テラーノベル
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もな
「どりゃああああっ!」
ーーさっさと、レンタローとハーちゃんを助けたいんですけど!
その想いを胸に、相手に突っ込もうとした瞬間、頭上の血で造り上げられた蝶々が爆弾に変身して、数秒の猶予の後、爆発した。
それを全力で避けなくちゃいけないのが、ものすごい厄介。
何百年ぶりだろう、こんな叫び声をあげたのは。
上を見上げればイカれた思想の持ち主。
そんでワタシは逃げ回る。痛覚ないけど、怪我はゴメン蒙(こうむ)りたいね。
さっきからアマレーに技を叩き込もうとしても、先に技を繰り出されて逃げる、そんな事しかしてない。
これ、何回繰り返せばいいんだろう。
眼前の悪者の狛犬ーー幹部のアマレーは、相変わらず門の上で高みの見物。
ウッザいなぁ!あの余裕な顔!
「大丈夫〜?マジになってて笑える」
「黙れや若者!」
アマレーは、自身の左腕をカッターで傷つけて血液を出しては、それで爆弾やら罠やらを作り出して、どんどんワタシを目的地から遠ざける。
ワタシはダンスするみたいに、ステップを踏んで後退をする。
えっと、なんだっけ?ああいう傷つけたりするのって、なんていうんだっけ。
頭の中で、以前どこかで聞いた情報を探し出す。
あっ、そうだ「リストカット」とかいうやつだ。
自傷行為ーーアイツは自傷行為で戦っているんだ。
血を媒介にしてるんなら、いつか貧血になってぶっ倒れるかもしれない。それまで耐えるのみ。
ここは森、つまり木が生い茂っている緑の場所だ。空は夜の色になり、月は雲で隠れた。周囲は見辛い。戦闘には不利な状況。
昔、ここで火災があったせいだろう。今にも折れそうな木や、黒く灰になった草がそこら辺に転がっている。炎の荒々しさが見て取れる。
「どっこいしょっと!」
一度アマレーと目線を合わせるために、ワタシは木の枝へと猿のごとく登ってみた。
鞭で枝を縛って、助走をつけたあとに大ジャンプ。
ぐるっと空中で一回転して、そのまま枝の上に乗っかった。
その瞬間、さっきまでいた地面が、アマレーの血で染め上げられた。血で作りだした爆弾が、数秒遅れて爆発する。腹に響く轟音が、森を揺らした。震度三くらいの揺れ。
「わっと……!」
葉たちがびっくりしたみたいに、一斉にしゃらしゃら、うるさい音が鳴る。
「うぇーい、あっぶな〜い」
枝の安全圏で、ワタシは笑ってやる。ふざけて手でチョキの形も作ってみる。
……邪魔くさいなぁ。
下を見る。
爆発で地面は抉れ、土と血が混ざって、失敗したカレーみたいな色になっていた。
あんな場所、好き好んで歩きたくないね。お気に入りの服が汚れちゃう。戦闘でお気に入りの服を選んだワタシがアホだけど。
「逃げてばっかじゃん」
門の上から、アマレーが頬杖をついて笑う。
「もっと近く来なよ。愛してあげる」
上から目線なその言葉が、ワタシには煽りにしか聞こえない。きっとコイツからしたら、本当に愛そうとしているだけなんだろうが。
それでも、出会ったばかりのヤツ愛そうとするのはおかしい。
「その愛は返品希望で〜す」
歪なウィンクをプレゼントしてあげる。
が、その時。
しゅるるる……っ!
