テラーノベル
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あれからカグアは上機嫌に、書庫で魔術書をめくっていた。まさかこんなにも早く、裏切りのチャンスが訪れようとは。今ならこの姿を使って、屋敷の者共を騙し、アステルの敵に回すことも容易である。
(ヘッヘッヘ⋯⋯。油断しやがって。もうこんな自由が貰えちまうとはな。余程信頼されているのか、ただの考え無しなのか⋯⋯とにかく、あのガキが出かけてる間に、この屋敷を乗っ取ってやるぜ!)
そうと決まれば、早速行動開始である。パタンと魔術書を閉じて、立ち上がった⋯⋯のだが、何かが頭にぶつかり、背筋を伸ばすことができない。振り返って半歩下がると、それは女性の胸であることがわかった。
まさか⋯⋯。
「見つけましたよ。アステル様」
「クラ⋯⋯リス」
エナに吹き飛ばされた俺は、そのまま『氷鏡界』を自身の周りに展開しながら思案する。
あのアークウィッチは、恐らくはぐれ者だろう。ダンジョンから生まれた魔物ではなく、外にいた魔物が棲み着いたケース。普通の魔物のように、森を徘徊して食料を探し回るよりも、食料の方から来てくれるダンジョンで暮らした方が生きやすいことに、あのアークウィッチは気づいたのだろうか。
だとしたら、かなり知能が高いはず。エナは強がっていたが、さすがに助けに戻ったほうがいいだろうな。
俺は氷壁の幅を広くして、ダンジョンの壁に突き刺し、急停止する。急がなければならない。再び『瞬歩』を使い、エナのところへ戻ろうとした時だった。脳に僅かな電流が走り、『念話』が繋がる。
《なんだ、カグアか? 悪い、今忙しいから、もう少し時間が経ってから連絡して⋯⋯》
《た⋯⋯けて》
《ん? 何て?》
《⋯⋯助け⋯⋯て、早く⋯⋯帰ってきて⋯⋯!》
《え⋯⋯?》
エナは距離を取りつつ、アークウィッチに必死で立ち向かっていた。しかし、武術家と魔術師では、相性が悪すぎる。エナの使っている短弓は、大型の弓よりも射程が短く、威力も低い。中距離での速射性を重視した武器なのだ。こうなればもう、あとは時間を稼ぐしかなかった。
「流水武──『蒼牙弦』!」
水流を牙のように一点へ収束させるイメージで作る、鋭い射撃。
しかし、アークウィッチの肉体を貫くことはできなかった。
「コイツッ、かたっ⋯⋯!」
先程から有効打になる攻撃はないかと、手探りしているが、一向に状況は変わらない。技の使いすぎで、疲労もかなり溜まってきていた。もう、ダメかもしれない。
「本当に悪い知らせね! アークウィッチなんて、A級冒険者でやっとの相手なのよさ! それがどうして、こんな低レベルなダンジョンに⋯⋯」
愚痴をこぼしながら、エナは新たに矢をつがえる。残りの本数も少なくなってきた。次で決めなければ、後がない。
(そろそろ、アルカスはもう外に出られたはずなのよさ⋯⋯あたしも隙を見て、ここから脱出を⋯⋯)
「『巡息術』⋯⋯か」
(しゃべっ⋯⋯!)
まさかの悲報。喋れるということは、知能があるということ。そして、知能がある魔物は、強い。冒険者協会においての、常識のようなものだった。これでは恐らく、隙も生まれない。
「以前食った奴にもいたな⋯⋯魔術師であるオレには必要のないものだったが⋯⋯。所詮は魔力の少ない人間が編み出した、下等技術といったところか⋯⋯」
エナは静かにその話を聞く。最初は相手の攻撃が止まり、小休憩になると考えたが、聞き捨てならない言葉を耳にし、額に青筋を浮かべていた。
「お前よりも⋯⋯あの魔術師の方が興味ある⋯⋯お前は食うにも値しない⋯⋯だから、まぁ⋯⋯」
「だから? そんなの関係ない⋯⋯あたしはできることをするだけなのよさ。この国じゃ田舎者扱いされる『巡息術』を、アルカスは褒めてくれた⋯⋯正直、嬉しかったのよね⋯⋯だぁかぁらぁ!」
エナは凛とした目で、真っ直ぐにアークウィッチを見据える。もう、迷いは無かった。殴って、蹴って、射抜く猛攻。しかしそれは、アークウィッチが展開する『氷鏡界』を貫くことは叶わない。
「硬くて効かない? 甘えんなよ、エナ!」
だから、自分を鼓舞してひたすらに立ち向かう。
「こちとらアホみたいに修行重ねてきてるっつーの! 嵐の日でも、的に当たらなくても、矢ぁ撃ってバカみてぇにぃ! っだから⋯⋯!」
──流水武──『雷走衝』×『蒼牙弦』
アークウィッチの肉体の一部が壊れた。
「舐めんなって⋯⋯ことなのよさ⋯⋯!」
ドサリとエナは崩れ落ちる。
(渾身の⋯⋯合わせ技でも⋯⋯コイツを倒せない⋯⋯! ヤバい⋯⋯もう使い切ったのよさ⋯⋯!)
「やはり、この程度だったな⋯⋯まぁ、『巡息術』でオレに傷を付けたのはお前が初めてだ。誇っていいぞ」
『疾刃』──
禍々しい黒色をした風の刃が、エナに向かって飛んでいく。しかし、その刃がエナに届くことはなかった。
氷属性上位魔術──『氷鏡界』──
「なんだ、エナ⋯⋯もう諦めちゃうのか? まぁいい。今は急いでる」
「アルカス⋯⋯何で戻ってきて⋯⋯!?」
──遊ぼうか。
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花月夜れん
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柴田
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#バイオハザード
そまもんた@ペア画募集
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コメント
1件
おおっ、第8話読んだぜ!アークウィッチ戦でのエナの奮闘、めっちゃ熱かったわ。「巡息術」を褒めてくれたアルカスの言葉がエナの原動力になってる感じがして、グッときた。そして最後の「遊ぼうか。」からのアルカス登場!タイミング完璧すぎるだろ!カグアの裏切り計画も気になるし、続きが待ちきれねえ🔥 蒼依ジンさん、今回も最高でした!