今までは服もデパートやセレクトショップで購入していたが、
今の自分にはその財力はない。
まさか自分がどこにでもあるようなショッピングモールで服を買う事になるとは、
思ってもいなかった。
普段来ない場所なので、どんな店が入っているかもわからない華子は、
とりあえず手当たり次第に店を覗いてみる事にした。
そんな華子の後を、ランジェリーショップの紙袋を抱えた男が無言でついて来る。
華子はそんな陸の事はおかまいなしに、端にある店から見て回った。
しかし、華子が気に入るような服はなかなか見つからない。
デザインが気に入っても、品質がイマイチだったり縫製が粗悪な品だったり、
なかなか華子のお眼鏡に適う服は見つからない。
(どれも最悪ね…)
そのあまりの状況に絶望していると、目の前に見た事のあるロゴが現れた。
普段華子が愛用しているジーンズのブランドショップだった。
(良かった、ジーンズはいつも履いているのと同じ物が買えるわ)
華子はすぐにその店に入り、定番のジーンズを二本選んだ。
陸はすぐに支払いをしてくれる。
「上に着る物も必要だろう?」
「わかってる! 今から見るわよっ!」
華子はイラついた様子で言う。
そんな華子を見て、陸は笑いをこらえながら後をついて行く。
少し歩いた先に、雰囲気の良さそうな店があった。
もちろん華子が聞いた事もないブランドだ。
しかし、ショッピングモールの店の中では俄然センスが良い。
ディスプレイされている服も、華子の好みそうなデザインばかりだ。
華子は迷わずその店へ入ってみる。
思った通り、店内には華子の好みの服が沢山並べられていた。
「ここで選ぶわ」
華子は隣にいた陸にそう告げると、軽快な足取りで服を見て歩く。
「うわっ、可愛いっ! えっ? これってこんなに安いの?」
華子は値札を見て目をぱちくりさせている。
華子が手にしていたのは、アイボリーのコットンセーターだった。
衿はVネックで身体にフィットするようなラインが華子の好みだ。
肌触りもとても良く着心地が良さそうだ。
隣りの棚を見ると、衿がクルーネックの物もある。これも華子の好きなデザインだ。
色はアイボリーやブラックの他に、上品な淡いパープルや薄ピンク色もある。
華子はピンクが好きなので、その薄ピンク色のセーターを手に取ってみる。
そして、先程のアイボリーと薄ピンクのセーターを見比べて悩み始める。
そこで陸が言った。
「気に入ったのなら、全色買えばいい」
「いいの?」
「大して高くないから大丈夫だ」
陸の言葉を聞いて思わず華子は笑顔になる。
今までの華子は、ボーイフレンドや店の客達にさんざん高い物をおねだりしてきた。
もちろん彼らは望み通りに華子が欲しがるものを全て買ってくれた。
だから、男性に欲しい物を買わせる事には慣れていたし、
その欲求が満たされるとそれなりに嬉しかった。
しかし、今の喜びは今までの嬉しさとは違う。
何と表現していいのかわからないが、とにかく心の中がじんわりと温かくなるような感覚だ。
ブランド品でも高級な服でもなくどこにでもあるような安物の服なのに、
なぜ自分はこんなにも嬉しいのだろうか?
(フフッ、こんな安物で喜ぶなんて、私も堕ちるとこまで落ちたもんだわ)
華子は嬉しくて素直に陸に礼を言う。
「ありがとう」
華子があまりにも素直に言ったので、陸は少し驚いた顔をしていた。
しかし華子はそんな陸の様子には気づかずに、嬉しそうに色違いのセーターを手に取っていた。
思いつめて自殺をしようとし、ずっと虚勢を張っていた女が今目の前で楽しそうにショッピングをしている。
(買い物を楽しめるくらいなら大丈夫かもしれないな……)
陸は少しホッとした様子で顔を緩める。
そして華子に言った。
「何か羽織るものも買った方がいいぞ。まだ肌寒い日もあるからな」
「うん、わかってる……」
華子は頷くと、先程のセーター四枚を陸に渡してから、コートが置いてあるコーナーへ向かった。
結局、その後華子は、スプリングコートを一着、カジュアルなヨットパーカーを一着、
そして、数枚のカットソーと靴下などのファッション小物を購入した。
いくら安い店でも、それだけの物を買えば、軽く5万円は超える。
先程買った下着やジーンズを合わせたら、合計額は10万円を超えている。
しかし陸は何も言わずに支払ってくれた。
(今日初めて会った女に、こんなにお金を出してくれるなんてこの男は何を考えているの?)
そう思いながら、華子は店を出た。
コメント
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陸さんは やはり大人の男✨ 気が強く 生意気な華子さんを可愛がり 心配してあげる余裕があり、さすが‼️カッコ良い....💖 華子さんも そんな陸さんに触れ、少しずつ変わりはじめてる⁉️
スポンサー陸さんは手のひらの上🫲で華子を転がしてる感じ⁉️🤭 でもやっぱりまだ今日の今日だから華子の様子をしっかり観察中🔍