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「それで」
「はい」
「何故、ステラは、辺境伯領外に出ていたんだ」
「ええっと、それはですね……」
この場にアウローラは、いない。かなり魔力を使ったようで、休息を取っているらしかった。私も、休ませて貰ってから、こうして呼び出されたのだが、呼び出しがあると分かっていた時点で、ゆっくり休めないのは分かっていた。現に、もの凄い形相で睨まれているため、言い逃れというか、嘘が通じない。フィーバス卿に嘘なんてそもそも通じないのだろうが。
(怖い、怖い、怖いって!)
フィーバス卿も、リスクを冒して、私を探しに来てくれた。何でも聞くところに寄ると、半径数百メートルぐらいなら、その結界の範囲を広げることが出来るのだとか。だが、それをするには、もの凄く体力と神経を使うことだろう。だからこそ、申し訳なくて。
「ええっと、フィーバス辺境伯の令嬢として、領周辺の視察を……」
「俺はそんなこと頼んでいない」
「で、ですよね……な、なので、私独断で!」
「……」
「ひっ」
まあ、これ以上いったらさらに怒らせるだろうなと思ったので、私は口を閉じた。フィーバス卿が別に、私の話を全て無視するようなタイプじゃないことも、彼が、暴君でない事も知っている。別に、怖がる必要はないのだが、気になってしまうのだ。
「貴族令嬢としてか……」
「は、はい!」
「普通はそんなことしない」
「……うっ」
「だが、ステラならやるだろうな」
と、フィーバス卿は頭が痛いというように額に手を当てた。申し訳なさ過ぎて、穴があったらはいりたかった。一応、父親で、そんな父親の頭を悩ましてしまうおてんば娘で。フィーバス卿の悩みの種が増えてしまう。
「お、お父様は、その、大丈夫なのですか、結界を広げたと聞きましたが」
「造作でもない……だが、久しぶりだったからな、少し疲れてはいる」
「でしたら、少し時間を空けてから話すとか!」
「今話が聞きたいんだ。ステラ、逃げようとしても、無駄だぞ」
「ば、バレ……い、いや何でもないです!本当に、気になっていたんです。辺境伯領周辺がどんな風になっているのかって。あまり良い噂を聞かなくて」
「いくら、ステラが強いといえど、辺境伯領周辺の魔物はそこら辺の魔物とは比べものにならないほど強い。察しているだろうが、この地に眠る魔力とも関係がある。それを吸って強くなっている。だから、さらにその力を欲して、魔物たちは徘徊する」
「はい……」
思っていたことはあっていた。ここら辺の魔物は、そこら辺の魔物と違うってことぐらいは。戦ってみても、手応えが少しある感じだったし、肉塊も、前戦ったときよりも、強かったイメージだ。そして、肉塊が、もしかしたら、地形の影響を受けているのかも知れないということも新たに分かった。
肉塊に関しては、まだまだ情報が足りないため、戦ってみて、どう、とならないと、なんとも言えないが……
そう私が考え込んでいると、ジッとフィーバス卿が私の方を見ているのが分かった。
「な、何でしょうか。お父様」
「変な魔物を見たといったな」
「な、何のことだか」
「視察にいったというのなら、その報告を聞こうじゃないか」
なんて、お父様は、ニヤリと笑って腕を組む。まずい、まずい、と警告音が鳴り響き、私は引きつった笑みを向けることしか出来なかった。多分バレているし、やっぱり、嘘をつくのは無理があると。
「お、お父様は、私の話を信じてくれるんですか?」
「娘の話を信じないで、どうする」
「……」
「どうかしたか?」
「いえ。じゃあ話しますね。ああ、えっと、先に変な魔物について、お父様が知っていることとか何かありますか?」
親は子を信じるものだと、そうはっきりと言える、フィーバス卿は本当に格好良くて、頼りになる、尊敬すべき父親だと思った。私の前世の父親は、全然そんなんじゃなかったし、無関心で、私の話になんて一度も耳を傾けなかったような人だ。だから、こうして、はっきり言って貰えて、意思を伝えて貰えたのが嬉しかった。
それだけで、舞い上がってしまう私はチョロいのかも知れないけど。
「最近、騎士団の方から妙な報告があったのは聞いている。何でも、赤い物体だそうだな。だが、その姿をはっきりと見たものはいなかったからな。それに、今のところ害はなかったから、放置していた。ステラのように、外に足を運び、その正体を突き止めるのが重要なのは勿論分かっていたが……」
「お、お父様は外に出られないので仕方がないですよ!ね!」
私は、変にフォローを入れてしまい、フィーバス卿の顔がなんともいえない表情になる。気を遣うって大変だなあ、なんて私は笑って誤魔化しながら、今回の外に出てきてまで、娘を心配してくれた、フィーバス卿のその行動に、心を打たれた。本来なら、辺境伯領外に出るのは危険なのに。彼は、危険を冒して。その危険は、民にも及ぶかも知れないのに。
(そっか、フィーバス卿は、やっぱり見ていないんだ。ヘウンデウン教が、人口魔物を作っていることも知らない)
この情報が漏れるのは、星流祭の後だった。だから、知らなくても当然。だからこそ、何故この場にあの魔物が現われたのか理解できなかった。いや、私が知らないだけで、裏ではそういうストリートがありましたっていう感じかも知れないし。そこまで、このゲームが作り込まれているか分からないけれど。
「それで、その魔物を見たんだろう。ステラは」
「は、はい。その魔物……あれは、人工的に作られた魔物です」
「何だと?」
やっぱり、そういう反応をする。それが正常なのだ。
人工的に魔物を作るなんて話、普通はあり得ない。信じられない。でも、それが起こっている。フィーバス卿は開いた口が塞がらないというように、こめかみを掴んだ。
「にわかには、信じがたい話だが」
「当然だと思います。その実験は、表に公表されていないものなので」
「では、何故ステラが知っている?」
「……アルベドに聞いたからです」
「……そうか。全く彼奴は何処まで知っているのだか」
アルベドも知らないことはあるだろう。私も何故知っているか分からないけど、彼の執事がラヴァインと繋がっているスパイだったから、ヘウンデウン教の情報はそこから仕入れているのかも知れない。そうやって集めた情報を、私達に教えてくれて。多分、協力して欲しいというか、ヘウンデウン教を潰すためなら手段は選んでいられないとか、そう言うのかも知れない。
「それで、その人工魔物というものは、どう作られているのだ。ステラ?」
「い、いうのも惨い方法で、です。本当に、同じ人間とは思えない……あれは、人を犠牲にして作られたものです。倒し方も、特殊で……混沌にちかい、でもバグみたいな……言い方があっているかどうかは分かりませんけど、その」
「辛いならそれ以上いわなくても良い。だが……そうか。そんなものが存在しているとは。それも、辺境伯領周辺をうろついていると」
「私が見たのは、一体でしたけど、もしかしたら何体もいるかも知れません。あとは、お父様の結界も破るほどの力があるようで」
「あの結界をか」
「はい。魔物から守るための結界でしたよね。魔物でない、人工物……だから、イレギュラーが生じたんだと思います」
「……早急に手を打たねばならないようだな」
と、フィーバス卿は背もたれにもたれ掛る。
これで、話さなければならない内容は終わっただろうと、私は頭を下げて、部屋から出ようと背を向ける。すると、待て、と後ろから、フィーバス卿が声をかけてきた。
「ええっと、まだ何か」
「アウローラについて聞きたい」
「アウローラですか」
「ああ……少し、申し訳ないことをしたと思ってな」
「え?」