「本田さーん」
東京のあるビルで1人の声が廊下に響く。日本国大阪府の化身、通称大阪さんだ。
「あちらにいましたよ」「おーきに!」
「本田さん?」
「大阪さん。東京にいるなんて珍しいですね」
「連絡が来たんすわ。なんで僕なんでしょうね」
といい、スマホを触り出す。
「世界会議のことなら昔から皆さんと会っていたのは大阪さんですからね」
「やったぁー東京さんに知名度勝ったわー」
「棒読みやめてくださいよ笑」
「ほらっそんなことよりもこれ!珍しいですね」
メール内容は次回の世界会議場所変更の知らせ。いつもはアメリカ合衆国で行われていたが3月はイギリスでするとの連絡であった。
「イギリスですか!?便の取り直ししないと、」
ワタワタとし出す本田を他所に、大阪はある事を考えてから本田に確認する。
「,,,,本田さん」「はい?」
「もしかして今日、『あそこ』へ行ってはりましたか?」 「,,,,はい」
ふぅーと長い溜息をつき、大阪は本田を見つめ、
「別に忘れろとは言わないんです。でも、長く生きる僕たちにとってそれは正しいんでしょうか?僕は時たま分からへんくなります」
「迷惑をかけますね」
「別迷惑っちゅーわけではありませんよ!?」
ふふふと笑い返して本田は方向を変えエレベーターへ向かう。
「2000年を超え、沢山のものをこの目で見てきました。いくら爺といっても記憶力はなくならないんです。『あの子』はこの国の民であり、私の子なのですから。」
「まぁ、,,,そうですね」
チンと音が鳴り、1階につく。
「大阪さんも私の子ですよ。この国の民なのですから。」「僕もですか!?照れくさ、、、」
そして、「日本」という名の本田菊はイザナギとイザナミから産まれた。ただそれだけのこと。2000年以上もの歴史を誇る日本でのちょっとした家庭事情である。
3月世界会議当日
俺はまだ屋敷にいた。最低でもあと10分で家を出なければならいのだが、ある問題を抱えている。1つ目は以前変わらぬ体調不良があること。
「会議は18時までですよね?17時半にはロビーにおります。」「ああ。そうしてくれ」
2つ目はお腹が大きくなり服装に違和感があること。いつもスーツなので、今日だけとか今から服装を変えるということはしづらい。
「,,,,目立つよな?」「まぁ,,,,はい」
「まじ今までの女性職員全員に給料アップしてぇ,,,,これは隠せないな、」
どうしても膨らみが気になり、鏡から目が離せない。するとエドワードが何か持ってきた。
「ストールを巻きますか?」
「変じゃないか?空調が効いてる室内でストールなんて。」「熱がでていたのですから。それにその証人のアメリカ様もいますし。」
悩みに悩んだが、結局ストールを巻くことにした。これは菊に相談案件だな。
会議場につくとほぼ揃っていたがこの前のような空気が固まる迎えではなかった。まず話しかけてきたのはポルトガルである。
「あれ?アーサー何巻いてんの」「ストールだよ」
「風邪引いたん?最近イギリス王室のニュース聞いたで。大変らしいな!笑笑」「うるせぇ!」
とりあえず違和感はなかったよう。座る席は州ごとかつ、来た順なので今日は隣にポルトガル、アントーニョがきて後ろにオランダがいた。
「,,,,髭野郎来てねぇのか?」
「あーそうやな。まだ見てへんわ」
「途中ベルと会うて喋りよったで遅れてくるんちゃうか。」「オランダ。」
「えー珍し!お前喋ってんの久しぶりに見たわ!」
「この前、俺前出とったやろ。」
「あっ確かに」
グダグダ喋っているとフランシスとベルギーが同時に入ってきた。その後ろに南北イタリア兄弟もいる。ベルギーはオランダを見つけると即座に近寄ってきた。そして自分の髪を指さしながら、
「あっお兄ちゃん!見てやこれ!フランスさんが整えてくれたんやで!」
フワフワと巻いた髪を見せてくる。確かにいつものをアレンジしていると見える。
「あぁせやな。はよ座れ」「冷たいわ!!」
そしてアントーニョの隣にフランシスが座った。目が合ったが元に戻され少し気まづくなった。
会議は滞りなく進み、一時休憩まで入った。今のうちに日本に話しておこうと席を立つとフランシスが近寄ってくる。
「,,,,アーサー。もし俺の話を聞いてくれるんなら着いてこい。前みたいに強引に連れていくことはしない。」
先にスタスタと会場を出ていく。ポルトガル不安そうな目で見てくるが、一応聞いておこうと思いついて行く。「,,,,,,まぁ暇だし行ってやるよ」
「,,,,なあなあ。やっぱしアーサー体調悪いんやろか?」「さぁぁな?俺は気にならへんわ」
ポルトガルにコソコソ言われたが、アントーニョは根を持ったように口調を変えず、ひねくれた返事を返した。
「ちょアントーニョさ?もうそろ水に流そーや」
アントーニョは内職に集中しながら返答する。
「絶ッ対イヤや!誰があんなやつの味方するか!」
「もー、、、」
