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第4話:灰色の瞳
夕暮れの広場。
遊ぶ子どもたちの笑い声が響く中、石段の端でひとりの少年が足を滑らせた。
体が前に投げ出され、舗装された地面に叩きつけられそうになる。
瞬間、腕が伸びた。
カイ=ヴェルノだった。
黒髪が揺れ、灰色の瞳が真剣に細められる。
彼は少年を抱きとめ、転倒を防いだ。
「大丈夫か?」
その声は落ち着いていて、肩幅の狭い体に抱えられた少年は怯えながらも安心したように頷いた。
だが、群衆の視線は違った。
「ヴィランの末裔が子どもに触ってるぞ」
「危ない、何をするつもりだったんだ」
囁きが広がり、周囲の目が次々と険しくなる。
ヴェルノは少年をゆっくりと降ろし、膝をついて目線を合わせた。
「怖かったな。でも、もう大丈夫だ」
その灰色の瞳には純粋な思いやりが宿っていた。
しかし、親は少年を乱暴に抱き寄せ、ヴェルノを睨みつけた。
「血筋が怪しいんだ。近寄るな」
ざわめきがさらに強まり、ヴェルノの背中に冷たい視線が突き刺さる。
彼は言い返さず、灰色の瞳を伏せて立ち上がった。
――そのとき、喧騒を切り裂くように鮮やかな声が響いた。
「市民を守るのは俺の役目だ!」
水色の髪を陽光に輝かせたヒカル=セリオンが人々の前に現れた。
鍛えられた体、翻るマント。理想のヒーローの姿に歓声が上がる。
セリオンはヴェルノを横目で見やり、群衆に向かって大きな声で言った。
「ヴィランの血を引く者に子どもを預けるなんて、正気じゃない。助けたのは俺だ」
人々は頷き合い、セリオンの言葉をそのまま真実にした。
少年の怯えも、ヴェルノの行動も、すべては塗り替えられていく。
ヴェルノは沈黙し、灰色の瞳にわずかな光を残したまま、群衆の背を見つめていた。
孤独は深まる。だがその瞳はまだ濁らず、確かに人を信じようとしていた。