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ーーバシャーン
「あの……冷たいんですが」
「あはは!引っかかった!」
「あの、クラウスこれ使ってください」
今の現状を簡潔に説明しようと思う。
俺はドアを開けた瞬間頭上から水がかかりびしょびしょに。
そんな俺に慌ててタオルを渡してきてくれた茶髪の若い侍女と手を叩きながら爆笑している銀髪ロングの美少女。
「あの……アイリス様、これは一体」
「クラウス貴方も落ちぶれたわね!昔なら罠にかかる前にわかってたのに!」
「クラウスごめんなさい、お嬢様がどうしてもやるって言って」
戸惑っている俺を見て上機嫌に話しているのは俺の仕える主人のアイリス=カンタール様である。
代わりに謝っているのは先輩のマリカさん
では何故このような惨状になっているのか、少し遡る。
きっかけはアイリス様の帰省と旦那様からの手紙から始まった。
【拝啓 クラウスへ
この手紙を読んでいるということは、娘がそちらに到着したということだろう。
要件をかいつまんで説明すると貴族学院の卒業パーティーで低脳クソカス王子が他の女にうつつを抜かし娘と婚約破棄した。
娘は相当気落ちしてしまい、いち早く王都から離れさせ休養させたい為、そちらに向かわせた。
事後報告がこのような形になってしまい申し訳ない。
情けない話だが、今の傷ついた娘にどう接して良いか父親である私にはわからない。そこで娘の良き理解者であった君に頼みたいのだ。身勝手な願いとわかっている。
立場や粗相を気にしなくていい。
一人の友人としてどうか娘が心行くまで相手をしてほしい。
敬具
アレクシス=カンタール】
「旦那様……一体何があったんですか?」
俺……クラウスは誰もいない屋敷の一室で何か含みのある手紙の内容に一人呟く。
ここはカンタール侯爵家の屋敷。
カンタール侯爵家の執事である俺は屋敷の手入れをしていた。
心地の良い日差しを浴びながら両手を上に目一杯伸ばし、心地良いそよ風と小鳥が奏でる鳴き声を聞きながら今日も一日頑張るぞと気合いを入れ直していた……そんな時であった。
アイリス様が急遽帰省されたのだ。
当主のアレクシス様の手紙携えて。
手紙はマリカさんからとりあえず読めと言われたので何事かと思い急ぎ開封させ目を通した。
この手紙を読んで一番にわかったことは。
「旦那様がこんなに怒るなんて……一体あの王子は何をしでかしたんだ」
普段旦那様は温厚だ。怒りをあらわにすることは少ない。
この手紙からまず一目でわかったのは激怒。他の文章は綺麗に書かれているのに低脳クソカス王子の部分は殴り書きであった。
手紙とはいえ王族に対してこの書き方は不敬に当たるのに。
アイリス様は俺の命の恩人であり幼馴染でもある。
10歳の頃だろうか。
親に捨てられ路頭に迷って餓死寸前の俺は当時5歳であったアイリス様に救われた。
だから俺は恩を返すために努力した。
その結果俺はアイリス様の専属となり教育係兼世話役を担当した。
アイリス様は少々……いや、かなりお転婆だった
俺や他の使用人に悪戯をしたり、俺をつれて屋敷を抜け出し街の散策をしたりと……その考えなしの行動の責任は俺にあるとされてすごく怒られた。
だが、それでも俺はアイリス様の願いを優先させ、咎めることはしなかった。
そんなアイリス様は俺のことを『貴方は私の親友よ』と言ってくれた。
そんなお転婆だったがアイリス様は年齢を重ねるごとに大人びて美しくなった。
10歳になる頃にはどこに嫁いでも恥ずかしくないご令嬢に成長した。
優秀であったことが認められ、王太子殿下との婚約が決まったのだ。
その吉報を聞いた時、誇らしかった。
なんせ将来の王妃、その成長の過程に関われたのだから。
だが、婚約決定とともに俺はアイリス様の専属執事を外された。
『いいかアイリス!私という婚約者がいるんだ。こいつを専属にするのは認めん』
王太子殿下がアイリス様の周りに異性の人を近づけたくなかったらしい。
アイリス様は抗議したが、最終的に王太子殿下を優先した。
少し寂しかったが、俺もそれを了承した。
アイリス様を困らせたくなかったからだ。
「それにしても……ここまで馬鹿とは思わなかった」
良くも悪くも王太子殿下は優秀だろう。
我儘でプライドが高いが、アイリス様とは少なくとも良い関係を築いていたはず。
王太子殿下はムカつくがここまで愚か者だとは思えなかった。
貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣言した。
公で宣言されたことは覆らない。
「王子は廃嫡だな」
もともと国を繁栄させるための政略結婚だ。
そのことを理解せずに自分の気持ちを優先したんだ。
「ま、俺には関係ないな」
未来のことはお偉いさんに任せればいい。
とりあえず今はアイリス様の様子を見に行くか。尊敬する旦那様からの頼みだしな。
俺は旦那様の手紙を大切に胸ポケットにしまう。
「会うのは3年ぶりか」
俺はアイリス様の専属を外れてカンタール侯爵領に勤めた。
アイリス様とは中等部時代では一年に一回会って、高等部入学以降は領地に帰ることなく王太子妃になるための教育に専念するため、カンタール領に帰って来なかった。
今彼女は18歳、一体どんな素晴らしい淑女に成長していることだろう。
旦那様から相当気落ちしていると聞いた。
一執事として、親友として必ず力になろう。