それから一週間後、美月は亜矢子に【相談したい事があるから会えないか?】とメールした。
すると亜矢子から返信が来て、
【今日の夜でいいならうちにおいでよ。浩は飲み会で遅いんだ】
と言ってくれたので、夜亜矢子の家にお邪魔する事にした。
美月は健太からのメールについて亜矢子に相談しようと思っていた。
自分の対応がこれで良かったのかを亜矢子に確認したかった。
美月は仕事を終えると、亜矢子のマンションへ向かった。
マンションへ着くと玄関口で亜矢子の息子の亮が出迎えてくれる。
「みーちゃん、らっしゃーい」
亮はかわいい声で挨拶をしてくれた。
「亮君こんばんは。久しぶりですねー。はい、これお土産」
美月は亮君が集めているミニカーをプレゼントした。
亮は最近働く車シリーズにはまっている。事前に亜矢子に確認すると消防車はまだ持っていないという事だったので、ここへ来る前にデパートで買って来た。
すると亮は、
「マーマ! マーマ! みーちゃんにもらったー!」
と言って亜矢子に見せに行き大喜びしていた。
「美月ありがとうね」
「うん。お弁当とプリンも買って来たから食べようよ」
美月が亜矢子が何も作らなくていいようにと、夕飯は買って行くからと伝えてあった。
美月は早速デパ地下の美味しそうな弁当を袋から出す。
「助かるー、旦那がいない日くらいはサボりたいのよー。美月が来なかったら多分亮のご飯だけ作って私は家にあるパンか何かで済ませてたわ」
亜矢子はそう言って笑った。
そして二人はお弁当を食べながら早速本題に入る。
美月は先週海斗と待ち合わせ中に健太にばったり会った事、その後健太からメールが来た事を亜矢子に伝えた。
それを聞いた亜矢子はかなり驚いている様子だった。
「健太さんってプライド高いタイプだったよね? そういう人って元カノや元妻が自分よりもいい男と付き合っているって知ると面目丸潰れなんだよ、きっと。だからプライドをズタズタにされてつい気になってメールしてきたんじゃない?」
「そうなのかなぁ?」
「うん、絶対そう! それに相手が一般人じゃなくて誰もが憧れる人気スターだったらなおさらでしょ? 海斗さんって女性だけじゃなく男性ファンも多いしね。男から見てもカッコイイ男だから余計に複雑なんじゃないかな?」
「うーん、そういうもんなの?」」
「そうだよ。じゃなきゃ今更別れた妻に連絡なんてしてこないでしょ。婚約者もいるんだもん。あ、それとも婚約者と何かあったのかな?」
「うん、なんか会った時の雰囲気だと、ちょっと森田さんに手を焼いている感じだったかも」
「猫を被っているのがバレたか! 結局自分のいい所だけしか見せていないと化けの皮が剥がれた瞬間一発でアウトだよね。やっぱりさぁ、本気で好きになった相手には、いい所も悪い所もありのままの自分を見せて誠実にお付き合いしないとねぇ、上手くはいかないよねー」
亜矢子が言うとかなり説得力があるからさすがだ。
「で、メールの返事はどうしたの?」
「メールは削除して返信はしなかった」
「それで正解! それでいいと思うよ。じゃないと相手の女に知られたら面倒な事になるからね」
亜矢子も美月と同じ考えだったので安心した。
「この事は海斗さんには話したの?」
「ううん、今忙しそうだから余計な事で心配させたくないんだよね。だから言ってない」
「そっか。でもまあアイツも返事が来なかったら諦めるだろうからこのまま様子を見ればいいんじゃない? でも何かあったらすぐに私に連絡するんだよ」
亜矢子が頼もしく言ってくれたので美月は有難かった。
その後三人は美月が買って来たプリンを一緒に食べた。
可愛らしい亮が顔を笑顔でくちゃくちゃにしながら「みーちゃんおいちぃ!」と喜んでくれたので美月が喜ぶ。
美月は久しぶりに会った亮としばらく遊んでから亜矢子の家を後にした。
次の日、美月はすっきりした気持ちで仕事に向かった。
昨日亜矢子に全部聞いてもらった事で、だいぶ気持ちが楽になっていた。
(持つべきものは親友だわ)
美月は心から亜矢子に感謝する。
そしてその日の昼休み、職場のスタッフの間ではファミリーレストランの話で盛り上がる。
今、ファミリーレストランでは期間限定で『三種のフルーツパフェフェア』というのをやっているらしい。
パフェの種類は三種類で、マンゴーパフェとバナナパフェ、そして木苺パフェがあるようだ。
それを知った木苺好きの美月は、
(食べたいなぁ)
と心底思ったが、一人でわざわざ行くのもなぁと思い悩む。
そうこうしているうちに、午後のクラスが始まる時間になったのでスタッフは皆持ち場へ戻った。
そしてこの日美月は夕方で仕事を終える。
ミキ先生の作品作りも一段落したようで、彼女に代わりに受け持っていたクラスももう担当する必要はなかった。
だから今日も定時で帰れる。
