テラーノベル
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川岸に兄弟で遊びに来ている。
お兄ちゃんが、本ばかり読んで、ちっともかまってくれないので、弟は、ひとりで川のほとりで水遊びをしていた。
暑い昼下がり。
麦わら帽子を被ってはいるけれど、汗が流れて、小さな顎からしたたり落ちている。
水は、すこーし冷たい。
💙「きもちいい」
弟は、にっこり笑って、その冷たさを楽しんでいた。
💙「あっ、きれい」
💚「おーい、川に入っちゃだめだよ」
本から顔を上げて、木陰に座るお兄ちゃんが、弟に声を掛けた。
💙「はぁい」
返事は、素直に返したけれど、弟はさっき水底に見つけた、きらきら光る石が気になって仕方がない。
もう少しで届きそう。落ちていた棒で腕をのばしてみるけれど、まだ小さな弟の腕の長さでは届かない。川岸は斜面になっていて、川に向かってのびているヒョロヒョロ痩せた枝があった。
弟はそれに捕まって、そこから腕を伸ばしてみた。
もうちょっとで、届きそう。
💙(あの石を取ってあげたらお兄ちゃん喜んでくれるかな)
ママは、少し前に、大きなお腹を抱えて、おばあちゃんちに、行っちゃった。
ぼくは今度、おばあちゃんちに行くんだって。お兄ちゃんは、小学校があるから、パパといる。もうちょっとしたらはなればなれ。だから、ぼくがいなくても寂しくないように、大好きなお兄ちゃんにあのきれいな石、取ってあげたい。
💙「うわわわ!!!」
ザップーーーーーン。
💚「翔太????」
突然上がった水音に、本から顔を上げたお兄ちゃんは、弟がいなくなっていることに気づいた。真っ青になって、川に駆け寄る。
川面には、弟が履いていた青い靴がぷかぷかと浮いている。慌てて見渡したが、弟は見当たらない。
💚「翔太!翔太!しょうたああああああ!!」
💙「ぷはっ……たすけて……っ!」
………見つけた。
足がつかないようで、苦しそうに暴れている。水を飲みながら泣きながら手を伸ばしているけれど、どうやってもお兄ちゃんの手は届かない。このままじゃ流されてしまう。
お兄ちゃんは、カナヅチだった。
それにたとえ泳げるとしても、子供が子供を助けるのは難しいだろう。
大人は…。
そう思って、お兄ちゃんは、近くを見回した。
💚「だれかー!!!だれかいませんかー!!!」
お兄ちゃんは、気が動転して、それでも大きな声を上げた。早く。早くしないと、弟が溺れてしまう。
そこへ。
近所に住む高校生のお兄さんが通りがかった。
🖤「どうしたの?」
💚「お兄さんっ!!」
お兄ちゃんは、知り合いのお兄さんを連れて、川岸へ走った。
高校生のお兄さんは、弟を見つけると、迷わず川へと飛び込んだ。そしてもう少しで溺れそうだった小さな弟をなんとか助けた。
💚「ありがとう、お兄さん…」
💙「ふぇ………あーん!」
泣き続ける小さな弟を抱き、こちらも涙ぐんでいるお兄ちゃんの頭を撫でて、2人を連れてお兄さんは彼らを家に送り届けることにした。
お兄さんの制服はビショビショ。
お兄ちゃんは、逞しいお兄さんの手を握りながら、歩く。小さな弟は、大好きなお兄ちゃんの手をもう離さないでしっかりと握っている。
💚「痛いよ、翔太」
💙「…………んぅ」
お兄ちゃんが言っても、弟は手を握る力を少しも緩めなかった。
家の前まで来ると、お兄さんは手を振って、笑顔で2人の頭を撫でてから自分の家へと帰って行った。お兄さんの背中が見えなくなるまで見つめているお兄ちゃんを、弟はじっと見ていた。
コメント
9件
なんでまきぴよさんの書く夏はこんなにも切なくて可愛くてエモいのか……… 数年後待ってます!!!!
これ、書きながら3人の数年後を小説にしたいなと思った。そして全然なべ受けじゃないからあっちにすればよかったwただの散文です。