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優弥の運転はとても快適だった。安心して助手席に座っていられる。

そして車内では職場の話で盛り上がる。

そこで杏樹は気になっていた事を聞いた。先日窓口へ来た成田啓介についてだ。


「彼女にはもう決まった人がいるようですよ」


優弥の一言で成田はあっさり引き下がったらしい。元々遊び感覚だったのだろう。

更に優弥は昨年他店で起きた窓口の女性行員に対するストーカー行為についての詳細を冗談交じりに成田に話した。その際トラブルを嗅ぎ付けた週刊誌が銀行に取材の申し込みをしてきた事も話す。

すると成田は、


「副支店長さんもタチが悪いなぁ……僕はほんの軽い冗談のつもりだったんですから。いや、でも誤解させるような真似をして本当に申し訳なかったです」


成田は優弥に対し丁重に謝罪をした後窓口の杏樹の所へ来て謝罪をしたようだ。

さすがにくだらない事で『士業』の経歴に傷がついたらまずいと思ったのだろう。


「お騒がせしてすみませんでした」

「いや、部下を守るのは当然だから気にするな」


その言葉に杏樹は心からホッとした。



やがて車は高速を降りて一般道を走り始める。

陸上自衛隊武山駐屯地を左折し車は三崎漁港へ続く道を走り始めた。

途中地元の人が利用する市場やスーパーの前を通り過ぎた後、車は三崎漁港へ到着した。


駐車場に車を停めた後外に出ると潮の香りがした。杏樹は海に来たのだと実感し深呼吸をする。

駐車場の前にある海鮮食堂には既に若い人たちの長い行列が出来ていた。


(結構人が来てるんだ……)


以前杏樹が来た時は冬だったので閑散としていた。しかし今は秋の行楽シーズンなので多くの観光客で賑わっている。


「結構人がいるんですね。三浦半島でこれなら湘南はもっと混んでいたのかな?」

「あの辺りは鎌倉の紅葉を見に行く人も多いから相当混んでるだろうな」


そこで優弥が杏樹の手を握って歩き出した。

いきなり手を繋がれた杏樹は心臓がドキドキしていたが嫌ではなかったのでそのまま歩く。


2~3分歩くと通りに突き当たった。その道の向こうにはまぐろ料理の店がいくつも並んでいた。

道路を渡ってその中の小綺麗な店の前に行くと優弥が言った。


「三崎に来るといつもこの店で食べるんだけどここでいい?」

「はい」


そこで二人は店に入った。

入った途端威勢のいい声が二人を迎える。


「いらっしゃいませー! よろしかったらお2階のお席へどうぞー! 上の方が空いてますので」

「ありがとうございます」


優弥はカウンター内にいる大将に会釈をすると2階へ向かった。


2階には1組の夫婦がいるだけで空いていた。大きな窓からは燦々と太陽の光が降り注ぎぽかぽかと暖かい。

二人は漁港が一望出来る窓際の席へ座った。

すぐにおかみさんが温かいお茶を持ってくる。


優弥は杏樹にメニューを渡してから言った。


「単品の丼物も美味しいけどセットの御膳にすると珍しいまぐろ料理が食べられるよ」

「珍しいまぐろ料理?」

「うん、まぐろの胃袋の煮つけとか内臓の塩辛とか……そういうのは苦手?」

「いえ、お魚のだったら食べられます」

「じゃ、御膳の中から選ぶといいよ、何種類かあるから」


杏樹が写真付きのメニューを見ると『まぐろのとろ煮つけ御膳』『まぐろのステーキ御膳』『まぐろのお刺身御膳』そして色々な種類の刺身が入った『お刺身御膳』もある。


(うわぁ……どれにしよう)


魚が好きな杏樹は目移りしてしまう。

しかしせっかく漁港に来たので色々な種類の刺身が食べたいと思い『お刺身御膳』を選んだ。


「じゃあ『お刺身御膳』にします」

「了解。俺は『まぐろのお刺身御膳』にするかな」


優弥はおかみさんを呼んで注文をした。


「このお店はゆったりしていて居心地がいいですね」

「うん。さっき行列が出来ていた店は多分ガイドブックに載ってるんだろうなぁ、いっつも混んでる。この店も人気店だけど混雑する時間帯を避けると静かでいいよね」

「ここにはよく来るんですか?」

「まぐろが食べたくなるとたまにね。あとは湘南にいる涼平っていう友人、ほらサーファーの、奥さんが絵本作家の…その涼平夫婦とその仲間が釣り船をチャーターしてたまに釣りに行くんだよ。それに俺も参加させてもらってる」

「釣りですか?」

「うん、船釣り。釣りとかって興味ある?」

「ちょっとだけ……たまにテレビで釣り番組を見たりしますよ」

「ほんと? じゃあ今度行く時は誘うよ」


(へぇ…副支店長って釣りをするんだ……)


