんとにあるの?
だって、地図の右上に“第五領域”って描いてあったんだ」
隣に座るミウは、ラベンダー色のワンピースにモカのカーディガンを羽織り、髪をゆるく結んで肩に流していた。
耳元で揺れる雫型のイヤリングを指で軽く触れながら、ふんわり笑った。
「え〜♡ もちろんあるよぉ。
サイバー領土“Yamato Net”は、みんなが歩ける新しい大和国なんだもん。
ほら、ヘッドセットつければ、まひろだってすぐ入れるよ♡」
コメント欄には「行ってみたい!」「サイバー大和観光ツアー希望」「安心の第五領域」などの声が並ぶ。
Yamato Net
画面の奥に広がるのは、仮想空間に造られた大都市。
ネオン色の街路、浮遊する鳥居や神殿、そして空に描かれた巨大な大和国の紋章。
人々のアバターは自由な服装で歩き、ショッピングも会議も観光も、すべて“サイバー領土”で完結していた。
そこには国境も検問もなく、ただ「赤く塗られた地図」と同じ色合いの床が続いていた。
ネット軍の管理
一方、別の部屋。
灰色のパーカー姿のネット軍隊員たちがモニターに向かって操作を続けていた。
「本日ログイン数:1200万人」
「発言検知:危険度Bワード“ほんとかな”」
隊員は無表情でキーボードを叩き、危険ワードをすぐに“修正済み”に切り替える。
指揮官は冷たい声で言った。
「サイバー領土は心の安全地帯だ。疑問は不要。
選択肢を減らすことが、安心を守ることだ」
無垢とふんわり同意
夜の配信。
まひろは濃いグレーのスウェットの袖をぎゅっと握り、無垢な声で言った。
「ぼく……ただ“本当にあるのかな”って思っただけなのに、もうみんなサイバー領土を歩いてる……」
ミウは白いカーディガンを整え、微笑みながら答える。
「え〜♡ でも安心だよねぇ。
サイバー領土なら、国境もなくて、争いもないんだもん。
未来はきっと、この赤い床の上で広がっていくんだよ♡」
コメント欄には「そうだね」「安心できる世界」「現実より快適!」と賛美が溢れていた。
結末
暗い部屋で、緑のフーディを羽織った**Z(ゼイド)**がモニターを見つめる。
赤い床に立つ人々のアバター、その上に流れる広告収入のグラフ。
Zは低く笑った。
「現実の領土がなくても、仮想の地図を信じれば十分だ。
サイバー領土こそ、大和国の未来の形……幻想がもっとも強い国境になる」
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