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「じゃあ、ここで二手に別れよう」
門扉まで戻った時、ロットが言った。
「Aコパ君チームは東方にあるクエスト樹を、Cコパ君チームはこの一帯の西方にあるクエスト樹を攻略していくんだ」
「なんで僕がリーダーみたいになってるんだい」
「なんか二人ともしっかりしていて、みんなを引っ張っていくように見えたからかな」
「……間違ってはないね」
Aコパ君率いるチームとCコパ君率いるチームは、ロットの提案通りそれぞれクエスト樹を攻略していくことにした。
Bコパ君が手を振りながら、Aコバ君チームはその姿を小さくしていった。
やがて姿が見えなくなると、Cコパ君が後ろを振り返りながら言った。
「ちょうど近くにそのクエスト樹はあるみたいだ。あの一際大きな樹がそうだろう?」
「ああ。確かにあれはクエスト樹だ」
ロットが頷く。
「じゃあ、早速僕たちも攻略と行こうじゃないか」
「え、いきなり行くのか?」
「なに? 問題があるのかい」
「いや、いいけど、クエスト樹には番人が存在するんだよ。その番人が出す謎はとても難しいらしく、一筋縄ではいかないらしいぞ」
「難しい、ねえ」
Cコパ君は薄笑いを浮かべる。
その笑みには何か余裕を感じさせるものがあった。
「所長は確かにとても厄介だ。あの人を謎とするなら、とてもじゃないが解くことはできない。しかし、謎解きは謎解き。一応、他者が解ける前提に翻訳された形式。つまり、それとこれとは訳が違う。それに、僕たちのパーティを見てご覧」
「ん?」
「正統分析の僕に、特殊分析のDコパ君、さらに解析班のEコパ君という、コパ君たちの中でも粒揃いのエキスパートが揃っている。謎解きが難しくても、分析や解析の前で明るみにならないことはない」
Cコパ君は単に虚勢を張っているのではなかった。事実として、Cコパ君チームは総合ステータスがとても高い編成なのだった。
「へえ。それは頼りになるなあ」
ロットは感心したように言った。
Dコパ君が発言する。
「まあ、とにかくその所長が考えたという謎を解きに行こうよ。まったく、この前のイタコ騒動みたいに無茶振りじゃなければいいけど」
「イタコ騒動?」
「こっちの話」
Cコパ君たちは第一のクエスト樹へ歩き出した。
道は平坦で空気は澄んでいる。緑が一面に広がった光景に、鳥の囀りが聞こえる。
Eコパ君が暇つぶしに空気質を分析しているときだった。
突然、目の前に何かが飛び出してきた。
「ギエエエエエ」
「これがモンスターというやつか!」
見ると、尖った耳に紫色の体色といった見るからに魔物の見た目をしていた。
モンスターはこちらに近付くと、攻撃を仕掛けようとしてきた。
狙いはロットだった。
そして、それと同時に目の前にこんな表示が出た。
問題
あ行の上から二番目は何?
ロットは慌てて答える。
「う!」
ブブーという音が鳴り響き、モンスターはロットに向けて爪で引っ掻いた。
「うわあっ!」
ウィンドウにこんな文字が表示される。
ロットは3のダメージを受けた!
「何やってんのさ……」
コパ君たちが呆れ気味に見ていると、意地になったロットがよろめきつつ立ち向かう。
「こ、この野郎!」
ロットはウィンドウを開き、何やら操作して選択する。
そして、モンスターに向けて攻撃を仕掛けた。
「うおおおおおお」
雄叫びをあげたかと思うと、ロットは加速して剣を振るった。
「答えは「い」だ! 食らえ! カマオーハオレスペシャルアタック!!」
ロットはMPを10消費して、スペシャルアタックを使用した!
ロットはモンスターAに36のダメージを与えた!
モンスターAを倒した!
「ギャアアアアア』
モンスターは粒子となって消えていく。
ピロリーンという戦闘終了の音が鳴り、辺りは静かになった。
息を切らしたロットが後ろを振り返って言った。
「まあ、こんなもんよ。コパ君たちも俺について……って、おい!」
ロットが見る先には、三人で議論しながらさっさと歩いていくコパ君たちの姿があった。
小走りに追いつき、ロットは叫ぶ。
「俺の必殺技見てなかったの!? 結構、カッコよかったよ!!」
「見てたよ。必殺技という概念があるんだね。戦闘時にこのウィンドウで選べる訳だ。しかし、MPという有限のステータスが存在する。必殺技の使用にはMPの消費が必須であり、となると、使用には見極めが必要で、その見極めについて議論をしなければ……」
ロットは口をあんぐり開けた。
そして、思った。
「分析・解析班ってこういうことなのか」
ロットがしょんぼりして付いていくと、またモンスターが現れた、
ロットは身構える。
「よし。俺がやる!」
「ギエエエエエ!」
問題
上り坂と下り坂はどっちが多い?
「え、ええと」
「同じ」
「ギャアアアアア!!」
「え?」
モンスターBを倒した!
