テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

誰もいないはずの廊下に、低く抑えた笑い声がこだました。


「マジで、日下部が昔やってたことって──アレ、だったんでしょ?」


「知ってる。蓮司から聞いた。遥って、昔から泣き虫だったって」


「ちょっと叩いただけでさ、手で顔隠して、泣いて震えて……そういうの、さ」


「好きなんじゃね? 日下部も」


それを聞いて、日下部の背が、ぴくりと動いた。

彼は倉庫に備品を取りに来ただけだった。

だが、周囲の空気が“囲む”ように変化していることに、すぐに気づいた。


「……何が言いたい」


「いやいや、怖っ。別に言ってないし。ただ、“過去の話”でしょ?」


「俺ら、ちょっと再現してみたかっただけ」


「なあ。あのとき、お前が遥を押し倒して──」


「……やってねぇよ」


瞬間、日下部の声が荒れた。


だが、その声すら、周囲の空気を変えることはなかった。


「じゃあ、やってみせて? やってないって証明するためにさ」


そう言った男子の一人が、日下部の背に手を伸ばす。

制服の肩を掴んで、ふざけるような仕草で押し返す。


「なあ、怒んないでさ。お前ってさ、ちょっと真面目に反応するとこがいいんだよな」


「ほら、顔赤い。マジで図星じゃん」


「今度はこっちの番? 昔の“仕返し”、されちゃう?」


次の瞬間──日下部が相手の胸ぐらを掴んだ。


「……言葉、選べ」


その目は本気だった。

でも、周囲は笑うだけだった。


「やべ、キレたー」


「え、手ぇ出す? 暴力?」


「お前の得意技だもんなー」


そしてそのとき。

一人が、不意に日下部のベルトを掴んだ。

「冗談」と称して、ほんの少しだけ、引っ張った。


──それは決して“本気”ではなかった。

でも、“一線”は確かに、踏み越えられた。


日下部の動きが止まる。


肩が小さく震えた。

殴られたわけでも、倒されたわけでもない。


──ただ、その“意味”が、わかってしまったからだ。


(……俺のせい、か)


(俺が、昔──あんなふうに、遥を……)


(だから、今──俺も……)


胸の奥で、どす黒い何かが、ゆっくりと溶けていく音がした。


「やめろ」


そう言った日下部の声は、どこかで途切れていた。


だがそのとき、遠くから足音が聞こえてきた。


「やっべ、誰か来た!」


男子たちは笑いながら散った。

日下部はその場にひとり残される。


制服の前を、そっと手で押さえながら、立ちすくんだまま。





その少し前──教室


遥は、自分の机に貼られたメモを見下ろしていた。


「お前のせいでまた一人、壊れるね」


その下には、日下部の名前が書かれていた。

文字は雑だった。

それでも、意味はひと目でわかった。


遥は、ゆっくりと指先で紙を丸める。

何も言わない。

けれど──胸の奥で、声がした。


(ああ、まただ)


(あのときも、同じだった)


(おれがそばにいたから、あいつは)


窓の外から、笑い声が聞こえる。

男子たちの声。

誰かの名前が混ざっていた──日下部だった。


遥は立ち上がろうとして──やめた。

足が動かない。


心だけが叫んでいる。


(行けない。行けない)


(おれは、誰かを守る立場になんて……なれない)


──そして、その瞬間。


蓮司の声が、後ろからささやくように響いた。


「ねぇ、遥」


「“自分だけ守られてる”って、どう思う?」


「日下部ってさ、ちゃんと、見てると思うよ。全部」


「誰のせいで、こうなったのかも──ね?」


その声は、笑っていた。





※補足。日下部が遥にしていた加害は暴力が主。性的なことはあまり興味がなくうとい。


性的な加害のニュアンスは蓮司やクラス側による捏造・誘導。

日下部本人はそうした“歪んだ見立て”に強く動揺し、遥に対しての罪悪感が深まる。


蓮司は直接的に手を下さず、男子生徒たちを操り、日下部の過去を「性的なもの」として再構築しようとする。


また、お前か……蓮司……。

この作品はいかがでしたか?

2

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