コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
教室の隅。昼休みのざわめきが少し遠くに聞こえる。今日の相談者は、背の高い二年生の男子だった。
椅子に腰を下ろすと、彼は深く息を吐いた。
「たいしたことじゃないんだけどさ。
部活で後輩がミスしたとき、注意できなかった。
俺が言えばよかったのに、結局先輩に任せちゃったんだ」
遥は黙って相手の指先を見つめた。
男子の手は小さく震えている。
「言ったら嫌われるかもって思ったら、声が出なくて」
「嫌われたくないって気持ち、分かる」
遥の声は柔らかい。
「でも、注意ってさ、相手を守ることでもある」
男子は眉を寄せ、しばらく考え込む。
「守る、か……。でも俺なんかが言っても」
「“なんか”じゃないよ」
遥はゆっくりと言葉を置く。
「一番近くで見てた君だから、伝えられることがある」
男子は小さく笑った。
「……次は、言ってみたい。怖いけど」
「怖いって感じるのは、ちゃんと向き合ってる証拠」
窓の外で、午後の光が机を照らす。
男子は帰り際、ふと振り返った。
「話してよかった。少しだけ勇気出た」
遥は軽く手を上げた。
その背中を見送りながら、
“誰かを守りたい”と思うその気持ちが
どれほど強く尊いものか、胸の奥で静かに感じていた。