放課後の昇降口。今日は隼人が部活のない日で、大地は当然のように待ち伏せしていた。
「よっ、隼人!今日もナビよろしく!」
「……またかよ」
「迷子スキルに自信あるんだよな、オレ」
「自慢すんな」
ぶつぶつ言いながらも、結局並んで歩き出す。
周囲からすれば「転校生がクラスの中心人物に食い込んでいる」という珍しい光景だった。
信号待ちの横断歩道で、大地が小さな子どもを見つけた。
ランドセルが大きすぎて、転びそうになっている。
「あっぶなっ!」
大地はすぐに駆け寄り、子どものランドセルを支えてやった。
「大丈夫か?転んだらランドセルに勝手に歩かされるぞー!」
冗談めかして笑わせると、子どもは照れくさそうに笑い返した。
「はい、青になったぞ。気をつけて帰れよ!」
軽く手を振る大地に、子どもは元気よく「ありがとう!」と返して駆けていった。
その一部始終を見ていた隼人は、思わず黙り込む。
「……なに?」
「いや。おまえ、ほんとに人に懐かれるよな」
「そ、そうか?ただのノリだって」
「ノリでああいうこと、普通はできねぇよ」
隼人の声は低い。けれど、その奥に小さな戸惑いが混じっていた。
自分が子どもに声をかけることなんて、まずない。
なのに大地は自然にやって、しかも嫌味なく笑いに変える。
(……なんでこいつ、こんなに眩しいんだ)
胸の奥でざわつく気持ちに、隼人自身が驚いていた。
「よし、次は隼人を助ける番だな!」
「は?」
「おまえ、オレにいじめられて困ってるからな!」
「逆だろ!」
「アハハ!いいじゃん、ほら今日も笑った笑った!」
大地が軽口を叩くたびに、隼人はツッコミを入れながらも――
ふと、相手の笑顔を直視できない自分に気づいてしまう。
(……クソ、なんなんだよ、これ)
その日、隼人は眠るまでずっと胸のざわめきを抱えていた。
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