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同じダンススクールに通っていただけ。
小学校も違って、普段の生活が重なることはほとんどなかったけれど、
週に一度会えるその時間が、私には宝物だった。
彼は明るくて、誰とでもすぐ仲良くなれる人。
女の子に囲まれている姿を見て、
「どうせ私なんて」と何度も思った。
学校の話をするたびに、
「へえ、そんな学校あるんだ」と笑う彼。
その笑顔を見るたび、距離を感じた。
卒業が近づいたある日、先生が言った。
「中学生になったら、生活が変わるよ」
彼は別の中学校。
私はまた別の中学校。
最初から同じ道を歩くことは、決まっていなかった。
小学校も、中学校も、同じじゃなかった私たち。
だからこの恋は、最初から叶わないと分かっていたのかもしれない。
それでも、好きだった。
会えなくなっても、この気持ちだけは、私の中に残り続けている。
彼に会えるのは、週に一回だけ。
帰る道も、友達も、全部ちがう。
それでも、その一時間が私の一週間の全部だった。
彼は相変わらず人気者で、
他の女の子と楽しそうに話していた。
私は少し離れた場所から、名前を呼ばれるのを待つだけ。
「来週も来る?」
その何気ない一言に、胸が高鳴る。
でもそれ以上の言葉は、いつも飲み込んだ。
春が来て、卒業が近づいた。
中学校は別々。
それでも言えなかった。
好きだというたった一言が、
彼の未来を止めてしまいそうで。
「じゃあね」
彼は笑って手を振った。
その笑顔を、私は忘れられない。
週に一回しか会えなかったけど、
その一回一回が、確かに恋だった。
中学生になって、私たちは本当に別々の世界に進んだ。
制服も、通学路も、友達の話も違う。
でも彼は、習い事を辞めなかった。
週に一度だけ、あの場所でまた会えた。
背が少し伸びて、声も低くなっていた。
前より少し遠く感じて、でも変わらない笑顔に安心した。
「久しぶり」
その一言だけで、胸がいっぱいになった。
同じ学校の女の子の話を楽しそうにする彼を見て、
私はただ聞いているだけ。
それでも、
同じ時間、同じ空間にいられることが嬉しかった。
ある日、レッスンの帰り際、
彼がぽつりと言った。
「週一でも、会えるのっていいよね」
その言葉に、私はうなずくことしかできなかった。
だって私にとっては、
それは“全部”だったから。
恋は進まなかった。
でも終わりもしなかった。
週に一度、
言えない気持ちを胸にしまって、
私はまた彼に会いに行く。
この恋が、いつか言葉になる日を信じて。
中学生活が忙しくなるにつれて、
彼は少しずつ変わっていった。
部活の話が増えて、
習い事に来る時間も、帰る時間も短くなった。
話せるのは、ほんの数分だけ。
「最近、あんまり来れなくてさ」
そう言って笑う彼に、
私は「うん」としか返せなかった。
彼のスマホに届く通知。
名前も知らない誰かからのメッセージ。
見てはいけないと思いながら、
それを見るたび、胸が痛んだ。
週に一度の奇跡は、
いつの間にか、ただの“すれ違い”になっていた。
最後に会った日。
彼はいつもより早く帰ると言った。
「ごめん、今日は先行くね」
その背中に、
私はずっと言えなかった言葉を重ねた。
好きだった。
最初から、最後まで。
でも彼は振り返らなかった。
私の気持ちに、気づくこともなく。
次の週、彼は来なかった。
その次も、その次も。
習い事の教室に、
彼の姿はもうなかった。
週に一度しか会えなかった人。
同じ学校でもなく、
同じ未来も選べなかった人。
この恋は、
始まりよりも静かに終わった。
私は今も、週に一度のあの時間になると、
もう来ないと分かっているのに、
入口を見てしまう。
それが、
私の終わらなかった初恋。