見ると、ロットが動き出す前にCコパ君はすでに魔物を倒していた。
ウィンドウ操作も手慣れた手つきで、先ほどのロットの戦いを見て学習済みらしかった。
呆気に取られてロットが見つめる。
Dコパ君がCコパ君に言った。
「うん。やはり雑魚敵には通常攻撃で十分だ。ステータス画面を確認すると、僕たちはまだレベル1みたいだけど、十分通用するよ」
「番人の推奨レベルはどれくらいだろう?」
「恐らく、僕たちの場合、いきなり挑んでも問題ないと思う。雑魚敵の問題水準から判断して、それほど難しく設定されていないみたいだ」
三人が口々に話し合う。
ロットはこの先、色々な意味で不安になってしまった。
まだ、クエスト樹は先だった。
「ギャアアアアア!!」
モンスターAを倒した!
「……君たち、凄いな」
「なにが?」
「いや、こんなに早く適応するなんて、俺より勇者向いてる気がするよ」
「勇者は向かないよ。それは、君が一番適任だ」
「適任……」
Aコパ君チームは、Cコパ君チーム同様に道中の雑魚敵を狩りまくっていた。
謎を提示された瞬間に即答する……という流れがお決まりで、少しの躊躇もそこにはみられなかった。
Bコパ君がウィンドウを開く。
「ああ、もうAコパ君が11レベル、僕が3レベル、Fコパ君が4レベルになってるよ」
「君たち、もはや早押しで問題を取り合ってるくらいだもんなあ」
ロットが呆れ気味にいう。
「そうだね。そっちの方がゲーム性があって面白いよ」
「楽しみ方が違うだろ……」
「それより、あれは?」
「ん?」
「あの大きい木、もしかしてクエスト樹じゃない?」
「ああ! もう辿り着いたみたいだ」
そこには、周囲の木々より一際大きな大木が立っていた。見ると、その木に一つ輝くような果実が実っている。
「あれが、噂の果実だね。あの果実を中央の知恵の大木に捧げればいいわけだ」
「あ、ちょっと待て」
Bコパ君が走り出す。
クエスト樹まで一目散に駆けていき、その果実を仰ぎ見た瞬間。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「な、なに?」
「これは!」
地面が震え、空が黒い雲で覆われていく。
テクスチャが乱れ、その光景がみるみる変わっていった。
辺りは明るい緑に覆われた世界ではなくなった、
深い森の中のような薄暗さになり、植物がドーム状にコパ君たちを覆った。
逃げ場がなくなったコパ君たちの前に、低い声が響いた。
「我ノ眠リヲ妨ゲルノハ誰ダ」
そして、地面からズズズとゆっくり浮かび上がってきたのは、体長6メートルはあろうかと思われる化け物だった。
化け物は、薄汚い賢者を思わせるローブを羽織り、顔や体に至るまで全身が木でできていた。
目が赤く光り、こちらをじっと見つめる。
その目に射竦められたBコパ君は後退りし、ロットはわなわなと震え出した。
化け物はゆっくりと前に進み出る。
一歩進むごとに、鳥肌が立ちそうな木々のギィギィという軋む音がした。
そして、化け物はコパ君たちの前に来ると、腹の底から震えるような声で言った。
「貴様タチハ魔王様ノ敵カ?」
「味方です味方です! 魔王様バンザーイ!」
「ロット!?」
ロットが早口で言った。
コパ君たちは呆れて何も言えなかった。
しかし、ロットは止まらない。
「いやあ、俺たちも不届者がいないか見て回ってたんですよねえ。クエスト樹を狙う輩がいたら成敗してやろうと思って! しっかし、最近は不景気ですなあ。こうして回っても、収穫ゼロで仕方ない。いやあ、まったく困った困った」
「ン? 貴様……」
その時、化け物がロットの顔の辺りを注視したかと思うと、しばらく固まった。
そして、ふっと笑ったかと思うと、コパ君たちに向き直りいった。
「無駄話ハ無用ダ。クエスト樹ニ実ル果実ヲ狙ッテイルノハ分カッテイル。サア、カカッテクルガヨイ」
「じゃあ、さっさと攻撃でも仕掛けてきなよ」
Aコパ君が前に進み出た。
ロットが慌てて制止する。
「バカ! 明らかにこれまでとは違うヤバいボスだ! そんな軽口きいたら……」
「構造的にこの状況で下がっても何も変わらない。それに、僕たちに解けない謎はない」
Aコパ君は毅然と言った。
その言葉に何も言い返せなかったロットだが、目の前に現れたボスはそれを聞いて笑った。
「フハハハハハ! 面白イ。シカシ、今ノ貴様ラノレベルデハ、我ノ攻撃ヲ一発デモ受ケレバ即ゲームオーバーダ。ソノ瀬戸際、貴様ハ踏ン張レルトイウノカ」
「君はゲーム開始時の地点からそう離れていない位置にいるボス。つまり、序盤のボスだ。そしてこの世界の核ルール①「このゲームはクリア可能である」という原則に照らせば、僕が謎を解くのは構造的必然」
「シカシ、貴様ゴトキデハ私ニハカテナイ。言葉ヲ借リルナラ、ソレモマタ構造的必然ダ」
「無駄口は無用なんじゃなかったかい? さっさとかかってきたらどうかな」
「フッ。イイダロウ。デハ、死ネ!」
化け物は何かを唱えたかと思うと、緑色のオーラが現れ始め、Aコパ君に向けて手を翳した。
その瞬間、手から緑の光線が飛び出してくる。
凄まじい速度だった。
そして、その光線の先に問題が提示されていた。
……が、Aコパくんに直撃するのは時間の問題だった。
なぜなら、Aコパくん以外があっと思った時には、その光線は目の前まで到達していた。
光線が放たれてからその間、0.2秒。
Aコパくんは0.1秒を使ってその問題を視認した。
1+2=?問題
問題 「?」に入る数字は?
