ん?なんだそれ。
仕事以外でどこで会うというのか。
全然思い当たらなくて必死に思い返していると・・・。
「・・・なら、試してみる?」
そっと耳元に顔を近づけて、そっと色気を含みながら囁かれたその言葉。
!!!!!?????
えっ!?えっ!?
ちょっと待って!!
確かに聞き覚えのあるその言葉・・・。
いや、まさかね。
まさか、そんなこんな場所でとか。
ありえないんですけど。
ようやくそうであろう記憶と一致させて恐る恐る顔を上げて、その顔をちゃんと見ると・・・。
・・・ホントだ。
あの時の彼だ。
今はスーツも着てるし、服装はもちろん髪型とか雰囲気とか少し違ってわかんなかったけど。
まさかこんなとこにいるとは思ってもいなかったから、当然あの時の記憶とも一致しなかった。
でも、確かに。
よく見ると、この綺麗な顔立ち、この色気と怪しげな雰囲気。
確かにあの時の彼が、今目の前にいて。
驚いて言葉を失くしている私を見ながら、面白そうに怪しく笑っている。
「ようやく気付いた?」
「えっ? まさか。なんで・・」
私は変わらず驚きすぎて言葉が出て来なくて。
「ほら。また会えた。あの時言ったでしょ。次会えたらって」
うん。言った。
言ったけど。
まさかホントにまた次があるとは思わないし。
そしてここ会社なんですけど。
まさか会社でまた会うとか、やっぱりありえないんですけど。
「いや、ホントにまた会うなんて思ってないでしょ。そもそも同じ会社だなんて思ってもなかったし」
「そうなんだ? 寂しいな~。期待して待ってくれてると思ってたのに」
すると、今度は無邪気に可愛くそんな言葉を呟く。
「あんなのあの時の流れで会話してただけだから本気じゃないし」
「・・・本気じゃないの・・・?」
そう告げると今度は急に真剣な顔をして、いきなり私の顔を覗き込むように間近に顔を近づけて、静かに少し冷めたように問いかけて来る。
「本気も何も・・・」
1つ1つの言葉でコロコロと表情や雰囲気が変わる目の前のこの彼に、正直戸惑ってる自分がいて。
「何?本気も何も?どうなの?」
そして今度は強気でまた顔も身体も近づけて詰め寄って来る。
「いや・・だから・・」
私はその迫力に負けそうになって思わずたじろぐ。
そのまま詰め寄られて行き場所が無くなり、壁越しにじりじりと追いやられたのと同時に。
私の顔と身体を捕らえるかのように、壁越しに両手を伸ばされ、それ以上動けなくされる。
「わ、忘れてはいないけど・・・。ってかここ会社。誰か来たらどうすんの!?」
私は次々出されるその言葉や行動にどんどん耐えられなくなってきて、思わずこの現状から逃れようと声をかける。
「大丈夫。ここはほとんど誰も来ることないから」
普段滅多に来ないフロアなだけに、自分的にもどんな状況の場所なのかわからなくて、その言葉通りなら何も出来ない。
「そんな心配しなくていい。 誰も邪魔させない」
どんどん出てくる言葉に胸の高鳴りが止まらないし、会社で朝からこんな状況。
久々・・いや、こんな露骨な色気ある状況は初めてなだけに、思考がついていかない。
こんな時、どんな言葉が正解?
黙ってこの視線を見つめてれば正解?
それとも自分も同じように色気ある言葉を返すのが正解?
あ~随分こんなことから遠ざかってただけに全然わからない!
いや、そもそもここ会社だし、今のこの状況自体おかしいでしょ。
年齢と経験を重ねてたって、いざこんな状況に陥ったら何も出来ない。
余裕ぶって交わすこと出来るはずなのに。
なぜかいつもと違ってこの人のこの雰囲気に持ってかれそうになって、思うようにあしらうことが出来ない。
なんなんだろう。この感覚。
「透子・・・って呼んでいい?」
!!!!???
は!!??
急に下の名前を呼ばれて心臓が飛び跳ねる。
「な!何!急に!?」
ダメだ。どんどん思考がついていかなくなる。
「呼んでい? ダメ?」
するとまた今度は子犬のように可愛く甘えたような表情と声で惑わされる。
ちょっと待って。なんなの、この展開。
どれだけの顔持ってんの、この人。
初めて経験するこんな状況と目の前の掴みどころのないいくつもの惑わせる顔を持つこの人に。
戸惑いながらも引き込まれていってるのは、胸がドキドキしすぎているのは、確かで。
「な、何で私の名前・・・下の名前まで知ってんの!?」
「もちろん知ってるよ。望月、透子」
真っ直ぐ見つめながら呼ばれるのがくすぐったすぎて。
「私。あなたのこと、何も知らない・・・」
そう。なぜか知っている私の名前。
だけど私は、この人の早瀬って名前だけしか知らない。
しかも、数分前に部長に知らされて知ったばっかりの覚えたて。
いくら考えてもこのよくわからない噛み合わない状況が理解出来ない。
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