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そして翌週。
花梨は午後から、飲食店プロデューサーの一ノ瀬俊を浜田の物件へ案内する予定だった。
今日は柊も同行してくれるので、安心だ。
あの日以来、萌香は営業事務に戻されていた。柊が支店長に直談判し、営業職から退けたようだ。
噂では、支店長室からこんな声が聞こえていたという。
「この支店を潰すつもりですか?」
「うちと売買契約を頼んでくれる顧客がいなくなったらどうするんですか?」
「せっかく入った優秀な人材を、常識をわきまえない社員のせいで潰すつもりですか?」
「縁故入社というだけで、営業の最前線に出すのは無理です!」
そんな話を聞いて、花梨は柊への感謝で胸がいっぱいになった。
萌香の地味な嫌がらせは続いていたが、莉子で鍛えられた花梨には、さほど気にならなかった。
(なぜ彼女は、この職場にしがみつくんだろう? この仕事が好きって感じでもないのに……)
そう思っていると、突然背後から声がした。
「あの……水島さん、ちょっといいですか?」
振り向くと、そこには萌香の取り巻きの派遣社員二名が立っていた。
「あ、はい、何でしょう?」
「ちょっとここでは……」
もう一人が、不安そうに小声で言ったので、花梨はこう提案する。
「じゃあ、会議室に行きましょうか?」
花梨は椅子から立ち上がると、二人を連れて会議室へ向かった。
部屋に入ると、さっそく花梨が尋ねる。
「で、用件は何ですか?」
もじもじしていた二人は顔を見合わせ、意を決したように言った。
「実は、これを見てほしいんです……」
一人が携帯を取り出し、画面を花梨に見せた。SNSの投稿のようだ。
「これは?」
「円城寺さんのSNSです」
「え?」
花梨が画面をじっくり見ると、そこには萌香と男性がバーで顔を寄せ合い、カクテルを飲んでいる写真が写っていた。
その男性の顔を見た瞬間、花梨は驚いて叫んだ。
萌香の隣にいる男性が、京極君彦だと分かったからだ。
「え? これって……京極さん?」
「そうです」
「ええっ! どうして? なんで二人は一緒なの?」
「それが、内見に行った日以降、二人で何度も会っているみたいなんです」
「はあっ?」
花梨は思わず大きな声で叫んだ。
そこで、派遣の一人が言った。
「お客様とこういう関係になっても大丈夫なのかなって、二人で話していて……」
「相手が普通の人ならまだしも、超有名人ですよね? SNSに京極さんの写真を晒して大丈夫なんでしょうか?」
二人の言葉を聞いた花梨は、慌てて言った。
「もちろんダメに決まってるじゃない! 一体どうしてこんなことに?」
「円城寺さんは、向こうからしつこく誘ってきたと言ってましたが、私聞いちゃったんです」
「聞いたって何を?」
「会社のトイレで、京極さんらしき人と電話で話しているのを」
花梨は驚きながら言った。
「で、どんな感じだったの?」
「会話の内容からは、明らかに円城寺さんの方からしつこく誘っている感じでした」
「…………」
花梨は絶句して何も言えない。
しかし、そんな花梨をよそに、二人は続けた。
「私たちも驚きました! まさか、お客様である京極さんに直接アプローチするなんて……」
「本当ですよ! 円城寺さんは城咲課長を狙っていたのにどうして……」
その言葉に、花梨はふたたび驚く。
「城咲課長を? そうなの?」
「はい。城咲課長は自分に気があるみたいだって、いつも言ってましたから。だから、すぐに落としてみせるって……」
その言葉に、花梨は目を丸くして言った。
「課長を……落とす?」
「「はい」」
花梨は思わず吹き出しそうになった。
(あんな隙のないイケメン王子を、円城寺さんみたいな女が落とせるわけないじゃない! 自信過剰なところも莉子にそっくりね!)
花梨は笑いをグッとこらえながら、ぽつりと呟いた。
「そうなんだ……」
すると、派遣の一人が言った。
「これって、まずいですよね?」
「そうね……まあ、社員のプライベートにはあまり首を突っ込めないけど、相手がお客様だとちょっとまずいかも」
「私たち派遣だから、誰に相談したらいいのかわからなくて」
「それで、水島さんにお願いしようって思ったんです」
「そうだったのね」
花梨は、まだこの会社に来たばかりなのに、二人が自分を頼ってくれたことが嬉しかった。しかし、急にハッとして二人に聞いた。
「え? でも、あなたたちは彼女と仲良しだったでしょう?」
「仲良しってほどでは……。ご機嫌を取らないと、仕事で意地悪されるんで、適当に合わせていただけです」
「そうです! 派遣の立場は弱いので、嫌がらせをされないよう仲がいいふりをしていただけです」
二人の言葉に、花梨は驚いた。
「そうだったんだ……」
「はい。でも、今回のことは見過ごせなくて……うちの会社が騒動に巻き込まれたら困りますし。だから、水島さんに知らせようと思って……後のこと、お願いできますか?」
「分かったわ。上に伝えておきます」
「ありがとうございます。あ、あと、私たちが密告したことは、円城寺さんには内緒にしてくださると助かります」
「あの人、怒らせると怖いので……」
「うん。そこは心配しなくて大丈夫よ」
「「ありがとうございます」」
「知らせてくれてありがとう。そろそろ仕事に戻った方がいいわ」
「はい……」
「失礼します」
二人はホッとした様子で会釈をし、会議室を後にした。
会議室に一人残った花梨は、傍にあった椅子に腰を下ろしぽつりと呟いた。
「ふぅ……どうしてこう次から次へ問題が起きるのよ……」
花梨が重いため息をついた瞬間、会議室の扉にノックの音が響いた。
コメント
46件
花梨ちゃんのため息の後は柊様登場❣️だといいな 円城寺の暴走も柊様が上手く利用して円城寺を辞めさせてくれると良いけど 柊様花梨ちゃんの為支店の為 頑張ってくださいね🙇
ため息の後のー ノック音…お願い🙏柊さんカモーン🫣
萌香ったら見境ないわ〜(๑*д*๑) 柊さんに相手にされないから京極とは💦 京極からクレームありそう●~*取り巻き2人もやはり表面上だけ仲良くしてたんだ😂 花梨ちゃん〜柊さんに報連相だよ✊🏻*✭