テラーノベル
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「ねぇねぇ。だいじょうぶ?」
「なんともない。」
「でもけがしてるよ…」
「気にするな。悪い人に襲われる前に早く帰りな。」
「うぅん……」
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「母さん!おはよう〜!」
帝都から少し離れた紅月山にある村に私は産まれた。
「あら、おはよう。」
私の家は裕福ではないが仲睦まじい家だった。百姓の両親と薬草採りの兄、そして姉と暮らしていた。
「あまね!おはよう〜」
私自身は親の手伝いしかまだやってないが、将来役に立つと言われて多少の読み書きなどを習っていた。
私はこの暮らしに満足している。決して裕福ではなくともこのままの日常があれば私はそれで良かった。
「お兄ちゃん、次はいつ薬草を採りにいくの?」
「う〜ん。次は多分だが雪が降り始めの頃かな。」
兄は職業柄家にいることが少ない。だから家にいる、家族全員揃ったこの瞬間をずっと大切にしてた。
村の人達はみんな優しく私は大好きだ。ここよりもずっと帝都は栄えてるらしいけど、人のあたたかさで言ったらここが1番だ。
「今日はこれくらいね。家に帰りましょっ」
こんな日常はずっと続く。どんなことが起きても絶対に崩れない。そう思ってたんだ。
鈴虫が鳴く。もうそんな季節か。
「おやすみ。」
色々な虫の音色を聴きながら眠りについた。
「……早く村へ帰りな」
「…がこの村に?」
「……が!医者を医者を!」
「…………っている」
ッハ!!
夢……だった。なんだか気味が悪い。
「おはよう、あまね。今日は山奥に生えてる山菜採りに行ってくれる?」
「…うん!」
そう。あれは夢。絶対にそうなんだ。でも気味が悪すぎる。
「山菜採りに行くんだって?あまね。」
「うん。そうだよ」
「暗くなる前に帰っておいでよ。あともしあの…」
「洞窟でしょ?」
「うん。絶対にあそこにだけは入るなよ!」
「わかってるよ姉さん。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
私は山菜を採りに出かけた。この村には言い伝えがある。その中で山奥にある “あの洞窟” には絶対に入るな。私含め村のものみんなそれを守っている。
この時期の山は少しキツイ。暑くて汗がすごい出てくる。それでも山菜のために私は頑張った。
……あれ?
これって “あの洞窟” じゃないか?
いや、洞窟なんて無数にある。気にせずまずは山菜を採ろう。
「ふぅ…これだけあれば絶対みんな喜んでくれる!」
籠から溢れ出しそうなくらい山菜が入っている。この暑さでもよく頑張った私。
「あ……あれ?」
急に梟の目がギラギラと光出した。
「なんで?さっきまで日差しが眩しかったはずだよね?!なに……怖い…」
だんだん当たりが暗くなり空を見上げるとなんだか月が太陽に食べられたみたいに紅くなっていた。
「と…とりあえず村に帰ろう!」
村の方に向かって私は走った。息ができないほどずっとずった無我夢中に走った。
「あ…あれ?どこ……ここ?嘘こんなところこの山にあったか?」
こんな大切なときに限って迷子になってしまった……
「ど…どうしよう。あたりは木しかない。なに?なんなのこれ?……どうしよう。」
異様な空間。なんだか霊界にでも連れ込まれちゃったみたいだった。
「…ん?あれって “あの洞窟” じゃない?」
『入っては行けない』そんなことを守ってる余裕は無い。早く変なところから身を隠したい。そんな一心で私は洞窟の中へ走り出した。
「はぁはぁはぁ。何とか入れたけどちょっと暗いな。」
暗いけど奥があるのが見えた。
「何があるんだろ…?見える範囲まで入ろうかな。」
恐怖心よりも好奇心が上回って見れる範囲まで奥に進んだ。
「山奥の洞窟の割には少し綺麗だな。誰かが管理してるみたい。」
どんどん私は奥に突き進んだ。
なんか黒い影が目の前に……
「誰だ?」
少しドスのきいた声が響いた。
「?!」
誰かいる…誰…まさか変人??私の人生はここまでなの…?
