テラーノベル
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二ノ宮ユウタ(にのみや・ゆうた)、17歳。
制服のYシャツはしっかりボタンを閉め、黒髪は真っ直ぐ下ろされ、無口で感情の起伏が少ない。
「真面目」「無害」とよく言われるが、彼の中には誰にも言えない後悔があった。
それは、中学の時に喧嘩別れした親友――ハルキのこと。
高校が分かれたあとも、LINEの未送信ボックスに謝罪の文章を保存し続けたまま、
結局、一言も送らずに時が過ぎた。
そして、ハルキが交通事故で亡くなったという知らせが届いたのは、3日前だった。
明晰夢サービス《メイセキム。》には、“一方的に話すための夢”がある。
**【夢名:一言だけ、伝える夢】/価格:1000円/仕様:対象一名・片方向会話型】
> 夢の中で、あなたは“伝えられなかった言葉”を話すことができます。
相手は自動再現AIで再構築され、過去の感情記録に基づいて反応します。
言葉は、記録されません。自分のためだけに届けてください。
夜。
ユウタはいつものベッドに横たわり、ヘッドセットを装着する。
呼吸は浅く、鼓動は少し速い。
それでも、夢の波に身体を任せるように目を閉じた。
気づけば、そこは中学の校舎裏だった。
夕焼けが差し込み、金網フェンスの前に、ハルキがいた。
あの頃と同じジャージ、癖のある髪、少しだけ人懐っこい笑顔。
「おう、ユウタじゃん」
その瞬間、息が止まるほどの罪悪感が込み上げてきた。
夢だとわかっていても、言葉が出てこない。
「なあ、なんか言いたいことあんの? ってか、だんまりってお前らしいけど」
ユウタはようやく、震える声で口を開いた。
「……ごめん。
……あの時、ひどいこと言った。なのに、なんにも言わないまま……」
ハルキはふっと目を細めて笑った。
「お前が黙ってるとき、俺がうるさいくらい喋るの、好きだったけどな」
それは、AIによる再現かもしれない。
けど、それでも。
ユウタは最後に、深く頭を下げた。
「ありがとう。話せて、よかった」
目覚めたのは朝6時。
いつもより呼吸が深く、頭は少しぼんやりしていた。
机の上に置かれていた、未送信のスマホ通知に
“保存期間が過ぎたため、下書きは削除されました”と表示されていた。
ユウタはスマホを閉じ、
「おはよう」とつぶやきながら、少しだけ背筋を伸ばして制服に袖を通した。
《メイセキム。》注釈:
【一言だけ、伝える夢】は自己再構築型の感情処理サポート夢です
再現AIの反応は実在人物の情報から構成されるため、100%一致ではありません
本商品は“相手の言葉を聞くため”ではなく、“自分が言うため”の夢です
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