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ウェルとの会話から一週間が経過した。
父上の仕事の遅れはシンの手腕で軌道修正され、順調に進んでいる。
安心したよ。
この一週間は母上とゆっくり過ごした。
今思えば母上とゆっくり過ごすのは初めてであった。
女の子の服を着せようとされてから少し苦手意識を持っていたが、話していると楽しい。
色々話をしたのだが、驚いたことに母上は隣国出身らしい。父上とは交換留学制度で母上の通う学校に来た時に出会ったとか。
母上の惚気話は3歳児には通じないと思うのだが、そうなんだぁ!と相槌していたら喜んで話してくれた。
あとは、うちはワインが有名らしい。
ブランドもあるらしく、王家の献上品によくお納めしている。
母上は自慢げに話していた。
飲んでみたいです。と言ったのだが、お酒は十五になってから……と笑いながら指摘されてしまった。
談笑の中で、父上とシンの関係を聞き続けた。
最終的に母上から「シンは専属執事なのよー」なんて、言葉を聞いたあと「ぼくもせんぞくひつじほしい!」とわがままを連呼した。
ちなみに「しつじ」を「ひつじ」と言ったのはわざとだ。その方が年相応だろう?
そして、今日はウェルから返事をもらう日。
母上に証人になってもらうため、いつもの我儘を使い母上を連れて屋敷を散歩している。
「アレン、今日はどこへ行きたいの?」
「こっちー」
「あらあら、元気ねー。ひつじさんは見つかるかしらねー?」
僕はウェルがいる物置部屋を避けて屋敷をある続ける。
2階の父上の書斎、資料室から、一階の厨房。
母上に専属執事を探すと言ってから、屋敷の廊下を歩いていると何度も言ってくる。
だが、これは必要な過程だ。
作戦シナリオとしては専属執事が欲しい子供が屋敷を移動する。
屋敷を回っているとき、たまたま物置小屋に行き、ウェルを発見する。
ウェルが執事の件を了承してくれるのなら、僕の我儘を発動させ、母上に了承してもらう流れだ。
偶然を装うこの作戦、我ながら良いと思う。
最後はウェルから良い返事をもらえたら母上の前で「このひとぼくのひつじにする!」と宣言する。
僕はそう考えながらも母上と会話をしながら移動する。
物置小屋の近くに来ると僕は今できる限りの速度で全力疾走した。
「こっち!ははうえいこ!」
「ちょ、ちょっとアレン!どこ行くの!待ってってば!」
僕は好奇心旺盛な子供を装い、全力で走る。
普通大人と子供ならばすぐに追いつかれてしまうが、母上は青を基調にしたドレスを着ているので走りづらい。
出せる範囲の速さで歩いて僕の後を追ってくる。
僕はウェルと話をするため、時間を稼がなければいけないため、物置小屋へ着くと、勢いよくドアを開ける。
ガチャ!
「え!?」
入った瞬間驚きの声を上げた。
その人物は僕の目的であったウェルだ。
ウェル掃除中だったのか?
「……すごい」
僕は部屋の見渡して驚いた。
汚いはずの物置部屋は綺麗になっていたのだ。
……は!部屋に感心している場合じゃない!母上が来る前に返答を聞かなくては!
「ウェル……すごいね綺麗な部屋だね。見違えたよ。……本来ならもう少しこのことを言うべきなんだけど、今は時間がない。……返答を聞かせてもらえるかな?」
「どうしたんですか?そんなにお急ぎで」
「もうすぐ人が来るから急いでほしい」
「……わかりました」
僕はウェルに急かしてしまったことを謝罪しながら言った。
ウェルは戸惑いながらも僕の質問を聞くと姿勢を正し、左手を腹部にあて、右手は後ろに下げ、一礼した。
「アレン様のお誘い、謹んでお受けします」
そう言ったウェルは姿は凛々しかった。
前は少しはっきりしないような雰囲気はあったが、今は自信に満ちている。
何かあったのか?僕は気になり聞いてみようとしたが。
「随分雰囲気が変わったけどなにかーー」
「ちょっとアレン!何やってるの?」
「あ……」
母上が少し息を切らしながら入室した。
どうやら走ってきたらしい。
僕が心配だったらしい。母上なら淑女なら走るなんてみっともないとか言いそうだが。
……まぁ、姿を見失えば焦るか。
あははは。僕は一体どれだけ人に迷惑をかけるのだろう。
「「……」」
ウェルと母上はお互いを無言で見ていた。
あ、多分状況整理できてないなこの二人。
母上は物置部屋にウェルがいたから。
ウェルは僕一人でくると思っていたのか、いきなり母上が入ってきたことに混乱している。
この状況を招いてしまったのは僕の責任か。とりあえず役者は揃った。ここで宣言してしまおう。
「ははうえ、ぼく……きめました」
「……え、なにをかしら?」
母上は一瞬はっとなり、意識を僕へ向けた。
そして、僕はウェルを指差し。
「ぼく、このひとひつじにしたいです!」
そう宣言した。