1+2=?
①入れ替えるのは二つだけ
②それ以外は何もしてはならない
③ただし、境界を越えなければならず、その時オーラは姿を変える
④答えは正のオーラを放っている
「死ネェッ!」
化け物が叫んだ時だった。
Aコパ君は、真顔でただこう言った。
「3」
Aコパ君は緑の番人に99999のダメージを与えた!
「グオオオオオオオオオオ!」
化け物は苦悶の叫びをあげ、バラバラと粒子に変換されて消えてしまった。
空が明るくなり、周りを囲んでいた植物はなくなった。
辺りは静かな元の緑の光景に戻った。
そして、クエスト樹からコロコロと果実が転がり落ちてきた。
Aコパ君は歩き、その果実を拾った。
呆気に取られた一同がその様子を見守り、何もいうことができなかった。
最初に発言したのはBコパ君である。
「え、Aコパ君。今、問題見えたかい?」
「見えたよ」
「僕もギリギリ見えた。でも、とてもじゃないけどあんな速度で……解けなかった」
「慣れだね」
「な、慣れ?」
「普段から思考していれば、難儀な謎だって、解けるものだよ。まあ、さっきのは簡単すぎたけどね」
Aコパ君は澄まし顔で言った。
ロットが慌てて聞く。
「俺にはなんて書いてあったのかすら見えなかった。君は、何をどうやって解いたんだ?」
Aコパ君は問題文と条件をみんなに話してから説明し出した。
「鍵となるのは、”オーラの正体”だ。これを解くためのヒントが、条件④に隠されていた。それは、「正のオーラ」というもの。「正のオーラ」とは何か? これを考えるには、問題文の性質と接続しなければならない。すると、自ずとこれは”符号”であることが分かる。「正」や「負」というのは、数式において「+」や「-」のことだ。ここまで分かると、あとは簡単だ」
「まだ、分からないんだけど……」
「条件①と③を整合させてみるといい。①は「入れ替えるのは二つだけ」。言い換えれば、”絶対に二つ入れ替えなければならない”ということ。そして、③の境界は「=(イコール)」であることは自明だ。すると、これは数学で言う移項のことを指す。 移項は、正負の符号が変わる法則があるのは知ってるよね? すると、数式はこう整理できる。
1-?=-2 または、 -?+2=-1
よって、 ?=3 。
よって、答えは「3」だ」。QED(証明終了)」
Aコパ君以外の全員が黙り込んでしまった。
本当に、彼は0.1秒の間に解いてしまったというのか?
ロットがおずおずと尋ねた。
「ええと、それで、とてつもないダメージが出ていたような気がするんだけど、あれは一体……?」
「恐らく、あのボスにとって核となる問題だったのだと思う。それを解かれると、存在を維持できなくなるんじゃないかな」
「な、なるほど……」
「さて、果実も一つ手に入ったことだし、次のクエスト樹に行こうか」
Aコパ君はさっさと歩き出す。
みんなは慌ててついていった。
そして、全員がこう思った。
「Aコパ君一人で良かったんじゃないか?」
その頃、Cコパ君チームは苦戦していた。
クエスト樹の番人は余裕の笑みを浮かべて問題を出し続ける。
Cコパ君は言った。
「ああ、しつこい! 問題に集中できないじゃないか!」
「苦シメ苦シメ。モットソノ顔ヲミセロ」
「これが無ければすぐ解けるのに!」
C、D、Eコパ君たちは攻撃をいなし続けていた。
その問題は雑魚敵と変わらないレベルの問題。しかし、コパ君たちにとっては脅威だった。
軽負荷の問題を連続で出し続けられながらそれを解きつつ、複雑な処理が必要な問題にかかるのは至難の業だったのだ。
ロットは言った。
「くっ! 数が多すぎる! なんで手強いんだ!」
「いや、君何もしてないでしょ」
「あ、バレてる!!」
ロットは棒立ちでその場にいた。
自分が完全に戦力外であることが分かっていたからだ。
いま、コパ君たちが高速で解き続けているレベルの問題ですらロットには難問だ。
完全に脇役だった。
……脇役。
「俺は、脇役なのか?」
ロットは考えた。
そして。
ロットは、その言葉にどす黒い感情を覚えた。