不意にオランダがスッと立つ。ベルギーが遠くからハンガリーの化身、エリザベータに呼ばれていたのを見たから席を譲ったのかそれは知らないが
「タバコ吸いに行ってくる」
といい、出ていった。
「,,,,で?話ってなんだよ」
自販機が2つある少し暗い場所で落ち合った。椅子がひとつあったので自分だけ座らせてもらっている。フランシスは腕を組ながら下を向く。
「,,,,アーサー。俺はどうすればいい?」
「は?」
「何がどうか分からないんだよ俺も。この前アーサーを攻めた時から夢に『あの子』が出てくるようになった。」
「ジャンヌ,,,,ダルクか?」
「,,,,それも後ろ姿でしか。」
フランシスが近寄ってくる。
「独立戦争後かなぁお前とああいう関係を持ち始めたのは。最近の調子はどう?アルフレッドと」
「,,,,どうしたお前?」
フランシスの顔が青白くなっていくのを感じる。
「,,,,俺はずっとお前のことが、、、、」
言葉が詰まったのか空気が止まる。
「フランシス。簡潔に話せ。お前は俺をどうしたい?」
こんなフランシスを見たのは初めてではない。フランシスはよくおちゃらけているが、昔、王家を守れなかったということはまだ心の奥底で後悔しているはずだ。あの時も意識が混濁していて目の前に敵がいるのに言葉が簡潔になっていなかった。
「お前は俺とアルフレッドどっちが大切なんだ?」
「え,,,,?」
「俺もあいつも結局お前が好きなんだよ恋愛的な、性的な。平等にきめれたらそりゃそれでいいけどそんなことできるはずもない。」
思わず下を向いてしまう。そこで両手で自分の二の腕を掴まれた。
「,,,,頼むよ。落とすなら落とすで、、、」
発言しようとした時左肩がズキっと痛んだ。
「うっ、、、っ」「アーサー?」
掴まれた手を振り払い肩を抑える。
「,,,,まだ痛んでんのか?」
「アーサー、」
フランシスが触ろうとした時ひょこっとオランダが出てきた。
「すまん通らせておくんね」
「え?あ、ああ。」
「,,,,,あぁお気になさらず続けておくんね」
「いや無理だろ!」
その時、ストールが滑り落ちた。拾おうとしてしゃがんだ時、吐き気がして動けなくなった。
「アーサー?どうした」
フランシスが顔を覗き込もうとする。オランダもまだいるはず。するとひとつの足音が聞こえてきた。
「,,,,え?なんですかこの状況。」「き、菊,,,,」
オランダがいることに動揺していたが、察するように、すぐ菊は近寄ってきた。
「アーサーさん?,,,,1度座りましょう。フランシスさん。抱えられますか」「任せて」
菊も分かったのだろうか。もう隠せないという状況に、少し顔を濁す。
「菊ちゃん。何か知ってるんでしょ」
「,,,,」
黙っていると、明るい声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん!そっちタバコあった,,,,て何があってんこれ!」
「あぁ、もう,,,,」
「え?あれこれうち来たらあかんかった?」
「アーサーさん、」
菊がこちらを見る。もう覚悟を決めなければならない。意を決して前を向く。
「,,,,ここに居るやつ全員来月の世界会議前俺の屋敷に来い。事情を話してやる。」
「え?うちもおってええの?」「あぁ。」
オランダとベルギーが目を合わせる。
「そんじゃルクセンも連れていくな!」「え?」
「休憩終わるけ、もう帰るやざ。」
あの三兄弟がセットでくるというのに予想外で思わず口が空いたが、気を取り直して次はフランシスの目を見る。この前の目とは違ってまっすぐいつもの目をしていた。
「フランシスは、マシューも連れてきてくれ。アルフレッドには知らせるな。」
「,,,,マシューにも?」「ああ。」
マシューはカナダの化身である。
「菊。それでいいな。」
「,,,,決めるのはアーサーさんです。」
空気が落ち着き、菊がそれでは帰りましょうと言う。その声に従って菊を先頭に歩き出した。するとフランシスがこちらを向き、手招きする。近くに行った瞬間、お姫様抱っこに切り替えられた。
「ちょ!お前,,,,」
「体調悪いんだろ。任せとけって」
会議室前で降ろされ、フランシスは再度目を見つめてきた。
「,,,,,絶対話せよ」
「ああ。」
入るタイミングをずらそうというのと、少し菊と話したいがために廊下に残った。
「菊。」
話しかけたが、反応がなくボーッとしている。
「菊?」 「あっ,,,,はい!どうされましたか?」
「い、いや,,,,今日もこの後屋敷来れるかとか」
「あぁはい。ですが少し今日は話したい御国がいるのであとからタクシーを拾っていきます」
「悪いな。菊も忙しいのに」
「いえ」
見間違えだと思っていた。
あれだけ菊が動揺する仕草を見せたことはWW2以来、見たことがなかったから。
コメント
3件
ほんっとっうに楽しみです!めちゃどハマりしてます!