テラーノベル
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奴隷商人、バルジウスの邸宅はさながら城塞のようであった。
そびえ立つ外壁には窓がなく、外界から完全に遮断されているし。
正門玄関にかけられたかんぬきは強固で、破城槌でも持ち出さねば破壊できまい。
邸宅の中に入れるのは主人と一部の信用できる奴隷のみ、奴隷を売る為に雇った自由民すら滅多に入ることが許されない。
あちこちから人を拉致し、手当たり次第に売りさばく奴隷商人は恨まれやすい。
バルジウスは物理的な防御でもって、恨みに対抗したというわけだ。
「火事だー! 助けてくれー!!」
「奴隷が、反乱を起こして、火を放ったんだ!!」
叫び声をあげて、自由民たちが邸宅の正門を叩いている。
バルジウスの堅牢な邸宅は彼の大事な物を守っても、どうでもいい配下のことは守ってくれないらしい。
ちなみに、バルジウス配下の自由民によると中には庭園があり。採光の為に中央が吹き抜けになっている。
その下は貯水槽となっており、雨水を溜めているそうだ。
なかなか合理的ないい物件だ。
「水を、水を分けてくれ!! バルジウス、あんたの資産が燃えてるんだぞ!!」
バルジウスの邸宅は土壁と石でできているが、配下の家は木製なのでよく燃える。
そうなれば、配下の者どもが水を欲して正門を叩くのも自然な流れだろう。
しばらくして、奴隷が正門を開ける。
「バルジウス様の許可を得た! 早く水を……」
奴隷はそこまで言って絶命した。
バルジウスの配下たちが怒濤のように押し寄せ、手に持った石で奴隷を殺したのだ。
しばらく無造作に殴り続け、奴隷の死を確認する。
「……」
「…………」
先ほどの喧噪が嘘のように、配下たちは黙る。
まるで何かを待つかのように。
一部の男たちが、無機質な表情のまま燃えさかる家へ戻り、倒壊した家から木材を剥ぎ取っていた男から、火のついた木材を受け取った。
両手一杯に藁を持った数人の男がどこからともなく現れて、バルジウスの邸宅へと走って行く。それを追うように、燃える材木を持つ男も走る。
油壺を持った男もそれに続いた。
「なんだ、お前らどうしたんだ。やめろ、火が、火がーっ!!」
「早く消火しろ! 水だ! 水を持ってこい!!」
「やめろ、それがどれだけ価値のあるものかわかっているのか!!」
おお、見よ。
火の手が上がっている。
バルジウス邸に藁を運び続けるよう命じられた男はきょとんとした顔で踵を返し、次の藁を運ぶ。
邸宅の中の藁に火を付けるよう命じられた男は自分が火だるまになることも厭わず、熱心に仕事を続けるし。
油を撒くよう命じられた男は、燃えさかる邸宅の中で油を探し続ける。
こいつらは奴隷を売ってバルジウスの私腹を肥やしていた奴隷商人どもだったが、今ではオレの奴隷魔法の支配下にある。
本来、奴隷魔法による命令は一度につき一人にしかかけられんが、第四奴隷魔法【絆よ、今ここに集え《ヴィンクラ》】を使えば同時に複数の奴隷を使役することも可能だ。
オレが優雅にバルジウス邸の正門をくぐると、悲壮な声が聞えてきた。
「イップス! 俺だ。俺がわからないのか? 火を付けるのをやめろ!!」
イップスと呼ばれた青年は忘我の顔で放火を続ける。
ちなみに放火し終えたら自害するよう命じてあるので、イップスはもう助からない。
敵地の人間を片っ端から奴隷化すれば、自爆特攻上等の死兵が無数に手に入る。
さらに民家を襲い、奴隷を増やせば、敵戦力を奪いつつ拠点制圧も狙えるだろう。
第四奴隷魔法が流出したと聞いた時はヒヤヒヤしたものだ。
個人が戦争を起こせる魔法など、おぞましいにも程がある。
ダルゴ達に放火させたのは、オレがこいつらを支配する隙を作る為だ。
あいつらにここまでする勇気はないだろうからな。
イップスが壺で殴られて昏倒した。殴ったのはどうやらイップスの親友らしい。
友情は尊いな。
「おい、イップス。正気に戻ったか?」
「……! イップス。どうした? 息をしろ。なぜ、自分から息を止めようとする? おい!」
一言に自害と言っても「ナイフで心臓を刺せ」では、ナイフがないときに困ってしまう。
その点「息を止めろ」は良い。
道具もいらないし、手足を縛られても自害できる。
絶命したイップスを抱えて、男が嘆いていた。
友情とは美しいものだ。時に儚くもあるが。
「お前か、お前がやったのか?」
怒りに燃えた男が睨む。
不思議だ、オレが犯人である証拠はほとんどないはずなのだが。
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甘泉めあʚめめあ・めあちɞ
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裏五条
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「お前が、お前がやったんだな!」
おお、とても怒っている。
思いの丈も色々あろうが。
生憎、問答をする余裕はない。
初手必殺を選ばせてもらおう。
オレは前髪をずらし、瞳を見せた。
「【獣の数字《セブンス・ネイロン》。】」
第七奴隷魔法を唱えると、茨の魔眼と化したオレの瞳が男を捉える。
途端、男は激情を失い、人形のように直立した。
自分より頭の悪いものを強制的に使役するネイロンの魔眼。
その権能を一時的に瞳に宿す、一種の召喚魔法だ。
この瞳に捉えられた生物は、オレの命令だけを聞く獣となる。
奴隷刻印を使わず、一瞬で奴隷化できる反面、欠点もある。
第七は非常に融通の利かない魔法で、本当にオレの命令しか聞かなくなるのだ。
たとえば、飯を食えと命じないと何も食わずに死んでしまう。
第七奴隷魔法が流出した時、この世は……。
この世はどうなるのだろう。
とてつもなくおぞましいことになるのは確かだ。
隠蔽の為にも、目撃者は小まめに殺しておく必要がある。
「おい、バルジウスの居場所へ案内しろ。その後、息を止めて死ね」
「……かしこまりました」
これも世界を守る為だ。
この名も知らぬバカな男もきっとわかってくれる。
火の手広がるバルジウス邸を、オレは歩く。
材質が土と石なのはいいな。これだけ燃えても邸宅自体は残りそうだ。
すべてが終わった後、ここに住むのもいいだろう。
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