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ワンクッション!!
ある日の朝
目を覚ました瞬間、違和感があった。
……といっても、本当に微細なものだ。
枕の位置が少し変わったとか、そんなものと同じレベル。
だから最初は、寝ぼけてるだけだと思った。
純はベッドから起き上がり、朝の光の差し込む部屋を見渡す。
家具も、レイアウトも、昨日と一ミリも変わらない。
住み込み先の屋敷から少し離れた小さな部屋──純の“生活エリア”だ。
テーブルの上には昨日のノート、飲みかけの水、読みかけの報告書。
いつもと同じ。
……なのに。
歩き出した足が、床を踏んだとき。
“音がほんの少しだけ軽い”。
気づく人間のほうが少ないような小さなズレ。
いつもの靴下の厚さがほんの1ミリだけ違うような、そんな誤差。
(寝起きだからかな……?)
自分に言い聞かせて、キッチンに向かう。
カップを取り出した瞬間、陶器の表面の冷たさが、いつもよりほんの少し弱かった。
氷水に触るつもりが、ただの冷水だった──そんな違い。
カップを握り直す。
今度は普通に冷たい。
気のせいと言われれば、全部そう見えてしまうほど、小さな変化だ。
(……今日は疲れてるのかも)
インスタントのスープを作りながら、ため息をつく。
純は体調不良を他人に悟られるのが好きじゃない。
疲れているのなら、気づかれないうちに直せばいい。
スープを少し飲んでみる。
味はいつも通りだ。
だからこそ、余計にさっきの違和感が引っかかった。
気を取り直して屋敷へ向かう道を歩く。
朝の空気は冷たく、白い息がほんのわずかに広がった。
屋敷の前には、すでに権兵衛さんの姿があった。
「おはよう八重」
「権兵衛おはよぉ」
声を交わす。
権兵衛はいつも通りの落ち着いた様子で、昨日の資料を整理していた。
純は階段の手すりに軽く触れながら上がる……その時。
木の感触が、指先に一瞬だけ届かなかった。
「……?」
手をもう一度触れさせる。
今度は普通だった。
権兵衛も気づいていないし、階段もいつもの階段のまま。
ほんの一瞬。
純の“感覚だけ”がふっと抜け落ちたような、ただそれだけ。
(……今日は、変だな)
屋敷の廊下を歩くと、向こうから光子郎がズカズカと歩いてきた。
「純、昨日の事件のレポート早く済ませろ、新しい依頼だ! 」
「ああ、ごめん。後であるよ」
「あとでではない!今やれ!!」
光子郎は純の顔を一瞬だけ見たが、表情はいつものまま。
心配も怪訝さもない。
純に何か異変があるなんて微塵も思っていない顔。
それが逆に純の不安を静かに増幅させた。
だって──。
他の誰ではなく、“自分自身”が気づいている。
この変化が、小さくても異常だということに。
廊下を歩きながら、純はそっと手のひらを見つめた。
指先が、ほんのわずかに、揺らいだように見えた。
ただの錯覚かもしれない。
気のせいと笑い飛ばせるレベル。
けれど、その違和感だけが確かに胸の奥に残った。
──誰にも気づかれないまま、最初の“ズレ”が生まれた。
コメント
7件
うっわぁ、、、 絶対これから先怖いじゃん、、、
うわぁぁぁぁぁ!!! 待ってました〜!!!! 玲奈様のクラウンクレイン夢小説の続き〜!!!🥹 次回が楽しみすぎる!!