テラーノベル
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八月に入ってからも慌ただしい日が続き、あっという間に夏季休暇初日となった。
連休初日は山の日だ。
この日、豪は元カノの岡崎優子と会い、話をつけて完全に縁を切る日でもある。
十時に立川駅の改札で待ち合わせをし、優子が以前から行きたいカフェがあり、そこで話を聞きたいと言う。
「わかった。さっさと話をしに行くぞ」
彼は気怠そうにペデストロディアンデッキの階段を降り、道路を渡る。
シックな雰囲気のカフェは人気があるようで、店内はまだオープンして時間が経っていないのに、既に混雑していた。
店員に一番奥の席に通され、アイスコーヒーを二つ注文した。
豪は不意に、この場での会話を録音した方がいいと思い立ち、メールチェックする振りをして、録音ボタンをタップする。
「で、豪の話って何かしら?」
「お前が何を考えて膨大なメッセージを送ってくるのか知らないが、今、俺には彼女がいる。だからもう連絡は一切してくるな」
綺麗な顔立ちの優子が、一瞬で顔色を変えた。
例えるなら、般若か鬼か。
それとも、国民的某RPGゲームシリーズに登場する、ラスボスの第一形態ってところか。
「何で? もう彼女できたの? 私、好きな人ができて、あなたを振ったのは悪かったと思ってる。けど……」
「けど、何だ?」
半ば投げやりな表情を映し出す豪。
「あなたと別れて、やっぱりあなたが好きだって分かったの。この前、その人と別れたわ。前にもあなたと会って話したいって連絡したでしょ? それはもう一度あなたとやり直したいって思ったから、それを伝えたかったの!」
彼女は悲壮感を滲ませたが、豪が粗方予想していた通りだった。
「悪いが俺は、お前と寄りを戻すつもりは一切ない」
注文したアイスコーヒーがテーブルに置かれ、彼は半分ほど一気に飲んだ。
「それとお前、この前、立川駅の中央線下りホームの階段にいただろ」
「バレた? だって豪、全然会ってくれないから、西国分寺駅まで行って待ち伏せしてたのに……全然来ないんだもの」
困った表情を見せているが、豪の嫌な予感が、当たってしまったという事。
だが、優子はその後、パっと笑みを弾ませ、とんでもない事を口にした。
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