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「……あれ? デッドQ。もしかして、焦ってる?」
僕は首を傾げ、愉悦に満ちた笑みを深めた。
デッドQの額を流れる冷や汗。
それは不死身である男が、生まれて初めて感じた「終焉への予感」だった。
「ふざけるなぁぁッ!! 余裕だよ、こんなもん余裕だ! お前なんか、今すぐ粉々にしてやる!!」
デッドQが怒鳴り散らし、理性を失った大振りな拳を叩きつけてくる。
だが、僕はもう、そこにはいない。
影を奴の背後に飛ばし、座標を同期させる。デッドQが焦って振り向こうとし、その巨体が無様にバランスを崩してよろめいた。
「……うん、それも計算通りだよ」
よろめいた隙を逃さず、僕は再び奴の体内へと入り込んだ。
脳への扉を閉ざす『鍵』。それは、こいつの脳に強引に「死」の概念を思い出させることだ。
デッドQの過去をハッキングするように解析する。
こいつは殺人が大好きで、人を壊す快楽のために生きてきた。そして、その果てに監獄の闇に閉じ込められていた。
「君は、死が大好きだったんだね。……大好きなこと忘れたらダメじゃん。ちゃんと思い出さないと。」
僕は『過去の影』を実体化させ、デッドQの脳に直接ぶつけた。
物理的な破壊じゃない。奴自身の「殺人の記憶」を、被害者が感じた絶望とともに、脳に直接フィードバックさせる。
「あ……が、ぁぁぁあぁぁぁあぁ!!!」
デッドQの瞳が激しく翻り、白目を剥く。 脳内に逆流する、かつて自分が愛した「死」の感触。扉は内側から爆破され、閉ざされていた感覚神経が一気に開通した。
僕は再び元の場所に影を飛ばし、座標を同期。デッドQの体内から弾け飛ぶように脱出し、雨の中に着地した。
「……はぁ。やっぱり外の空気の方が美味しいな」
僕は服の乱れを整え、未だに白目を剥いて震えているデッドQを見据えた。
脳の扉が開いた今、奴の肉体には、僕がこれまで叩き込んできた「数千発の散弾」と「影の浸食」によるダメージの情報が、激流となって押し寄せているはずだ。
「……もう一度聞くね、デッドQ。君は『死』について、どう思う?」
僕の問いに、デッドQは口から泡を吹き、痙攣しながらも……その本性を絞り出した。
「……シ、死……。死は……最高に楽しく、美しく……俺にとっての、生きる糧だぁぁ!!」
その直後。 一拍置いて、奴の全身の神経が「真実」を受け入れた。
「あ、ぎ……が、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!? い、痛い! 痛い痛い痛い! 嫌だ、痛いの嫌だぁぁぁ!!」
これまでの蓄積された痛みが、逃げ場のない脳内を一気に駆け抜ける。
他人の死を美化していた怪物は、いざ自分が傷つくと、その重みに耐えきれず子供のように泣きじゃくり、自分の肉体を掻きむしった。
「……まだ死なないでね。 僕たち覚醒者の秘密教えてくれるんだよね? 約束したもんね?」
僕は冷めた瞳で、泥水を啜りながらのた打ち回るかつての強者を見下ろした。
◆
「何その格好……美しくない。そんなの、私の愛するアレン様じゃない!」
シオリの悲鳴のような拒絶が、雨の路地裏に突き刺さる。
俺の左手からうねり狂うイソギンチャクの触手。その先に鋭く突き出したラーテルの漆黒の爪。かつては国民のスターとして、まばゆいスポットライトを浴びていた俺の面影は、もうどこにもない。
「……カッコ悪くて悪かったな」
俺は自嘲気味に笑った。
薬の反動で、全身の細胞が内側から千切れるように叫んでいる。だが、意識は驚くほど冴え渡っていた。イソギンチャクの「無感情」がシオリへの恐怖を麻痺させ、ラーテルの「不屈」が、折れかけていた俺の膝を鋼のように支えていた。
「だが、これが今の俺の『全力』だ。……逃がさねぇぞ」
シオリの瞳が、呪わしいほどの光を帯びて俺を射抜こうとする。だが、もう届かない。
俺は一歩、泥水を蹴り上げた。一瞬の踏み込みで、動揺するシオリの懐へと潜り込む。
「――っ!?」
シオリが何かを叫ぼうとした瞬間、俺の左手から伸びた触手が、逃げ場を塞ぐように彼女の細い四肢を強引に絡め取った。
「離して! 穢らわしい、触らないで……ッ!」
「悪いが、もう一錠だ」
俺は震える指先で、ポケットから三錠目のカプセルを取り出し、奥歯で噛み砕いた。
電気ウナギ。
血管が浮き上がり、神経が焼き切れる
ような激痛が全身を駆け巡る。
「痛ってぇな……。クソ能力が」
触手を媒介にして、数万ボルトの青白い火花がシオリの体内に直接叩き込まれた。
「あ、が……っ、あああああッ!!」
白目を剥き、シオリの身体が力なく折れ曲がる。 支えを失って崩れ落ちる彼女の身体を、俺は膝をつきそうになりながらも、泥水に沈む前にその腕で支え直した。
「……こうするしか、お前を止める方法はなかったからな。…… 気を取り戻したらちゃんと謝るからよ……。」
荒い息を吐きながら、俺は手の中で気絶したシオリを冷たく見下ろした。
母さん、親友の秘密。そして俺たち「ナンバーズ」の事。
「全部、吐いてもらうぞ。……お前の身柄は、俺たちが引き取る」
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