空気が、斬られる。
その音が、こちらに近づいてくる。
最終的に、それの着地場所は、ワタシが立っているこの木だった。
ーー赤い槍が刺さっている。
それは、ワタシの耳にギリギリ刺さらない程度の距離。むしろ、ワタシに刺さらなかったことが奇跡。
さっきまで、アマレーが持っていたものだろう。
でも、投げてくれたんなら、利用して戦闘をするのもあり。
「うおっと、びっくりーー」
した、とまで言おうと思ったところで、ワタシの危機察知能力が警報を鳴らす。
「これ、このままだと死ぬ!」と叫ぶ。
槍が、小さく唸り声を上げている。ぽたぽたとアイスが溶けるように、原型が無くなっていく。
溶ける、唸り声、血液、能力、槍……爆弾。
その言葉を脳内で並べて、次に起こるであろう未来を予測した。
「やば、逃げまーすっ!」
そのままターザンみたいにひゅるりと移動して、新たな安全圏に身を置いた。
その刹那、槍が爆弾へ変質した。
腹の底を揺らす爆音。
爆風が木々を薙ぎ払い、枝葉が嵐みたいに吹き荒れる。
「連鎖技!?ずるすぎるわ!」
というのは嘘。爆発するまでの時間が遅い、余裕で逃げられる。でも、そんな小賢しい技もできるのね、把握。
「逃げたんだから大丈夫っしょ!」
吹き飛ぶ木片を鞭で弾きながら、また別の枝へ飛び移る。
ただ、これで終わらないのがこの敵。
背後からまた、爆弾が投げられる。三つ。
この爆弾めんどくさいんだよなぁ。
ワタシは、足の筋肉を使って空へと跳んだ。
「さっきから……」
空中で身体を捻る。背後にある爆弾をしっかり捉える。
鞭を乱暴に振り回し、そして。
「それやめてよねっ!」
爆弾三つをまとめて縛って、そのままアマレーの方にぶん投げた。
「お返しよ!」
……と、アマレーの方にぶん投げたつもりが、ワタシの狙いが下手くそだったようで、爆弾が爆発したのは誰もいない地面に着地してからだった。
爆風が、ワタシの前髪をかきあげて、おでこを露わにさせる。
「あー……今のミスったわ」
とりあえず、元の木の枝にもう一回着地しておく。
「……質問だけどね」
アマレーが、門の上で立ち上がり、左腕を撫でながらワタシの方を見つめる。その目はどことなく、嫌いなリアスとよく似ている。
「君はクローンなんでしょ?リアスの。」
笑い方さえも、嫌いなリアスに似ているから、余計に早くこの戦闘を終わらせたい気持ちが加速する。出来ればアイツの顔なんて、浮かべたくないもの。
腰に手を当てて、その質問に質問を返す。
「リーダーのことを、よく呼び捨てできるな。
というか、ワタシの“それ”に何か用?
リアスのクローンって言うか、正確にはイロハのクローンだけど。」
リアスは、桜月イロハの一代目クローン。
そしてワタシは、その成功版。
リアスが“失敗作”だったから、代わりとして造られたーーそれがワタシ。
だからリアスは、ワタシのことが嫌い。
ワタシもリアスのことは嫌い。
悪い意味で、相思相愛。
アマレーは、ワタシのこの特殊な生い立ちに、何を言う気なんだろう。
ヒトじゃなくて可哀想だね、とか?
そんなの、何回言われたことか。今更、怒ったりしない。
腕を組んで、その言葉を待っていた。言われた時に、かっこいい返答ができるように思考をめぐらせる。
でもアマレーの次の発言が、想像の斜め上を突き抜けて行った。
「ほんとうに、何色の血なのかなぁ?」
「……」
あぁ、そっちか。
そうだよな、コイツはそういうこと言ったりしないよな。
そして、アマレーの顔を直視した時、吐き気が襲ってきた。
頬が、ほろ酔い状態のニンゲンみたいに、ほんのり赤く染めあげられていた。
目は細められ、ワタシの顔をまじまじ眺める。その顔が、余計に吐き気を誘う増強剤になる。
捉え方によっては、ストーカーが影から好きな人を見守る時の顔にも捉えられる。それが本当に……。
そんなワタシの吐き気なんて気にも留めず、アマレーはさらに続ける。
「クローンってことは、身体はニセモノなんだよね?そうだって前にリアスから聞いたよ。それでさ、思い出したよ。」
ーー”クローンは人間とは血の色が異なる”
「ーーそう言ってた!それって”特別な愛”ってことよね!」
「……」
何となく予想してた。
コイツの情報を読みとった時から、きもい思想の持ち主だってわかった時から。
ずっと、こういう展開は、覚悟してた。
でもまさか。
「ビンゴ……だなんてね」
最悪だわ、冗談抜きで。
無意識に、乾いた舌打ちが漏れ出てしまう。
「舞い上がってんじゃないわよ〜?」
口を大きく開いて叫びたいところを、何とか横に伸ばして微笑んでみる。
「ははっ!舞い上がるに決まってるじゃん?」
アマレーは、無邪気に門の上でくるくる回りながら、大きな独り言を漏らす。
「ねぇ何色?青?黄色?紫?ねぇ教えて!」
「アンタみたいなヤツに教えるか」
「え〜なんか怒った!短気すぎ」
このクソガキ。
……っと、たしかに短気なのは間違えてない。
これはワタシの悪い癖。怒れば周りが見えなくなって、それこそ戦闘には不利だ。
戦闘には、感情なんてものいらない。
こんな質問、無視しとけばいい。
ワタシはすました顔して、その後は何も言わなかった。アマレーは「匂いはするの?血管の色は?ねぇねぇー」と耳障りな雑音を口から出す。
それでもワタシは何も言わなかった。
何も、本当に。
その選択が、間違えていたってことも知らず。
十数秒間、ワタシは動きもしなかった。
何も反応しなかった。みんなそれで諦めるはずなのに。
コイツだけは違った。
ワタシが何も言わんと察した彼女は、
「……ふーん。教えてくれないんだ、じゃあ。」
左腕をまた、カッターで切りつける。
ぽたり、と。
血が門の瓦へ落ちた。
そのあとで、 アマレーは、瞳孔を大きく開いて笑った。
「あたしが、この手で確かめて、愛してあげる。」
ぞわり、と。嫌な予感が背筋を走った。
吐き気とセットでこの恐怖感、あの時以来だわ。
ぽたぽたと彼女の流す血が、姿を変えていく。アマレーは血が溢れ出る腕を、ぶんっと横に振る。
するとアマレーの血は空に飛び散り、空中で無数の針へ変わる。それは、即座にワタシの方へと軌道を変更した。
「っ……!」
咄嗟に鞭を振るう。飛んでくる方向すべてに鞭を振り回し、針はどこかへ吹っ飛ばされる。
ーーこいつ、まさか、この流れでワタシの……!!
