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もあ
44
鬼霧宗作
50
#復讐
りう。
45
さぶれ-SABURE-
1,239
メリーティアの身体の回復を待ち、モナの処刑は五日後に執行されることになった。
皇帝を毒殺しようとした大罪人とされた彼女は、帝都の広場で、観衆が見守るなかで処刑されるのだ。
ギロチンの鋭い刃が、太陽の光に照らされてぎらりと光る。
メリーティアはケイリクスにどうしてもと懇願して、刑の執行をいちばん近くで眺められるよう席を設けてもらった。あの日、あのとき、モナとケイリクスがグウェンダルの処刑を笑って眺めていたのと同じところだ。
背後に佇んでいるグウェンダルをちらりと見て、内心で歓喜する。
やっと、やっと、彼の屈辱を晴らすときがきた。
グウェンダルが殺されたのと同じ方法で、同じ場所で、モナは死ぬ。
皇位継承争いなどというくだらないものに巻き込まれて死んだグウェンダルは、どんなに無念だったか。どんなにつらかったか。
あのとき彼のそばにいることができなかったメリーティアの呵責の念も、いま晴らされるだろう。
塔から騎士たちに引きずり出され、みすぼらしい姿になったモナが処刑台の上に立つ。見事だった赤髪は、刃が通りやすいように短くざんばらに切られていた。
ふとモナが顔を上げ、目が合う。
すると憔悴しきっていた瞳が大きく見開かれ、眼光鋭くにらみつけてきた。
「……どうして生きているのよ……」
モナはぼそぼそと呟きながら、騎士の拘束を抜け出そうともがいた。
「あの毒を飲んでどうして生きていられるのよ! そんなの人間じゃない。人間じゃないわ、悪魔よ……! 悪魔を殺しても罪には問われないわ! そうでしょう!? わたくしは無実よ!」
自分を拘束する騎士に訴えかけるモナだが、誰の同情も得られそうにはなかった。
隣でケイリクスが「早く連れて行け」と騎士にジェスチャーを送る。その顔は不機嫌さを隠していない。かつて自分の妻だった女が今から死ぬというのに、何の感慨も抱いていないようだった。
メリーティアは貼り付けた笑みを崩さず、モナを冷ややかに見る。
「全部全部この女が悪いのに、あんたみたいな女死んで当然なのにっ、なぜ皇后のわたくしが殺されなければならないの!? 陛下のことは殺そうとなんて考えたこともないわ! 陛下、陛下……! ただの誤解ですわ! お願いです、わたくしを助けて……!」
「すみやかにギロチンに固定せよ」
ケイリクスが一切聞く耳を持たないとわかると、モナは必死の形相で民衆を見渡す。
元皇后が処刑されるというのに、誰も反対の声を上げない。
実家の公爵家に手紙を送ったようだが、開封されることなく返送されてきたという。
誰も助けてくれない。誰も憐れんでもくれない。
民衆を見渡していたモナが、ふとみるみるうちに眉を吊り上げた。
(誰を見ているの?)
視線の先を追うと、鮮やかな赤髪にいきあたる。
母親が処刑されるというのを聞いて、処刑場に足を運んだらしいヨハンセンの姿がそこにあった。
金切り声で名前を呼ばれびくっと大袈裟なほど震えたヨハンセンは、青褪めて冷や汗をかいている。
わななく唇が「ははうえ」と呟いた。
「よくもこの場にこられたわね、ヨハンセン! 元はといえばお前のせいよ! お前を皇帝にするためにわたくしがどれだけ尽力したと思ってるの? それを裏切るなんてっ、お前なんて産まなかったらよかった! お前が第二皇子よりもぐずで使えないノロマに生まれたときから、わたくしの人生は不幸になっていったんだわ! お前が不幸を呼び寄せたの!」
乾いた唇が裂けて血が滲むほど叫ぶモナの姿を前に、ヨハンセンは目を伏せた。それから背を向けてトボトボとこの場を離れていく。
唯一処刑されることを悲しんでくれたかもしれない相手を、モナは自ら失ったのだ。
「待ちなさい! 待ちなさいヨハンセン……っお前はわたくしの息子でしょう! 助けなさいよ! 陛下に懇願してでも、わたくしを救いなさいよ……! …………待って……っ」
見捨てられたモナはがっくりとうなだれる。
その哀れな姿をメリーティアは嘲笑った。
ギロチンに固定される間も、モナはバタバタと四肢を動かして抵抗する。声が嗄れても、メリーティアへの恨み言を、ヨハンセンへの懇願を、ケイリクスへの命乞いを叫び続けていた。
「――刑を執行せよ」
ケイリクスの命で、処刑人により刃が落とされる。
その瞬間、観衆は悲鳴とも歓声ともつかない声を上げた。人間の首が切られるおぞましい光景は、まるで人形の首が取れてしまったときのような現実味のなさがある。断面から溢れる血だけがひどく生々しい。
あれだけ足掻いていたのになんとも呆気ない終わりだ。今にも叫び出しそうな表情のまま転がっているモナの首を見て、メリーティアはとうとう声を上げて笑う。
それは誰が見ても狂っているように感じられただろう。
グウェンダルが肩からマントを外し、視界を覆い隠すように前方に広げてきた。
「……何をしているの?」
「目の毒だ」
「そんなことないわ。とっても愉快よ」
「……震えている」
グウェンダルに指摘され、自分の手を見下ろした。彼の言うとおりガタガタと震えている。
背後に立つグウェンダルを振り返り、おもむろに彼の首を撫でた。
指が冷たいせいか少し驚いた様子を見せたものの、彼は何も言わずに好きにさせてくれた。
「くっついてる」
狂ったように笑いながらも、瞳は涙で潤んでいく。
モナの首にギロチンの刃が落ちる瞬間、グウェンダルが処刑された場面が重なった。
音やにおいに至るまで鮮明に覚えている。あのときの絶望がまざまざとよみがえった。
モナへの復讐が終わって晴れ晴れとした気持ちになるはずだったのに、現実は物語で描かれる爽快な復讐劇のようにはいかない。メリーティアの感情はぐちゃぐちゃだった。
グウェンダルの繋がったままの首をぺたぺたと触って、彼が生きていることを実感する。
様子のおかしいメリーティアから困惑気味に身体を離し、グウェンダルはケイリクスへ視線を向けた。
「陛下、離宮に戻ったほうがよろしいのでは……」
「そうだな、早く戻ろう。グウェンダルの言うとおり、メリーティアはこのような残酷なものは見なくてよい。さあ行こうか。まだ体調も万全とはいかないだろう?」
ケイリクスに優しく語りかけられ我に返る。
メリーティアは差し伸べられたケイリクスの手を取るとすっと立ち上がり、彼の身体に寄りかかりながら離宮へと戻る道を歩いていった。
(しっかりしなさい。まだ終わっていないわ)
メリーティアは自分を奮い立たせるように、心の中で強く言い聞かせる。
(まだ、最後の復讐が残ってる)
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