「あぁ…貴方は誰?」
急に光がさして姿が見えた。赤い瞳に切れ長な目、そして妖しい雰囲気を醸し出している男だった。
「え……」
私は怖くなって逃げ出した。
あれは……あれは絶対……人間じゃないッ
捕まりたくない。捕まったらオワリだ。
嫌だ嫌だ嫌だ!
「逃げるなよッ」
「イヤァ!!!!」
捕まった。捕まっちゃった。こんな大きな人に捕まったらもう何も出来ないや。
「…あ?あのときの……ビ…」
心残りしかないけどもういいや。
「……ん。あれ?洞窟の中で私は捕まって……」
私はいつの間にか倒れていたらしい。[[rb:黄昏 > たそがれ]]時の空の中で[[rb:烏 > からす]]が鳴きながら飛んでいる。
「あれ?もう黄昏時なの?」
何があったか思い出そうとすると頭痛がする。とりあえず家族は心配してるはずだから早く村に帰ろう。
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「あまね!!どうしたのこんな遅くまで山菜採り行って!」
「ご…ごめん!母さん!!」
何とか村に帰れた。これで一安心、あれは熱中症かなんかで幻覚を見ていたんだ。きっと。
今日は鈴虫が鳴かない。なんだかまた異世界に引き込まれたようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ぎゃああああ」
「ママ!ママ!」
グチャ……グチャ……
「あの子だけは!あの子だけは!」
「あまね!早く逃げて!」
「生きて!!」
ビチャ……グチャ……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……イヤッ!
私は飛び起きてしまった。なんだか未来のこの村を見ているみたいだった。
「あぁぁぁ!!」
痛い…痛い…痛すぎる。経験したことの無い頭痛が私を襲ってきた。
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「…がこの村に?」
「……が!医者を医者を!」
「ぎゃああああ」
「ママ!ママ!」
グチャ……グチャ……
「あの子だけは!あの子だけは!」
「あまね!早く逃げて!」
「生きて!!」
ビチャ……グチャ……
「……待っている。」
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ヤダ……ヤダヤダヤダ。私は何か悪い事をしたの?何か神様の逆鱗に触れることでも…?なんで?なんで?なんで?誰か!誰か助けて!お願い早く!!
「…ね!…まね!ねぇ、落ち着いてあまね!!」
怖い怖い怖い怖い。触らないで、近づかないで、離さないで。あの光景から離れなれない……
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「私は君を待っている。」
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「あまねっ……」
そう言って母さんがギュッと抱きしめてきた。
あたたかい。何かから開放されたみたい。
「あまねっ…あんたは…神人様だったんだね」
ずっとギュッと私を抱きしめて母さんは静かに涙を流していた。
私が……神人様になったの…?
嘘だ……私にはそんな素質があるわけない。
「あまね、信じられないとは思うけど…」
母さんが私にそっと手鏡を渡してきた。
「……え」
そこに写ってたのは、髪も目も『深紅』に染まっていた自分の姿だった。
「……気持ち悪い」
こんな姿になってしまった自分が気持ち悪い。人間であるような人間では無いその存在が自分を憎くしている。
あの日から私の人生の歯車が狂いだした。
優しく、みんな大好きだった村の人達はあの日以来私を”神様のような存在”として崇めてくるようになった。
ある人は、家族の安泰を。またある人は、一攫千金を私に願ってきた。
辛い。私はただ急に髪と目が綺麗に紅くなっただけでなんの力もない、ただあの嫌な夢を見ることくらいしか何も出来ない。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 3ヶ月後、帝居では
「帝様、現在紅月山に赤髪の神人がいるという噂があります。」
「ほう…神人か。もうそろそろ宮司も交代の時だ、丁度いいここに連れてきてくれ。」
「分かりました。では早急に準備してまいります。」
「神人……力の程度によるが上手く利用してこの世の全てをてに入れようではないか。」
ここから私の人生の歯車が壊れてしまったみたいなんだ。
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pixivでも同じ話公開してます! 垢名→ぱぼや (pixivの方が更新早めです)