テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
98
ruruha
欠伸をしながら伸びもする。何時間経っていただろうか。
気づけば景色は橙色で。
キミはまだ寝てる。
丸まって赤子のように猫のように。
ふと目の前に黄色く光る蝶々が飛んできた。
よく見れば森の奥に続いてる。
確かあっちはもっと樹海が過ぎていた気がする。
けど “ アレ ” があるから大丈夫か。
それに今時期なら前見れなかった行けなかったあの場所にも行けるだろうし。
「キミ、起きて」
「いいものが見れるよ」
子供騙しの釣りのようにキミに声をかける。
反して手はキミの肩を揺すりつつも、力は入ってない。
「時雨さん…ほんとにこっちですか…?」
「そ!こっちこっち〜!!」
後ろから背中やら肩やらをグイグイ押しながら森の奥に進んでいく。
夕方の森は意外にも暗くて。
しかも木々の間から差す赤い光がどこか不気味さも増しつつで。
少し進むと夕の光を身に纏った蝶の大群が見えてきた。
遠くから見れば金木犀のようにも見えて。
「…蝶々って花がないとこにもいるんですね」
そう言うキミを横目で見ながら
「ううん、花がある場所にいるよ」
と返す。
キミは不思議に首を傾げながら
「あそこの蝶々たち、花に群がってじゃないですか」
と言う。
確かにキミには見えないかもね。
けど知る僕は見える。
不思議そうに首を傾げ続けるキミの背を少し押して共に足を進める。
と、
「わぁ…?!」
驚きの声とビクッと体が跳ぶキミの姿に笑いの呟き声を僕は漏らした。
蝶らのすぐ傍で小さな黄色が地に咲いたのだ。
魔法の花のように。
気づけばキミは既に花に手を伸ばしていて。
花は呼応するように、
キミの手に擦り寄るように、
微かに頭を垂れた気がした。
「…この蝶々はいつもここにいるんですか?」
「ううん、ここじゃない場所にもいるよ」
「この森を住処としてるからね」
いつの間にか止まっていた指の上の蝶に微笑みかけるようにしながらキミの言葉に返す。
「あ、そうだ」
「キミはお祭り行ったことある?」
パチンと手を合わせてそう言う。
そんな音が閑静な森に静かに木霊する。
夕方ながら尚更に。
「お祭り…」
「……ない」
考えるようにして出た言葉。
けれど僕には分かった。
わざとだと。
「じゃ行こ!」
「狐のお参り夏祭り!!」
「…狐のお参り?」
笑顔な僕とは真反対の顔をするキミ。
「じゃあキミはこういう風にして〜」
キミの手に触れてマネキンで遊ぶ子供のように指を動かしていく。
両手を狐の指にして互い違いの背を向けて。
「これはね〜、狐の窓って言うんだよ!」
「…狐の窓?」
「そ!あとは穴を作るようにして〜」
そう言いながら僕の右手でも狐を作る。
𓂃◌𓈒𓐍𓈒
「よい宵宵 宵の朝の後 照る空の天高く時」
手の狐を踊らすように歩かせるようにしながら歌っていく。
狐の御一行を。
【 狐の窓を覗かんか
御一行が歩きよる
覗けばいっそ宵の夜嫁さん纏い白で歩かんに
あらま気づけば辺りは夜闇や
したらお揚げを捧げんにゃ
されど返しはせんせんにゃ
雨が降りし宵の夜
道に照る照る光をや
追いし追って追って続いてな
しては御一行が気づきよる
よい宵宵 宵の夜
光る穹が見えし時
めでたし雨が降りし時 】
𓂃◌𓈒𓐍𓈒
唄を歌い終わると雨が降っていた。
空から。
天から。
夕日の照る上から。
けど穹は晴れていて。
「…天気雨」
キミの声と共に僕も呟いてた。
ただし心で。
気づけば蝶たちは居なくて。
キミもそれが悲しかったのか寂しかったのかキョロキョロと辺りを見回していた。
「…蝶々……」
そんな声が聞こえた気がした。
もしかしたら僕の捏造がただ単純に語ったのかもしれないけど。
そんな時カラン、コロン、と何かの音が聞こえてきた。
近い。
木々の隙間から見える何かの姿。
「ほら見てキミ」
「あれが “ 入り口 ” だよ」
声を潜めながらしゃがんで君との目線を合わせる。
「入り口…?」
「なんですか?入り口って」
「何って…そりゃあ、」
「お祭りの入り口のこと!」
狐の御一行は新郎新婦を囲むようにして列になってどこかへ向かっていた。
青光りした提灯。
先程の近づけば光る花々。
その小さな灯火を見失わないように僕らも着いていく。
お祭り会場に行くために。
けれど僕の目はキミを見てて。
手もキミの手を握ってて。
むしろ狐の御一行の方が後回しで。
なんだか嫌な予感がしただけ。
ただそれだけだろう。
きっとそうに違いない。
着いて行って数分後。
少ししたら狐の御一行は居なくて。
開けた場所に出た。
木々から抜けた場所そこに広がるのは祭りの灯火たちで宙に浮かぶ火の玉だった。
少し香ってくる何かの美味そうな匂いと香ばしさ。
勝手に涎が口の中で広がっている。
しかも甘さもこちらに寄ってきていて。
キミはそれに酔っているようで勝手に体が会場の方へと行ってしまいそうで笑ってしまう。
そして子供の賑やかな声と共に大人すらも子供返りした声々。
「…時雨さん!これすごい!!」
「僕初めてですよ!!お祭り!!」
飛び跳ねそうなくらいテンションが上がってるキミを横目で見る。
そして微笑む。
無意識だった。
「それなら沢山楽しまないとね!!」
そう言ってキミの手を引いて会場に向かう。
コメント
1件
こむぎさん、第4話読ませていただきました〜!🦊🌙 天気雨の中での狐の窓とか、歌とか、幻想的な世界観に一気に引き込まれました…!キミが初めて見るお祭りにワクワクしてる姿、すごく可愛かったです💕 でも時雨さんの「嫌な予感」がちょっと気になる…この先どうなるんだろう?次話も楽しみにしてます〜!