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お祭りの準備は、村じゅうをすっかり変えていた。いつもの茶色い屋根の家には、赤や青の布がひらひらとかかり、
窓からは色とりどりのリボンが風に揺れている。
パン屋さんの前では、甘いにおいのするパンが山のようにつまれ、
子どもたちが「ひとくちだけ〜!」と手を伸ばしては、おばさんに笑って追い払われていた。
鍛冶屋さんのところでは、星の形をした小さな鈴を打っていて、
カン、カン…と金属の音が遠くまで響く。
その音に合わせるように、広場では楽師さんが笛をふいていた。
「星のおまつりは、十年に一度しか来ないんだよ」
おばあさんがそう言っていたのを思い出す。
十年後、わたしは十六歳…きっと今とは全然ちがう。
だから、このお祭りはぜったい特別にしなきゃ。
わたしは両手に金色の卵を抱えながら、
村の坂道をゆっくりと登っていった。
卵はあたたかく、まるでわたしを信じてくれているみたいだった。
でも、村はずれの森の入り口にさしかかったとき──
木の上から、ふしぎな視線を感じた。
「……?」
見上げると、ふわふわのしっぽが何本も、
葉っぱの間からぴょこっと揺れていた。