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及川視点
放課後、部活が終わった頃、スマホがまた震えた。
――母さんだ。
画面を見ただけで、心臓がきゅっとなる。
着信履歴が連続している。
「帰りなさい」
「徹、どうして返事をしないの?」
「あなたのために言っているのよ」
岩ちゃんが横に立っているのに、震えが止まらない。
「無視していい」
岩ちゃんの声は低く、でも確信に満ちていた。
「……でも…」
「お前、帰ったら終わるぞ」
言われて、頭が真っ白になる。
帰ればまた、母さんの言う通りの“完璧な徹”にならなきゃいけない。
でもここにいれば――少なくとも今は、安心できる。
「……岩ちゃん、俺、帰れない」
岩ちゃんは黙って頷いた。
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帰り道、学校の近くの公園で二人は立ち止まった。
「どうする?」
「わからない」
素直に言えたのは、岩ちゃんの前だから。
「じゃあ、少しだけここにいようぜ。誰も見てねぇし」
暗くなる夕暮れに、二人だけの空間があった。
誰にも邪魔されない、静かな時間。
心が少しずつ落ち着いていく。
「及川」
岩ちゃんが真剣な顔で俺を見た。
「お前、母ちゃんのことだけで潰れるなよ。俺が守るから」
「でも…。」
「それでも逃げられねぇ時は、俺が一緒に立ち向かう」
その言葉で、胸の奥に何かが芽生えた。
“もう一人じゃない”という感覚。
初めて、誰かに頼ってもいいんだと、思えた。
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その夜、岩ちゃん家で寝る前、スマホの通知がまた光った。
母さんだ。
しかし、昨日のような震えはなかった。
「明日どうする?」
岩ちゃんの声は優しかった。
「……分からない。でも、行けるかもしれない」
岩ちゃんが笑った。
「それでいい。少しずつだ。無理すんな」
初めて、胸がぎゅっとなるけど温かい。
恐怖と安心が混ざった、変な感覚。
“母さんの言う通りにならなくても、俺は生きていける”
そう、少しずつ思えるようになった。
岩ちゃんがそばにいるから。
初めて、安心できる場所があるから。
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