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23話 此処に住んで
紙が一枚、
机の上に置かれている。
角はまっすぐ。
折り目はない。
リカは、
椅子に腰を下ろす。
長めの上着。
袖は手の甲まで。
鞄は足元に置き、
腰元で
電子マネーのキーホルダーが
静かに触れ合う。
ペンを持つ。
おかあさんは、
少し離れたところに立っている。
肩までの髪をまとめ、
家の中用の服。
手には、
別の書類。
急かさない。
住所を書く欄。
上から順に、
埋めていく。
街の名前。
建物の名前。
部屋の番号。
その次。
スポット番号。
リカは、
一瞬も迷わない。
26934。
数字を書く音が、
一定に続く。
書き終えて、
ペンを置く。
紙を見る。
文字は揃っている。
にじみもない。
「書けた?」
そう聞かれて、
リカは頷く。
「うん」
短い返事。
それで足りる。
キーホルダーを、
指で押さえる。
番号は、
確認しない。
もう、
確かめる必要がない。
窓の外を見る。
同じ山。
同じ川。
昨日と同じ位置。
でも、
ここにある感じがする。
リカは、
紙をそっと重ねる。
此処に住んでいる。
それを、
迷わず書けた。
それだけで、
胸の奥が
少しだけ高くなる。
大きな声は出ない。
でも、
確かに思う。
ここは、
自分の場所だ。
リカは、
椅子から立ち上がる。
キーホルダーの音が、
一度だけ鳴る。
それはもう、
移動のためじゃない。
此処に戻るための、
ただの重さだった。