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月咲やまな
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「なんで和室なんだよっ!」
謁見の間に通されたレンタロウが叫ぶ。
低めに発したその声は、ムダに広い空間に消えていった。
「よく来てくれた。長旅ご苦労であった」
レンタロウに労いの言葉をかけたのは、“玉座っぽい座椅子”に鎮座したハミデール国王だ。
赤いカボチャのようなボリューミーな王冠が残念さを醸し出す。
グリンと上にカールしたヒゲを蓄えた面長の顔。
国王が斜に構えると、トランプのカードの絵そのもの。
キングかよ! いや、キングか……。
ハミデール国王を見たレンタロウの率直な感想だった。
いや、ちょっと待てよ。
僕が誤召喚されたのって、国王が原因じゃなかったっけ?
酔った勢いで作曲家の龍廉太郎を呼べとか、女神に命令したのって、ハミデール国王じゃん……。
鶯色の壁に囲まれた和風テイストの謁見の間は、なんとかドーム3個ぶんの広さがある。
レンタロウがくぐり抜けてきた大きな扉が霞んでみえる。
スーパー銭湯の宴会場にでも来たのかという錯覚に陥ってしまう。
広い空間にポツンと佇む、点と点。
少年とおじさんとの間で、沈黙という名の会話が繰り広げられている。
「あの大きな穴は一体なんです?」
レンタロウは、細めた目を天井に向ける。
その距離、60メートル。
見上げた首が、へし折れそうだ。
「ワシと愛娘の共同作業と言っても良いかもしれん」
「どういうことです?」
「そなたは、“たかいたかい”を知っているかな?」
「ちびっ子の両わきを支えて、高く持ち上げてやる遊びのことですか?」
「高すぎたらしい。娘を天井にぶつけてしまったというワケでな。美しい肌にキズひとつ付かなかったところをみると、さすがワシの娘といったところか」
幼いころの王女を60メートル上空にブン投げたという国王が、頑丈な娘自慢をしてくる。
レンタロウは、再び天井を見上げる。
何度確認しても見事な大穴だ。
というより、人の形をしたミゾか。
王女がどれだけの衝撃でぶつかったか、容易に想像できる。
「ウワサをすれば、娘が来たようだ」
破顔したハミデール国王が、遠く離れた扉を見据える。
「とぅっとぅ、とぅるぅ~ん!」
豪奢な扉が開くと同時、少女の透き通るような声が飛んでくる。
“おほほ笑い”をしながら、少女が畳の上を進んでくる。座椅子ごと。
座椅子は、王族パワーで動くらしい。
排ガスもない。
魔力消費も一切ない。
かなりエコな乗り物っぽい。
「って、おい! どこ行くんだよ!」
つっこみを入れたレンタロウの横を、とぅるんっと少女が通り過ぎていった。
やはり王族。座椅子にはブレーキがなかった。
高そうなひじ掛けは装備されているのに。
少女を搭載した座椅子は、100メートル先の壁面に激突する。
大股を広げてすっころんだ少女は、れっきとしたハミデール王国の第一王女である。
「街で見かけた、フィーバーしたパチンコ台少女か……」
レンタロウは嘆息まじりで、思いついた言葉を口にした。
サプライズ的に登場した王女の姿を、レンタロウはジットリとした目で眺めている。
「自己紹介をしてなかったわね。わたしは『アンネローゼ・ドコミテンダー・ボディスポンジ」
「スポンジ? 硬め? やわらかめ?」
「わたしの名前を最後までお聞きなさい……続きから言うわね……スコティッシュフォールド・ショートヘアー」
「まだあるのかよ……なまえ長いね……で、なんて呼べばいいの?」
「“民クソ”からは『ドコミ』って呼ばれてるわ!」
おい、民草(たみくそ)に謝れ!
