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アドルフさんから次の神器候補の杖を|恙《つつが》なく受け取る。
デザイン自体は以前見ていたものだから、残念ながら新鮮な感動は無い。
しかし杖の装飾と馴染むように空けられた5つの魔石スロットは、私の目にはやたらと誇らしく映った。
「アイナさん、その杖を貸してください!」
私が杖を見ていると、エミリアさんが興奮気味に話し掛けてきた。
ほら早く! ……そう言わんばかりに、両手をこちらに出してくる。
「えっと……? ああ、はい。どうぞ」
「ありがとうございます!」
エミリアさんは私から杖を|恭《うやうや》しく受け取ると、軽く振り回してみたり、ポーズを取ってみたり、掲げてみたりと忙しい。
自身の姿を確認するように、お店の中の大きな鏡にもちらちらと目をやっていた。
「き、気に入りましたか……?」
「はい! とても素敵な杖ですね!」
「ふふふ、確かにその杖も良いものじゃな。
妾の鉄扇と互角、くらいかのう」
「……何でそこで、張り合い始めるんですか」
「ところでアイナよ。この鉄扇を神器にすれば、まさに鬼に金棒じゃと思わんか?」
ドヤ顔でそう言うグリゼルダに、何となく共食いのようなイメージを抱いてしまった。
……いや、全然違うんだろうけど、竜の魂を使った武器を光竜王様が使うっていうのは……何だか、ねぇ?
「ま、まぁ機会があれば……?
でもまずはこの杖ですよ! 今までの神器は剣しか無かったので、次は杖なんです! 剣に杖、まさに王道ファンタジー!!」
「王道ファンタジーというのはよく分かりませんが、わたしも杖に賛成です!」
エミリアさんは強い口調で、私を強く支持してくれた。
ちなみに元の世界から見れば、この世界は王道ファンタジーの世界だ。
逆に言えば、この世界では王道ファンタジーというのはただの現実なわけだから、その概念が理解できないのも無理はない。
……何だか言っててややこしくなってきたぞ。
「次の神器で使うのは『火竜の魂』ですから、やっぱり『火の加護』とか『炎の加護』が付くんですよね。
そうしたら、火属性の攻撃に特化した杖にするのが良いでしょうか」
「えっ」
「えっ」
「アイナさん、火には優しい温もりとか、文明の礎とか、そういう面もあるんです。
無理やり炎の攻撃に特化しなくても良いかと……!」
「……エミリアさん、自分が使うために誘導していませんか?」
「そんなことはありますよ!」
「あるんですか!?」
「まぁまぁ。妾にはエミリアの気持ちも分かるぞ?
何せルークが神器を持っているのだから、アイナとずっと一緒におるエミリアが欲しがるというのは当然じゃろう」
「えへへ♪」
グリゼルダのフォローに、エミリアさんは顔を綻ばせた。
「……すると俺は、エミリアさんとジェラードの次か……」
エミリアさんの後ろで、アドルフさんが小さい声で何かを言っていた。
ひとまず今は、聞かなかったことにしておこう。
「でも、作ってる私だって、専用の神器は欲しいんですよ。
私は今の杖を気に入っているから、どちらかと言えば指輪みたいなやつが欲しいです!」
「おお、それは良いですね!
それなら杖の神器はわたしがもらっておきましょう!!」
「エミリアさん、言い方が直接的になってますよ!」
「えへへ♪」
……何だろう、このエミリアさんの可愛い微笑み。
可愛い反面、実に欲にまみれていると言うか、何と言うか。
「俺ならやっぱり、ハンマーが良いなぁ。……鍛冶の効果が上がる感じの」
エミリアさんの後ろで、アドルフさんが小さい声で何かを言っていた。
ひとまず今は、聞かなかったことに――……って、いや? むしろ鍛冶の効果が上がるのであれば、率先して作りたいかもしれない……?
「……うーん。私の仲間にはもう全員、神器を作ってあげたいですね。
何せ私は『神器の魔女』ですから、別にたくさん作っても問題ないですよね?」
「まぁ別に良いんじゃが……。
しかしそんなことになったら、この時代は後世から『歴史上の特異点』などと呼ばれることになるんじゃろうなぁ……」
……さすがの神器のバーゲンセールには、グリゼルダも思うところがあるようだ。
こっそり作ろうとしても、結局は『世界の声』が世界のみんなにバラしてしまうわけだからね。
「そうは言っても大量生産は現実的ではないですけどね。
神器って結局、竜の魂が必須みたいですから」
グリゼルダが転生前ほどの力を取り戻せばどうにかなるかもしれないけど、それがいつになるかは分からない。
待つとしたら、きっと長い時間が必要になるだろう。
……私とリリーはともかく、他のみんなは難しい……かな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――夜。
リリーが眠る横で、私は改めて杖を手にとってみた。
「むぅ……。やっぱりデザインをこうしたのは失敗だったかなぁ……」
英知の中で見た映像をもとに、今回は魔法使いバージョンのエミリアさんに似合うように杖を作ってしまった。
……やっぱりここは、何も考えないで聖職者用の杖にした方が良かったのかもしれない。
それならみんな、普通にしあわせだったかも――
……この杖のデザインはとても良いものだけど、心残りはまさにそこだった。
ある意味、この世界に来てから一番後悔したことかもしれない。
ここはいっそ、私用の神器にしてしまう?
でも火属性の杖になるんだよなぁ……。私の使う魔法は水属性だから、やっぱりズレがあるというか、違和感があるというか……。
私の瞳の色は赤色だから、そう言った意味では統一感はあるんだけど――
……何とも考えがまとまらず、そのまま軽い絶望を感じてしまう。
逃亡生活で感じた絶望とは種類が全然違う、些細な感じの絶望ではあるんだけど。
……いやいや? 世界に名を轟かせる神器の話だから、些細なことでも無いのかな。
――ああ、だめだ。やっぱり考えがぐるぐるとまわってしまう。
今日はとりあえず、考えるのはやめておこう。
今はみんなのおかげで生活の方は安定しているから、やっぱりここは国作りの方を優先したいかな。
その上で、例えば建国の宣言のときに神器を作れば、結構なインパクトがあるかもしれない?
神器の名前を『ジンギノ・マジョガ・クニヲ・ツクリマーシタ』とかにすれば、『世界の声』によって、世界中に建国をアピールできるわけだから――
……って、さすがにその名前はダサいか。
でも次の神器作成を一旦置いておくのは、個人的には有りだと思う。
必要があればそのときに作れば良いし、そもそも今は戦力的に過剰なくらいだからね。
あとはエミリアさんの期待の眼差しをどうにかすることができれば……。
……まぁいざとなれば、杖だけ先に渡しておいても良いかもしれない?
いや、でも神器の素材にするときに中古感があると微妙だからなぁ……。
……やっぱりここは、一旦保留にしておこう。ひとまずは建国のときに、何かしらの神器は一緒に作ることにしておこうかな。