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あのっ、ホンットに好きです!(語彙力)続き楽しみにしてます!
3月に入ろうとした。2月の世界会議以来、来客が絶えない。もちろん断ってはいるが。
「お腹、出てきましたね」
「やっぱりそう見えるか?」
部屋に入ってきた菊にそう言われた。いつもスーツ姿で足を組んで迎えていたのが今日はゆったりとしたもので足も組まず本を読んでいたから尚更そう言われた。手招きでこっちに寄ってきてもらい、部屋の中でも大きな窓があるところへ来てもらった。そこからはイギリスの街が一望できる。
「菊は、この子が国にとって脅威になると思うだろうか。時々夢に出てくるんだ。,,,見たくない光景をな。」
結露していた窓を撫で、涙のように1粒の雫がこぼれ落ちていく。
「いいえ。私個人の意見では、そのまま平和が続いていくと思いますよ。」
ハッとして菊の目を見る。
「あははっ今日はじめて目が合いましたね。」
ケラケラと笑い夕日を背にして菊が言う。
「アーサーさん。私たちは腐っても『人間』なんです。どれだけ傷つけてそれでも生きていたとしても人間なのです。」
手のひらをイギリスの街へ指す。
「なのに、民と同じ扱いをされないというのは不平等ではありませんか?」「菊」
後光のように煌めく夕日が本田菊の言うことを正しいと評価している。自然と涙が出そうになったが堪える。
「っ菊!」「はい」
「どうか、まだ、俺をよろしく頼む,,,,っ」
「はい。もちろんです。」
菊がタクシーに乗るのを見届け屋敷に入ろうとした時、羽織っていたストールが引っ張られた感覚がした。低木に引っかかったのかと思い振り返ると影が覆いかぶさった。次に上を見あげると、
「アーサー。久しぶりだね」
アルフレッドがいた。
「あ、アルフレッド?どうしてここに」
「何回もカードは贈ったんだよ。なのに返事がなかったからさ」
記憶を遡る。そういえばエドワードが部屋の机に置いていた気がする。だが悪阻でほとんど動けなくて放置していた。しまったと思い顔を伏せた時ギュッと抱きしめられた。あまりにも力が強すぎてバンバンと背中を叩くとごめんごめんと言い離してくれた。
「世界会議から1週間は経ったぞ?ずっとイギリスにいたのか?」
「いや今日たまたま来てたんだよそしたら菊が出ていくのを見たから用事終わったな!って思って」
「あ、あぁそうだな」
ストールでお腹を隠し近くにいたエドワードを手招きで呼ぶ。
「とにかくアルフレッド。用がないならもう帰れ。お前だって仕事があるだろ?」
その言葉がいけなかったのか、二の腕を掴まれた。
「君に!用事があったんだよ!」
まるで駄々をこねるような言葉にキョトンとして呆気にとられる。まるで独立前の,,,,
「,,,寂しかったんだよ。あの日から、連絡も来ないし、会議でも素っ気ないし、」
「アル,,,,」
同情しかけたときサッと耳元で話しかけられる。
「それに、そろそろ昼だけじゃなくて夜も喋りたかったしね」
「!!!!お前な」
吐き気が襲ってきた。思わず両手で口を押え下を向いたがこれは間に合わない。
「アーサー様!」
「ゲホッゴホッ!」
咳と同時に吐いてしまった。
「アーサー!?」
エドワードも近寄ってきて顔色を確認する。
「ガードマン!屋敷内のガードマン!早く来なさい!メイドはドクターを、」
「俺が運ぶよ。ガードマンはそのまま近くを警備していて。マスコミに見られたら面倒だ。」
「あ、アメリカ様?いや、お手を煩わせるには」
「大丈夫」
サッとお姫様抱っこに切り替え、自分が着用していた上着を上から被せる。
「案内して」
「熱が出ていますね。別室に置いてある器具を持ってまいります。もう少し辛抱ください。」
医者がそう残し室内にはエドワードとアルフレッドだけがいた。
「申し訳ございませんアメリカ様。」
「大丈夫だって。それに俺もう帰るし。もうさっき連絡したよ」
「ならばお見送り致します。」
「君はアーサーの隣にいてあげなよ」
扉へ向かってポケットに手を入れたまま出ていこうとする。動く度に頭が痛くなるがなんとか方向を変える。
「いや,,,,見送って、やれ」「アーサー様」
「ア、ルフレッ、ド。また、な」
先程までこちらを見なかった目が勢いよくベッドの方へ向けて突進してくる。
次の瞬間、おでこに軽くチュッとキスをして
「また、会議でね」
スタスタと扉へ向かって歩いていきバタンと出ていった。キョトンとしているとエドワードが急いでその後を追っていった。そのあと交代するように医者が帰ってきた。
「遅くなりました。,,,,,熱を測り治しましょうか?」
「,,,,,いや、いいよ」
ただ熱が出ただけらしい。だとしても妊娠中であったのでその日は医者にいてもらった。
次の日
「熱が下がりましたね。ついでといってはなんですが、エコー。しますか?」
「あぁ、そうだな。頼む」
検査の間にフッと手の動きが止まった。
「どうした?」
「い、いえ」
だが医者の目は段々と画面に近づいていく。そして検査が終わりなんと言われるのか待っていると
「双子です」
「は?」
「こちらを」
エコー写真には確かに2つの影があった。国が妊娠、双子!?
「,,,,イングランド。こちら側の仮定ですが、おそらく悪阻は重く、また長く続かれると思います。そしてお腹も通常の倍膨らむことになるでしょう。」
「ま、まさか」
「それと、もうすぐ6ヶ月に入られますね。」
「ああ,,,,そうだな」
「出産の方法をどうするか、決めなければなりません。イングランドのみならず秘書方にも問い合わせますが、人体の構造が我々と異なっていると聞きます。切開した場合、傷はどのぐらいのスピードで塞ごうとするのか、イングランド本人が大丈夫であっても御子がどうなるのか。よく考えていきましょう。」
タクシー車内
アルフレッドの隣には秘書のメアリーが座っていた。
「全く,,,,上司に問い合わせてみれば休暇をとっていると。カナダ国に我が祖国の家を尋ねてみればイングランドへ行ったと言われる始末。忙しい季節だとお分かりですよね!?Mr.ジョーンズ!!」
「ああああーはいはい。分かってるぞ!」
「もう,,,,あら。お煙草吸われるのですか?」
「まぁね」
右手に1ピースを握り持って外を見る。まだ空港まで20分ほどかかる。
「これから乗るならば1時間後の便になります故、空港内でライターをどこかで買いましょうか?」
メアリーが親切に言ってくれたが手のひらを向けて首を横に振る。
「いやいいぞ。吸いたい気分ではないから」
独立後、せめて同盟を組みたいと思っていてもアーサー本人が面会を拒否していたことから何百年も離れていた。しかしWW1頃に共に戦おうと個人的に会い、和解したつもりだった。
でもこの前の会議で向けられた疑心の目。
こじらせてきた思いが9月頃抑えきれなくなって半ば無理やりやってしまったことだと思う。この行為はきっとアーサーのプライドを傷つけたと同時にフランシスとの仲も割ってしまったことに当てはまる。それが分かっていても好きだと心の底から言える。
くしゃくしゃとセットしていた髪を崩してスマホをとる。ポチポチと何分か触ったあとメアリーに言う。
「メアリー。各国の秘書に伝えてくれ」
「次の世界会議場はイングランドだ」