フウは僕を強く抱きしめてしきりに「ゴメンねゴメンね」と言っている。
エンはやはりおどおどした、ゆるふわ美女で彼女もまた、「酷いこと言ってごごごごめんなさいぃ」って。
ガイは髪のない頭をぽりぽり掻きながら「ずっとニトは元気かなあって言ってたもんなっ」て微笑ましく見ている。
マリアは「これでまたニトのご飯が食べられるのね、干し肉生活は辛かったわ」と、相変わらずマイペース。
ケンは爽やかな笑顔で「約束通り飯を食いに来たぜ!」なんて言っている。
そう約束。今の今までそれを約束だなんて思えなかったけど、あのとき僕が冒険者を“やろうとしないよう”に装備を取り上げて、開店資金と口にして渡してきたお金は、その記憶から何となく新しい装備を買うのには手をつけてなかった。そして、料理人でもしてろ、と。店出したら顔くらい出してやると。
なんだ、僕はこんなにも想われていたんじゃないか。
雑用係なんてしてまで惨めに付いてくるパーティ最強火力のフウの幼馴染はどれほどに彼らに罪悪感を押し付けていただろうか。
このままズルズルいけば死なせてしまう不安が現実味を帯びてきた頃、彼らは僕を死なせないために自ら悪役をやってくれた。
さらには僕が他所でも加入しないように根回ししてまで。元パーティメンバーを悪く言って回るなんて、きっと楽しい事じゃない。
「僕こそ、ゴメンよ、ゴメンよ……」
「ニトは悪くないよ〜ゴメンねゴメンねぇ」
「このカップルは本当に仲良しよね」
カップル⁉︎
「そうだな、この辺の冒険者たちのアイドルにはすでに想い人がいたんだから。ニトがパーティにいた頃もどれだけの奴がフウに振られたか」
「あ、あれですよね? わたしには大好きな幼馴染がいるんだからって! 前のパーティの人も1人そう言われたって言って悔し泣きしてましたよ」
え、なにそれ⁉︎ 聞いてないそんなの!
「ああ、ケンも出会った時に瞬殺されたあれか。お嫁さんに行くところはもう決めてるからってな」
えっ、えぇっ⁉︎
「そう。美味しいご飯作れる旦那さん欲しかったのに、フウ相手じゃ勝てないわ」
マリアルートもあった⁉︎
ぎゅっと僕を抱きしめる力が強くなって、フウは泣きはらした目で僕を見上げる。
「ニト、酷い事いったけど、勝手な事だけれど──やっと攻略が終わったんだ。それで、ね? ……わたしをニトのお嫁さんにしてくれないかな?」
僕をこんなに大事にしてくれる。これほどに想ってくれる。そう仕向けられたとはいえ、誤解しっぱなしで連絡もとらないで放ったらかしにした最低の幼馴染なのに、僕のアイドルはそれでもずっと、いつからかは分からないずっと前から好きなままで居てくれたんだ。
僕は今度こそ間違えない。これにはノーなんて返事はあり得ない。そしてフウに返す相応しい言葉があるはずだ。
「僕のお嫁さんになってくれるなら、その有り難みはもうずっと感謝してもしきれないよ。僕からも申し込ませて欲しい」
少しだけ。ほんの少し覚悟を上乗せしたい。僕の産毛ほどのバフで構わない。その言葉は流れで言うには大事すぎる言葉。
「──僕の、お嫁さんになって下さい」
「はい、おまちどうさま!」
そう──僕も、彼女も。かねてよりお待ちかねである。
すれ違った心と2人の人生は、彼女の想い続けて成した道と、僕のひねくれた性根が歩んだ道とが出会ってどうにか合流できたようだ。この道の先は長く見通せはしないけれど、これからはきっと真っ直ぐの一本道に違いない。
「やっぱりニトのカルボナーラは最高だよ!」
僕は彼女の笑顔を守りたい。そう思うことさえ彼女の想いに護られて居たからこその今がある僕だけど、これからは手を取りお互いに想い合い未来へ繋いでいくことだろう。
そんな僕らの人生でもうお互いを追放する事なんてない。せっかくなので取り合った手はもう離れてしまわないよう、リボンで固結びにして解けないようにしてみようか。
幼馴染の、これからは僕のお嫁さんの笑顔に僕もたまらず笑顔になる。
僕はこの世界で1番の旦那さんになる。もちろんフウのだ。
「ありがとう。愛している」