それは嫌だ、絶対嫌だ、死んでも嫌だ。
歯を食いしばる、身体が勝手に力を込める。足が震える。こんな雑魚な攻撃だけに。
絶対に……特にコイツだけには。
けれど、 一本だけ。
ワタシの防御網をくぐり抜けて、目の前に迫ってきている。
それにワタシは、気づくのが遅かった。
「しまっーー!」
顎を引くけど、時すでに遅し。針は、ワタシの頬を逃すことなく、綺麗にかすってしまった。
その触感は痛くは無いけれど、とても不愉快なもの。
すぐにこの目に映った自分の血は、今まで見てきたアマレーなんかより、ずっとずっと気色悪いものだった。
「……あ」
溢れ出たのは、鮮やかな、”緑色”。
森の闇の中でも分かるくらい、不自然な色。
……しくじった。焦ったせいだ。
数秒の 静寂。
その沈黙を破ったのは、やっぱりアマレー。
ワタシなんて、もう喋る気は無い。
アマレーの頬が、熱に浮かされたみたいに赤く染まった。
「うそでしょ……ほんとに違う」
恍惚とした声、耳障り。
その目は、宝石でも見つけたみたいに輝いていた。
「すごい……すごい!!」
ぱちぱちと小さな拍手の音。
こんな状況、いつもなら「気持ち悪い」「バケモノ」とか、そういうことを言われておしまいだった。
でもコイツはこれで終われない。コイツをどうにかしない限り、一生、アホカップルの元に行けない。
リアスめ、やっぱりワタシの弱点を突いてきやがった。
いつか倍返ししてやる。
「……だから嫌いなんだよねぇ」
袖で乱暴に頬を拭う。
緑色の血が、白い布に滲んだ。お気に入りの服も、これで台無し。
「血も、自然も」
森を睨みつける。
「緑のもの、全部」
だから本当はここにいたくない。ハーちゃんには悪いけど、この森のこと嫌い。
ワタシは、人工的なものしかない街の方が好きだ。
「よくもやってくれたなぁ?若者。」
鞭を、握り直す。
でもまぁ、これで気楽になれますわ。血を見られたくないからずっと逃げていたけど、見られたんならしゃーない。
もう捨て身で戦う。
「こっからは手加減なしだぜぇ?」
ニタニタと笑っているのが、自分でもわかる。相手からしたら、ものすごい悪い顔をしてたりするのかな。
別にいい。せっかく秘密を知られたんなら。
――“ジンガイ”らしく、狂ってやるしかないじゃない。
第三十一の月夜「水面の涙」へ続く。
コメント
3件
マーちゃんのターンですね🥰 台詞回しが本当に凄くて参考になります。 続き楽しみにしてます😄
わあ、36話、読み終えました……! もう冒頭から息が詰まる戦闘で、ページをめくる手が止まらなかったです。 特に、アマレーのあの「愛してあげる」の台詞、背筋がゾッとしました……。 そして何より、主人公の血が“緑色”だとばれてしまうシーン。 あの瞬間のアマレーの恍惚とした表情と、主人公の「しくじった」という悔しさが、すごく生々しくて。 「緑のもの、全部嫌い」っていう呟き、今まで抱えてきた孤独の重みを感じました。 最後の「ジンガイらしく、狂ってやるしかない」の覚悟、痺れました。 次が本当に楽しみです……!