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#ハッピーエンド
Tubling
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私は腰を落として剣を構えながら、眼前に立つ男、カイゼルを見据えた。
カイゼルもまた、いつにも増して真剣な顔つきだ。ゆっくりとした動きで剣を構える。
大丈夫、きっと勝てる、と私は自らを励ました。これまで誰よりも練習してきたし、今では自他共に認める近衛隊の中の精鋭の一人なのだから。
私は気持ちを落ち着かせ、神経を研ぎ澄ませるために、静かな呼吸を繰り返しつつ、ぎゅっと剣の柄を握りしめた。
その時、カイゼルが声をかけてよこす。
「レジ―ナ、王太子殿下が仰っていた件は忘れていないな」
間合いを図るために集中していたというのに、カイゼルのせいでそれが途切れる。
「いきなり話しかけないでよ!」
「悪い」
詫びの言葉を口にしてはいるが、悪いなどとまったく思っていない顔つきだ。カイゼルは私に念を押す。
「昨夜の話をお前がちゃんと覚えているか、一応確かめておきたくてな」
「もちろん忘れていないわよ」
私はにやりと笑った。続いて頭の中によみがえったのは、へらへらと、いや、もとい、愉快そうな顔で私たちに告げる王太子殿下の声だ。
『建国祭の始まりを飾る剣技大会の締め括りに、カイゼルとレジーナとで模擬試合をしてもらうことにした。勝った方は負けた方に、自分の願いを一つ聞いてもらうというのはどうだ?もちろん拒否権はなしだ。勝負という賭けをすれば、いっそうやる気が起きるというものじゃないか?』
王太子殿下は続けた。
『レジーナが勝てば、筆頭護衛騎士であるカイゼルを、好きなようにこき使ってもいいわけだ。なんたって拒否権なしだからな』
非常に魅力的な案だと思った私は、即座に賛成の声を上げた。
子どもの頃は、私の方がカイゼルよりも剣の腕は上だった。私が彼に教えることもあったほどだ。それが今や、カイゼルは筆頭護衛騎士だ。もちろん、そんな彼のことはすごいと思っているし、認めてもいる。けれど、どうも気に食わないのだ。まるで親を追いかける子犬のように、私の後を着いて回っていた彼の子供時代を知っているからかもしれない。だから私はこの勝負に勝って、ぜひともカイゼルに一泡吹かせてやりたいとの野望を抱いた。
「カイゼル、覚悟しなさい!」
私は表情を引き締めて、カイゼルめがけて勢いよく足を踏み出した。
カキィン!と金属と金属がぶつかり合う音が響く。
私の剣を迎え撃つカイゼルは、余裕の表情をしていた。
それが目に入って癪に障った。私はますます果敢にカイゼルの剣に立ち向かい、その白刃を受け止めては振り払った。
彼の剣は早いだけではなかった。受け止めた時には、足が地面にめり込みそうになるほどに重かった。
彼が王立士官学校に入ってからは、彼と剣を交える機会はなかった。私が彼と同じ近衛騎士隊に入隊してからも同様で、これまで実際に彼と手合わせしたことはない。彼が剣を振るう姿を見るのは、学校行事や今回のような大会の場に出場した時くらいだったが、いつの間にか、彼とはこんなにも差が開いてしまっていた。これほどまでに凄腕の剣士になっている彼の姿を目の当たりにして、これ以上差を広げられたくないと私は焦りを感じた。
感情のその揺れが、私に隙を作ってしまう。
このまま攻め込んでカイゼルを倒してやる、と勢い込んで足を踏み出した次の瞬間だった。
私の剣は、彼の剛腕が繰り出す剣によって弾き飛ばされてしまった。
「くっ……」
地面に転がる自分の剣を目の端に捉えながら、私は手首を抑えた。カイゼルの剣をまともに受けてしまい、じんじんとした痺れが広がっている。不快な痛みと悔しさを隠すことなく、私はカイゼルをにらみつけた。
彼は私の顎先に剣の切っ先を突きつける。彼の面に、この勝負の勝ちを喜ぶ笑みがうっすらと浮かんでいた。
「俺の勝ちだな、レジーナ」
審判役の騎士が、勝負の決着を声高らかに周知した途端、それまでどこか緊張をはらんでいた競技場の空気が一気に緩み、どっと歓声が沸き起こった。
「悔しい……っ」
私は噛んだ唇の隙間から声を絞り出した。
歓声の中、カイゼルは私がまだ手首を抑えていることに気づき、眉根を寄せた。
「大丈夫か」
「大丈夫よ!」
気遣いの言葉をかけてもらっておきながら、私は彼からふいっと顔を背けて、自分の剣を拾うためその場から離れた。冷静になって考えてみれば、それだけの実力があるからこその「筆頭」なわけで、カイゼルに勝てるはず、などと思っていた自分が恥ずかしい。
背中にカイゼルの声がぶつかる。
「賭けのこと、忘れるなよ」
「ちゃんと覚えてるってば!」
私は仏頂面で振り返り、短く答えた後、再びカイゼルに背を向けて歩き出した。
「あんまり変なことを言ってこないといいんだけど……」
カイゼルが私に何を要求してくるのだろうと考えると、憂鬱になる。
こんな気分を抱えることになったのも、すべて王太子殿下が余計なことを言い出したせいだと、この勝負を喜んで受けた自分のことは棚に上げる。
私は競技場から出る前に足を止めると、こちらの表情に気づいていないことは承知の上で、王族席にいる王太子殿下にじとっとした恨めしい目を向けた。