コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
いい匂いがする…… 。
どこのお家からかな?
いいなぁ、美味しいご飯食べたいなぁ
でも今月も、お金無いんだよなぁ…… 。
うつらうつらとする頭でそんな事を考えながら、ゆっくり瞼を開ける。
あれ、布団柔らかい…… 。
枕もふかふかで、美味しそうな香り以外にも、ちょっといい香りもする。
ここ…… どこだっけ?
——そうだっ!
現状を一気に理解し、私はすっかり目が覚めた。周囲を慌てて見回したが、何故か、ベッドで寝ていたはずの司さんが居ない。
「司さんはどこ!?」
ガバッと布団から起き上がり、布団を意味も無くペシペシと叩く。
「何で私、ベッドで厚かましく寝てるの?——司さん居ないしっ!」
あぁもう!きっと司さんが先に起きて、私をベットに寝かせてくれたんだ。
…… って事は、私を持ち上げてくれたって事で、イコールあの腕に抱っこしてもらったって事だよね!?
あの身体に——抱っこ!?
え、や、待って、その前に絶対寝顔見られてるよね?
自分のだから当然自分でも見た事無いのに、寝顔見られたっ。
そう考えただけで、恥ずかしさに頬がかぁっと熱くなっていく。
(どうしよう…… )
司さんの、あの大きな手に触ってもらえたんだって思っただけで、心臓がドキドキしてくる。今まで感じた事のない変な感覚も、身体の奥にちょっと感じる。
(何だろう?変な感じ…… )
身体も熱いし、頬の熱も引かないし、心臓が煩い。両手で頬を覆って熱を冷まそうと思っても、両の手も熱くて全然意味が無い。
「やだ…… このままじゃ司さんの顔まともに見られないよ…… 」
(抱っこくらい何よ、夫婦だったのならもっとすごい事だってしてるじゃない。そうよ、抱っこくらい)
…… ん?待って、もっと…… 凄い事!?
——ちょ、あ…… やああああっ。
心を落ち着かせようと思って考えた事だったのに、完全に墓穴を掘った。さっき以上に奥の方がすごく熱くて、『もっと凄い事』の知識だけが暴走し始める。経験まであると推測出来る身体が勝手に自分の妄想に反応し、下着を濡らす。胸まで苦しくなり、ブラで胸をしっかり覆うのすら少し窮屈に感じてきた。
「ちょ…… 待ってよ、何コレ…… 」
呼吸まで乱れ始め、自分の身体が自分の物じゃないみたいだ。
(司さん、どこに触ってくれたんだろう?持ち上げたって事は、腕とか、背中とか…… ?)
「んっ…… 」
駄目だ、考えただけでぞくっとした感覚が身体に走る。
(ココ…… 触ったらどんな感じがするんだろう?)
視線を下に落とし、脚に掛かる布団を剥ぐと、一番むずむずしてしょうがない部分をじっと見詰める。自分で触れてしまおうかとかそんな事、今まで一回も考えた事なかったのに。
このまま爆発でもしちゃうんじゃないかってくらいに心臓が跳ねる中、おそるおそる、脚の方へと手を伸ばす。
あと少しで、湿り気を帯びている部分に指が触れそうだ。指先がちょっと震えだした、その瞬間——
「——唯、起きてるか?」
急に勢いよく寝室のドアが開き、居間の明かりと共に、司さんが暗い部屋の中に顔を覗かせた。私はひどく驚き、反射的に「きゃああああっ!」と悲鳴をあげてしまった。
赤らむ脚と一緒に気恥ずかしさをも隠そうと、大慌てで布団を引っ張って、顔だけを出した状態で司さんの方を向く。
「起きてます!大丈夫ですよ!」
焦る気持ちを全然隠せないまま出した声は裏返っていたが、もうそれどころじゃない。人には絶対に見られたくない、やましい事をしようとしていた自覚がある為、もう頭の中は完全にパニック状態だ。
「…… えーっと、ごめん。何か俺、邪魔した?」
「——な⁈な、なんっ…… 何の邪魔したって言うんですか!!何もあるはずないでしょう!?ね、寝て起きただけ、なんですからっ」
林檎か!ってくらいに顔を真っ赤にして、必死に叫ぶ。
(これは誤魔化せていない、絶対に!)
そうだとわかっていても、今の私ではどうしょうも出来ない。
「ならいいんだけど。…… えっと、起きられるか?ご飯の用意が出来たんだけど」
「平気ですよっ」と言った私の声は、やっぱりまた裏返っていた。
「じゃあ、食卓で待ってるから。来られるようになったらおいで」
「は、はい!」
顔だけを出した状態のまま、寝室のドア側から離れて行く司さんの背中に向かい、無意味に大きな声で返事をする。
バタンッと音をたててドアが閉まった瞬間、糸が切れた操り人形のように私は、ベッドの上に倒れこんだ。
「焦ったぁ…… 」
まだ司さんが入って来たのが未遂のタイミングであった事に感謝しつつも、『いくら夫婦でも、入る時にはノックぐらいはして欲しかった』と思いながら、私は枕に顔を埋めた。
——閉まった寝室のドアの向こう。
司さんがボソッと「今度はそっとドア開けよう…… 」ともらしていた事は、私の耳には聞えていなかった。