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「ほら、お店もうすぐ開店5周年記念近いでしょ?その準備のために祥子さんにいろいろ用足したのまれたのよ」
「用足し?」
「そそ。わたしは記念日イベントに着る特別衣装の下見と、晴友は限定ケーキの材料探し。そして拓弥は荷物持ち等などで」
「荷物持ちってなんだよ」
「だって、拓弥ができることったら、それくらいじゃない」
「なんだと!?」
いがみ合ってる二人には聞けないので、おずおずと晴友くんを見上げた。
「わたしはなにをすればいいの…?」
「さぁ」
そっけなく答えた晴友くんだけど、考えるように間をおいて付け足した。
「…そうだな、おまえも荷物持ちかな」
荷物持ち…。
あんまりたくさんは持てないけどがんばらなきゃ。
…それにしても四人でお買い物なんて初めてだな。
なんだかうれしい…。
と思ったその時、またスマホが鳴った。
その着信の名前を見た瞬間、わたしは凍ってしまった。
お兄ちゃんからだ…!
凌輔(りょうすけ)お兄ちゃん。
10歳はなれていて、すっごくやさしくて大好きなんだけれど…。
正直…。
…出たくない…。
気づかないふりをして出ないでおこうかな…。
って無視しても、出るまでコールが鳴り続けるのは目に見えているけど…。
「あれ?日菜ちゃん、さっきからスマホ鳴ってない?」
美南ちゃんがふと気づいて気を使ってくれた。
コールが鳴り続けて、みんなにうるさがられても申し訳ない…と、通話ボタンをタップした。
「もしもし…」
『大丈夫か?日菜。しばらく出なかったけれど』
「え、う、うん。…今、ちょっと先生と大事なお話していて…。大丈夫だよ、もう学校を出たから』
本当のことを言わないわたしに、三人は少し訝しげな顔をした。
『そっか。実はな、お兄ちゃん今日休みを取ったんだ』
お兄ちゃんが休み?
珍しい。一ヶ月に数えるほどしか休まないのに。
『だから、これから前に話した知り合いのお店に食べに行かないか?今日は好きなだけごちそうしてあげるよ』
お兄ちゃん…わたしが前々から行きたいって言ってたのを覚えてくれてたんだ。
お兄ちゃんってば、ほんとにやさしいんだから…。
でも…。
「ごめんなさい…今日はアルバイトに行かなきゃならなくて…」
『アルバイト?』
あ…。声色が、変わった…。
『そんなのは休めばいいじゃないか。『家の人と大事な用事ができた』って言えばいい。小さな店なんだ。日菜ひとり休んだって、大してさしさわりはないだろう?』
「で、でも…人手が足りないらしくて…まだ半人前だけど少しでも役に立ちたいから…」
『緊急の休みすら取らせられないなんて、なんてひどい店なんだ。まったく…これだから小さな店は…。どうしてそんなところで働いているんだ、日菜』
「……」
『昨日だって指に火傷をして帰ってくるし…。もう少しちゃんとしたお店なら、指のことを考えて休ませてくれるだろうに。店員のフォローもできないのか』
どんどんエスカレートしていって、お兄ちゃんの口調が変わっていく…。
『どうしてもとせがんだおまえに父さんや母さんが折れたから、俺もしぶしぶ認めたけれど…基本、お兄ちゃんはまだバイトは反対なんだからな。大事な可愛い妹に、どこぞの小さな店でウェイトレスなんて…どんなキケンなことがあるかわからないのに…。日菜。そもそもおまえは、自分がどれほど人目を引く子かという自覚が足りない』
わぁあ…。
始まっちゃった、お兄ちゃんのお説教が…。
10歳離れているせいか、わたしのことを目に入れても痛くないってくらいに可愛がってくれるお兄ちゃん。
いつもそばにいてくれて、美味しいケーキを作ってくれる、わたしのヒーローだ。
でも最近、過保護に感じることが多くなって苦しい…。
この前のテレビ取材とか…お兄ちゃんはああいう番組は見ないけど、もし万が一出たことが知られたらなんて言うか…考えただけでゆううつだ…。
晴友くんたちも、ごーごーと一方的に話すお兄ちゃんに困っているわたしを見て、怪訝な表情を浮かべている。
いけない…3人を待たせちゃう…。
「ご、ごめんおにいちゃん、もうそろそろバイトの時間だから切るね…!」
『あ、待て日菜っ、まだ話は終わってないぞ!…今度、その店に行ってやるからな』
「え?」
『ひどい条件で働かされていないか、俺がしっかり確かめてやる』
「そ、それはいいよ!お兄ちゃん!」
思わず大きな声を出してしまった。
グズグズ仕事しているところなんて見せられないよ。
もしわたしが失敗なんかしたら、店の教育が悪いとか、システムが悪いとか言って、逆に文句を言うに決まっているもの…!
「その話はおうちに帰ってからね…!」
『まて、日菜まだ話は…!』
「じゃあね!」
通話を切ると、美南ちゃんが心配そうに訊いてきた。
「大丈夫?おうちの人?」
「う、うん!ごめんね。もう終わったから!」
「ほんと?」
「うん!大丈夫だよ!」
「そう?じゃあ行こうか」
お兄ちゃんは言い出したら聞かない人…。
不安は残るけど、今はお買い物を楽しもう。
四人揃っての買物なんて初めてだし、晴友くんと買い物なんて…なんかデートみたい…?
なんて思うと、不安な心も少し晴れる気がした。