テラーノベル
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運ばれてきた料理を黙々と食べ、食後のアイスコーヒーで喉を潤しながら、優子は再び回想の海へ身を委(ゆだ)ねる。
(あの男と、顔を合わせたら文句を言い合う日々も、もう少しで終わりか……)
そんな事を思いながらも、どこか寂しいと感じている自分がいる。
今まで、元恋人の豪を始め、合コンで知り合った男たちに、気の強い部分を見せた事はない。
『いい女』でいようと、猫を被っていたように思う。
それが、二ヶ月前に知り合い、拾われた拓人という男には、自分の素を曝け出していた。
男が優子を揶揄い、彼女が文句を言うと、小さく笑いながら茶化す。
身体を交えた後も甘い雰囲気にはならず、拓人が優子をいじり、彼女が口撃(こうげき)すると、男は小馬鹿にするように、クククッと笑い……。
どうって事のない日常の光景が、彼女にとっては新鮮に感じていた。
そんな自分が拓人といると、いつしか楽しいと思うようになっている事に気付き、優子の中に波紋が広がる。
(男性と一緒にいて、楽しいって思ったのは……あの拓人って男が……初めてかもしれない……)
けれど、と彼女は思い直す。
(こんな事、拓人って男には言えないし……)
食事を終えた優子は、会計を済ませて店を後にすると、重い足取りでホテルに戻った。
部屋に入ると、彼はソファーに座り、悠然と脚を組みながら、スマートフォンを触っていた。
「出かけてたんだな」
ムスッとした声音で問い掛けられた優子は、行き先を正直に伝えた。
「駅前の立川産婦人科に行って、緊急避妊薬を処方してもらってきた。アンタ、昨日、思いっきり中に出したじゃん」
「あっ……ああ、悪かった……」
彼女の言葉に、男は微かに表情を怯ませたように見え、優子は虚を突かれる。
「わっ……悪かったと言っているわりには、悪いと思ってないよね?」
「いや…………やり過ぎたって……思ってる」
「……まったく。テキトーな事を言っちゃって……」
優子はバスルームに向かい、洗面所で手洗いとうがいを済ませた後、緊急避妊薬を服用した。
鏡に映る自分の表情を、しばしの間、見つめる彼女。
一寸先は闇、と思いつつ、優子は、ハアッと短くため息を落とした。
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