レンタロウに背をむけ、王女はだれもいない空間に話しかけていた。
どこ見てんだよ、この王女。
ああ、だから『ドコミ』なのか……。
なまえが長すぎる。いっそのこと、『寿限未(ジュゲミ)』とかでいいんじゃないかね……。
愛娘に触発されたのか、ハミデール国王が動き出した。
リクライニング機能つきの座椅子に正座したままで移動する。
赤い絨毯の張り付いた10段ある階段を、ガッタンゴットンと下りてくる。
「来てもらったのは、ほかでもない。アホ女神が誤って召喚したレンタロウ。そなたに頼みたいことがあってな」
地面に到達した国王が、巨大な宝石がくっついた杖で畳をコンと突く。
ガッツリと畳にぶっ刺さった杖が抜けなくなっている。
「あれま……抜けないね……」
諦めた様子の国王は、杖を深く押しこんだ。
長めのジョイスティックかよ、と思いながら、
「謹んで辞退します!」
レンタロウは、秒でお断りをいれる。
王族からの頼みごとなど、ロクなことがないと思ったからだ。
いや、誤召喚の元凶からの依頼など、拒否して当然だ。
「報酬は、これでどうかな、ユルドルで」
ハミデール国王が、レンタロウに向かって5本+1の指を立ててみせる。
金額を口に出さないのは演出だろうか。
受け取る側によっては、解釈が分かれそうだ。
「国王がサングラスの魔法使いを召喚するアレですか?」
「500万1ユルドルという意味だ」
「はい、よろこんで!」
ハミデール王国の通貨単位は『ユルドル』。
ゆるい米ドルということらしい。
レンタロウは光速で国王からの依頼を承諾する。
彼の表情に迷いはない。
500万ユルドルで、国民的な駄菓子(ゆるい棒)が5億本ほど買えるからだ。
ゆるい棒は、食物繊維たっぷりの菓子。
1本でお腹を壊すという、ダイエットにぴったりの逸品だ。
棒でジャングルジムでも作ろうか……。
何味がいいんだろう……。
いまになって少しイヤな予感がこみ上げてきた。
ムチャ振りだったら断ればいいか……。
レンタロウの様子をうかがっていた国王が口を開いた。
「そなたは追放!」
王からの依頼は、レンタロウが国を出ていくことだったらしい。
罪状は、王族への暴行(殺人未遂)。
本来なら極刑だが、国外追放で済んだらしい。
王妃(ズル女)、王女がフォローしてくれたと、国王が付け加えた。
帰り際、明細書を渡された。
~ 明細書(月刊 女神通信 増刊号) ~
◆プロローグ
レンタロウさん、お久しぶりです!
女神でーす!
法務と経理も担当してます。
王様ったら、女神使いが荒いんですよ……。
明細書を発行したんで、ご査収くださいな。
◆明細
誤召喚の賠償金(慰謝料):1ユルドル
人命救助(王女の救出):500万ユルドル
計:500万1ユルドル
追伸(PS1)
女神通信は月イチでお知らせ。毎月1日発行で~す!
次回(特集号)は、レンタロウさんと、カタクリ子ちゃんのステータスを教えます!
追伸(PS2)
お支払方法:指を鳴らしてください。その場でお支払いします。
追伸(PS3)
支給品:鈍器のようなもの300です。
追伸(PS4)
えっと……。
レンタロウは、明細書を丸めて投げ捨てた。
オカネをどうやって持って帰ろうかと悩みつつ、指示どおり、指を鳴らしてみる。
謁見の間の天井(地上60メートル)から、500万1ユルドルが落ちてきた……。
遅れて、鈍器のようなものが、これでれもかと舞い落ちる。
数は300本。
「要らねぇ……」
数秒後。
空気嫁のカタクリ子DXが落ちてきた。
レンタロウが天井を見上げる。
薄ら笑いで手を振っている修道女のエルネスタが居た……。
「カタクリ子さん……畳に刺さってるじゃん……。いいや、帰ろう」
~ 後日談 ~
抜けなくなった空気嫁(カタクリ子DX)がある謁見の間は、ちょっとした観光名所になったらしい。
伝説の空気嫁を引っこ抜いた勇者には、300万ユルドルがもらえるというイベントが開催された。
ことの始まりは、国王の「すんげぇ邪魔だから、どかして!」という一言だった。
空気嫁は誰にも引っこ抜けず、イベントは閉幕したようだ。
数日後、レンタロウの召喚により、空気嫁があっさりとスッポ抜けたのはいうまでもない。
伝説の空気嫁を引っこ抜いた勇者&出禁を食らった不敬な輩として、レンタロウの名は後世まで語り継がれるのだった。
報奨金の300万ユルドルは、レンタロウの定期預金口座に振り込まれた。
300万ユルドル報奨金に所得税を引かれていたことに、レンタロウがぶち切れたのは、ここだけの話である。