帰り支度をしていると海斗からメールが来た。
【シンデレラさんは今日は早番だったよね? 夕方で終われそう?】
美月はメールを見て思わず微笑む。
【はい。シンデレラは今帰り支度をしています】
【俺も今日は早帰り出来そうだから一緒にご飯食べて帰らないか?】
海斗とはレコーディングが終わるまで会えないと思ってたので、美月はそのメールを見て飛び上がりたいほど嬉しかった。
【うん、行きたい】
美月は即返信した。
【今そっちに向かっているから、あと二十分くらい経ったら外で待ってて】
【承知しました】
美月はそう返信すると、嬉しくてついニコニコしてしまう。
海斗が職場まで迎えに来てくれるのは初めてなので、なんだか不思議な気分だ。
美月は海斗が来るまでの20分間、他のスタッフとお喋りをしながら時間を潰す事にした。
一方、海斗はハンドルを握りながら美月の職場へ向かっていた。
レコーディングの重要な部分はほぼ全て終わり、あとは細かい所の修正を残すのみとなった。
だから時間的に少し余裕が出来た海斗は、久しぶりに美月と食事に行こうと早めにスタジオを出た。
大通りの歩道には人が溢れていた。ちょうど仕事終わりの人達がビルからぞろぞろと出て来て一斉に駅へ向かっている。
海斗の車があと少しで美月の職場に着くという時、ちょうど赤信号で止まった。
交差点を行き交う人達をぼんやり眺めていると、群衆の中に見覚えのある顔を見つけた。
(あれは…)
スーツを着たその男性は、先日表参道で会った美月の元夫・健太だった。
(なぜこんな所にいるんだ?)
海斗は不信に思い健太を目で追う。
すると、横断歩道を渡った健太は美月の職場がある方へ曲がりそのまま歩いて行った。
その時信号が青に変わったので、海斗はアクセルを思い切り踏み込んだ。
そして歩道にいる健太を追い越すと、美月が待っているビルの前まで急いだ。
200メートルほど進むと、美月がこちらに手を振っているのが見えた。
海斗は素早く車を横づけにしてから、手を伸ばして助手席のドアを開けた。
「シンデレラさん、お待たせしました」
「迎えに来てくれてありがとう」
美月は助手席に乗り込むと笑顔で言った。
その笑顔を見た海斗は、
(この笑顔を見ると疲れも吹き飛ぶな…)
心の中でそう思う。
美月がシートベルトを締めると海斗はすぐに車を発進させた。そしてバックミラーをチラリと見る。
ミラーには、だいぶ後ろを歩いている健太の姿が映っていた。
海斗はホッと息をつくと、何事もなかったように美月に聞いた。
「さーて今日はシンデレラさんの好きな物を食べに行きましょうか? 何か食べたいものは? 行きたい店とかある?」
海斗に聞かれた美月は咄嗟に思う。
(有名人の海斗に、まさかファミレスに行きたいなんて言えない…)
美月が言葉に詰まっているのを見てすぐに海斗が察した。
「はい! 言いたい事ははっきり言う!」
海斗がまた先生のように言ったので、美月は意を決して言った。
「ファミレスに行きたいの」
消え入りそうな小さい声だった。
海斗は一瞬、「え?」という顔をしたが、すぐに、
「どこのファミレス?」
と美月に聞いた。
「ロイヤルガーデン」
「OK!」
海斗はカーナビで近くのロイヤルガーデンを検索し始めた。
近辺に何店舗かあったようでその中の一つへ向かった。
そこで美月が心配そうに聞いた。
「ファミレスって人が多いけれど大丈夫?」
「湾岸エリアならそれほど混んでないだろうから大丈夫だよ」
そして続けて言う。
「それにこれもあるしね!」
海斗はダッシュボードの上のシルバーフレームのメガネを指差した。
「有名人の変装って帽子とか被るんでしょう? 海斗さんは被らないの?」
美月が素朴な疑問をぶつけると、海斗は笑いながら言った。
「いや、被った方が、逆に目立つみたいだよ、今までの経験から言うと…」
「そうなんだ」
美月がしみじみと言ったのが可笑しくて、海斗は声を出して笑った。
それから二人は今日あった出来事を互いに報告しながら、ファミリーレストランへと向かった。
コメント
4件
あ〜😱やだやだ〜💧 この手の男は…🥺💧 海斗さんが気づいてくれて良かった🥺 いつも、美月チャンの心の声を先生口調で引き出してくれる海斗さん素敵👍👍👍🥹
海斗さんの瞬殺な判断で間一髪健太から美月ちゃんを守れてよかったけど、健太はストーカーぬまがいのことしてるのわかってる?? 家も職場も知ってるみたいけど、まさか職場に来るとは誰も思わないし… 海斗さんも美月ちゃんのことが心配だと思うけどこの先どう対処する⁉️
やはり健太、職場まで来ましたね....😱 海斗さんが気づいて 急いで迎えに来てくれたから良かったけれど🤔 しつっこそうだし 家の住所も知られているし、怖いですね((( ;゚Д゚))) 海斗さんもきっと、美月ちゃんが心配でたまらないよね....😰