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その日の夜のことだった。
「俺はいったい、どうしたらいいと思う?」
晩ごはんをみんなで食べたあと、僕の部屋まで来たシモハライさんが、困り果てたように相談してきたのである。
ちなみに、シモハライさんは真帆ねえと籍を入れはしたものの、まだ独り暮らしを続けており、実質別居婚状態となっていた。
そのうち部屋を引き払ってこっちに引っ越してくるつもりだそうなのだけれど、それがいつになるかはまだ今のところ決まっていないらしい。
「どうしたらいい、って言われてもなぁ……」
僕だって、そこに明確な答えなんて出せるはずもない。
シモハライさん曰く、ここ最近どうにも真帆ねえとの間に距離を感じているらしく、なんとか話しかけようとしても、
「すみません、ちょっと体調が優れないので、また今度にしてもらえますか?」
とばかりいわれて、まともに話せていないというのだ。
確かに、それには僕も気づいていた。
何故か知らないけれど、ここ一週間ほど、真帆ねぇはシモハライさんをどこか意図的に遠ざけているように見えるのである。
妊娠が発覚して籍を入れた直後くらいまでは、これまでに見たことのないほど、上機嫌でハイテンションに歌って(軽く)踊っていた真帆ねぇだったのだけれど、今の真帆ねえの様子は誰から見てもおかしいのは明白だった。
「おれ、なにか悪いことしたかな? なにか聞いてない?」
「悪いこともなにも、シモハライさんは毎日晩ごはん食べにくる程度じゃない。特になにもしてないと思うけど?」
「だよなぁ? そうだよなぁ?」
「むしろそこが問題だったとか?」
「そこって、どういうことだよ?」
首を傾げるシモハライさんに、僕は「だから」と手を向けながら、
「真帆ねえが必要としているとき、シモハライさんがいなかったから、とか」
「それは――それをいわれると――う~ん……」
シモハライさんは腕を組み、苦しむような表情を見せる。
「まぁ、実際はどうなのか、僕にもわかんないけど……」
「茜ちゃんは? なにかいってなかった?」
「茜さん? 特になにも聞いてないけど。気になるんなら、茜さん本人に聞いてみればいいのに」
「そういわれてもなぁ」
とシモハライさんは再び眉を寄せて、
「真帆に近すぎるぶん、あれやこれや色々いわれそうな気がしてさ……」
「なにそれ」
僕は思わず呆れてしまいながら、
「それが怖くて僕を頼ってきたってこと?」
「うん、まぁ、そうなるかな……」
僕はそんなシモハライさんに、思わず、
「情けない」
「うぅ……そういうなよぉ」
わざとらしくシモハライさんは泣きそうな顔を作って、
「頼むよ、協力してくれ! ようやく真帆と結婚できたのに、子供ができたのに、あっという間に離婚なんて話になったりしたら、俺は絶対に立ち直れなくなっちゃうよ~!」
両手を合わせて拝むように頭を下げてくるシモハライさん。
こんなシモハライさんを見るのは初めてだ。
いつもは飄々としている印象なのに、ここまで狼狽えている姿なんて、僕だって見たいとは思わなかった。
「……わかったよ、それとなく聞いてみる」
「ありがとな、カケル! やっぱ頼りになるのはお前だけだ!」
突然抱きついてきてパンパン背中を叩いてくるおっさんの身体を、僕は両手で押しやりながら、
「いいから、そんなにくっつかないでよ!」
「なんだよ、カケル。俺とお前の仲じゃないか~!」
「どんな仲だよ」
「ほら、カケルが小さい時からよく遊んでやってたろ? 絵本を読んであげたこともあったろ? これって親子みたいなもんじゃないか!」
親子。
その言葉に、僕の心の何かが揺れる。
締め付けられるような、その何か。
なに言ってんだよ、と突っ込みたくても、何故かそれができなかった。
何故――なんてその理由は解っている。
僕は今も、その可能性を疑っているからだ。
僕は深いため息を吐いてから、
「……とにかく、明日聞いておくから、ちょっと待ってて」
「さすがカケル! ホントにありがとな! 愛してるぜ!」
そんなシモハライさんに、僕はやれやれと、肩をすくめてみせたのだった。