優弥は都会派のイメージだったのでまさか釣りをするとは思っていなかった。

優弥の新たな一面を知りなんだか嬉しくなる。


そこへ料理が運ばれてきた。

大きな塗りの盆に新鮮な刺身や何種類もの小鉢が並んでいる。


「美味しそうですねー、お刺身が新鮮できらきらしてるわ」

「だろう? でね、この塩辛が美味いんだ」


二人はいただきますと言ってから早速料理に箸をつけた。

優弥がまず塩辛を口にしたので杏樹も真似をする。


「美味しい! 日本酒が欲しくなりますね」

「だろう? こっちの胃袋の煮付けも食べてごらん」


杏樹はおそるおそる小鉢の煮つけを食べてみた。


「え? 美味しい、全然臭みとかありませんね」

「珍味だけれど上品な味だろう?」

「はい。ますますお酒が欲しくなります」


杏樹は珍味をモグモグしながら嬉しそうに微笑んだ。

そんな杏樹の顔を優弥が嬉しそうに見ている。


「そんなに可愛い笑顔を見せるのは反則だぞ」

「ハッ? 反則? どういう意味でしょうか?」

「今すぐ抱きしめたくなる」


瞬時に杏樹の頬が染まる。

明るい光が差し込む店内でまぐろ料理をモグモグする女にそんな甘い言葉を囁く方が反則だわと杏樹は思った。


「でもどうして? 私は美人でもないし元彼にあっさり捨てられちゃうような女だし、なぜ副支店長がそう思うのか全く理解できません」

「うーん、なんでだろうな? 上手くは言えないけどとにかく君を見ていると手放したくない衝動に駆られるんだよなー」


(『手放したくない』なんて初めて言われたわ。そんな歯の浮いたようなキザなセリフ、普通だったらギョッとするのになんでこんなに心地良く感じるんだろう……)


杏樹はきっとイケメンパワーに違いないと思う。

もし正輝にこんな事を言われたら気持ち悪くて鳥肌が立ちそうだが優弥のようなイケメンは全てを許してしまうのだ。


「でも私達が初めて会ったのはあんなでしたよ。普通だったら尻軽女って思って敬遠するのでは?」

「杏樹は尻軽なのか?」

「違いますけど……」


杏樹はこの話題に耐えられなくなりうつむく。


「ベッドの上ではそれほど遊んでいるようには見えなかったけどな。逆に未開発な部分が多いように感じたが……」


優弥はニヤッと笑って続ける。


「だからこれから俺好みに調教し甲斐がある。それに俺にとって相性は抜群だったんだ」


優弥のあからさまな表現に更に杏樹は赤くなる。

そんな杏樹を見つめながら優弥は更に言った。


「だから手放せないんだよ」


杏樹は何と答えて良いかわからずに黙り込む。

そして耳まで真っ赤にしながら目の前の食事に集中する。

しかし刺身を一切れ食べた途端杏樹が叫んだ。


「美味しいっ、お刺身、凄く新鮮ですねー」


先ほどまで顔を赤くしていた杏樹がすっかり刺身の虜になっているのを見て思わず優弥はククッと笑った。



美味しい食事に満足した二人は店を後にした。


「ご馳走様でした」

「どういたしまして。ちょっとマルシェに寄ってみる?」

「行きたいです」


目の前には大きな市場があったので二人は中へ入った。


1階にはまぐろ専門店が並び2階では三浦半島の採れたて野菜を販売している。

隅の方にはスイーツやパンも置いてあった。


二人はまず1階を見て歩き優弥がまぐろ中トロの柵を一つ購入する。

2階へ行くと今度は杏樹がいくつかの野菜をカゴに入れ始める。どの野菜も新鮮で東京よりも値段がぐんと安かった。

あまり見た事がない西洋野菜を見つけると優弥がすぐにスマホで調べてくれて料理法を杏樹に教える。

そんな他愛もないやり取りがとても楽しい。


会計の際、優弥は自分の分と一緒に杏樹の支払いもしてくれた。


「すみません、ありがとうございます。それにしても安過ぎますっ! 新鮮で安いってここは天国ですか?」


目をキラキラさせて言う杏樹を見て優弥は声を出して笑った。


「魚は美味いし野菜も新鮮で安いし……ほんと引っ越して来たくなるよなぁ」


優弥はしみじみと言う。


駐車場へ戻る際、買い物袋は全て優弥が持ってくれた。


(なんか新婚さんみたいで楽しい! それに料理をする男性と一緒にこういうところを回るのも凄く楽しいわ)


正輝とのこんな経験がなかった杏樹は心からそう思った。


そして車へ戻った二人は次の目的地へと向かった。

ワンナイトのお相手はまさかの俺様上司&ハイスぺ隣人でした

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コメント

56

ユーザー

瑠璃マリさん、すみません💦 読み返し中に気づいたので… 「だ『らか』手放せない…」 ↓ 「だ『から』手放せない」

ユーザー

二人ともとてもいい雰囲気ですね💖

ユーザー

サラリとそんな色気のあることを言われたらドキドキしちゃうね。 でも美味しいものの前には照れも吹っ飛んじゃうとか🤭 杏樹ちゃんかわいい(灬ºωº灬)♡︎

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