テラーノベル
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「懐かしいね。」
幸村は空を見上げながらボソッと口にする。週末のある日。立海は午前中から蒸し暑さに耐えながら練習をしていた。6月にも入ると日本はどこも梅雨入りをし、ジメジメとした湿った空気が目立つ。神奈川だって例外ではなかった。幸村自身、梅雨が好きな訳ではなかったが、この時期になるといつも思い出す。
緑が繁茂する橋の下の河川敷が2人の集いの場だった。雨が降れば雨避けになり、夏には心地よい日陰になるので遊び盛りの2人にはうってつけの場所だった。夏休みにもなると遊ぶ時間が増えるため、都合さえ合えばすぐに集まって鬼ごっこやテニス、時には昆虫を探すために近くの森林に入ったこともあった。まだ夏休みに入ったばかりの頃、遊んでいる途中に夕立にあい橋の下で雨宿りしている時があった。橋の下は雑草まみれで、整備がされないせいか雨粒の匂いと草の匂いが混じって季節特有の匂いが辺りを漂っていた。幸村にとってこの匂いは少し苦手だった。気分を紛らわすためか、或いは幼い頃の興味関心で橋の下から腕をのばして手のひらいっぱいに雨粒を集めたことがあった気がする。ひんやりと冷たく、体温が奪われ、小さな手は真っ赤に染まっていた。
「真田すごいよ!こんなに沢山雨が降るのって初めてじゃない?」
「冷たくないの?風邪引いちゃうよ…」
真田は羨ましがる様子を見せず、眉をひそめてただ風邪の心配をしていた。つまんないやつ。と思いつつも、もっと近くで見せびらかそうと真田の元へ行こうとしたほんのわずか一瞬だった。
「ゴロゴロー!!」
雷が怒りを伝えるかのように雷鳴を響かせた。2人は息を飲んで、体が硬直してしまった。雷が収まったことに安堵すると、幸村は真田の顔を覗き込んでみた。すると真田は小刻みに体を震わせながら、顔色が悪くなっていた。幸村は内心焦っていたがただ
「大丈夫?」
とただ声をかけることしか出来なかった。幸村は安心させようと赤子をあやす様に背中をさすると、落ち着いたのか真田は幸村の方へ振り向き、ただ一言
「ありがとう。」
とにっこりと顔を赤らめて言った。幼いなりの照れか、あるいは雨による冷えなのか2人には分からなかった。
「あの頃はまだ小さかったから、君も怖かったんだろうね。夏に近づくと思い出すんだ。」
「…ねえ、聞いてるかい?」
「…そんなこともあったな」
真田は無愛想に返事をした。
「なにそれ、もしかして忘れたのかい?」
幸村が答えると、真田は照れ隠しをするように帽子を深く被りそっぽを向いた。
「…変わってないね。」
真田の耳は赤く染っており、
2人の顔には笑みがこぼれていた。
ふるさとの 塩の遠音の
我が胸に ひびくをおぼゆ 初夏の雲
与謝野晶子
コメント
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お前いつから創作活動を…?!!