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豊田の怜のマンションに到着した侑の車は、来客用駐車場に車を停め、怜に部屋を案内された。
「ちょっと汚ねぇけど、どうぞ」
「響野先生、九條さん、どうぞお上がり下さい」
怜と奏に促され、二人は挨拶をして室内に入っていく。
「お邪魔します」
「ああ、失礼する」
間接照明の柔らかな光で包まれた二十畳ほどのリビングにはソファーセット、壁に掛かっている大画面のテレビと、その下にはオーディオラック。
そこには、怜がテナーサックス、奏はトランペットを持ちながら怜が奏を抱き寄せて笑みを浮かべている写真を始め、クリスマスツリーの前で抱きしめ合いながら破顔させている二人の写真など、数枚ほどフォトフレームに飾られていた。
傍らの大きなショーケースには、楽器メーカー勤務の怜らしく、ソプラノからバリトンまでのサックスが綺麗にディスプレイされていて、リビングの隅の方には、防音室と思われる箱型の小さな部屋が設置されている。
「ほぉ。怜って恋人と一緒に写っている写真を飾る人だったんだな」
侑が顎に手を添えながら、怜と奏の写真を眺めている。
「俺、好きな女と一緒に写っている写真を部屋に飾るなんてありえねぇって思ってたんだけど、奏だけは別。会えなくても毎日奏を見ていたいって思うんだよな」
瑠衣も侑の隣で、無表情で写真をじっと見ている。
「怜って、そんなにオープンに恋人の話をする人だったか?」
「俺は元々好きな女には一途な性格だけどさ、奏だけは別格なんだよ。『俺の彼女、いい女だろ!』って自慢したくなる」
(…………よほど惚れ込んでいるんだな……)
友人の話を聞きながら、侑は隣にいる瑠衣を見下ろしていると、怜が『に、しても』と話を振ってきた。
「侑と九條さんって師弟関係なんだろ? 二人並んでいると、何かいい雰囲気だよな。奏も思わね?」
怜が、キッチンで飲み物の準備をしていると思われる奏に話を振ると、彼女は
「思う! お二方から漂う雰囲気、何か素敵過ぎるんですけど!」
と、力説するように答え、侑が照れ隠しで唇を僅かに緩ませた。