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4日後、土曜日….
約束通り、犬さんと焼肉屋「月夜の牛」に来て向かい合って座っていた。
机の上でジュージューと肉が焼ける音
飛び散る油、立ち上る香ばしい匂い。
目の前の網の上では、カルビもハラミもホルモンも、遠慮なしに炎を浴びてテカテカと輝いている。
「にしても…花宮さんいつから気付いてたんですか?刺青のこと」
「ん?あー……覚えてるかな…犬飼さんが枯葉頭に乗せて店にやってきたときだったと思います。」
「あっ、あんな最初に気付いてたんですか。それにしては全然態度変わりませんでしたよね?」
「だって変に態度変えて因縁つけられたら嫌でした
し」
俺が目線を合わせながら言うと、目の前の犬飼さんは吹き出したように笑って言った。
「ふはっ……因縁って…」
「な、なんか俺また失礼なこと言ってますか…?」
「いやいや、客に刺青入った男がいたらそうなりますよね」
「あはは…その、すごく失礼なこと聞くんですけど、やっぱり犬飼さんって元ヤクザなんですか…?」
「あぁ、はい、訳あって途中で組抜けて今はカタギで」
犬飼さんはまるで何でもないことのようにサラリと言った。
やっぱりそうなんだな、と納得していると
「ね、花宮さんは元ヤクザってどう思います?」
唐突にそんなことを聞かれた。
「え?いや、どうと言われても……」
「花宮さん、αとヤクザが苦手だと仰ってたので」
「あー…き、聞こえてたんですね、それは……まあ…」
「全然、遠慮せず正直に言ってくれていいですよ。
最悪出禁にされてもおかしくないですから」
「そ、そんなことしませんよ……!まだ会って間もないですけど、犬飼さんには2度も助けられてますし」
「過去がどうであれ犬飼さんはただの常連さんですから」
「…そうですか?花宮さんがそう言ってくれるなら、俺としては嬉しいですけど」
犬飼さんはそう言って、少しだけ目を細めて笑った。
その表情には、先ほどの軽薄な雰囲気とは違う
どこか深みのあるものが感じられて
気を遣わせてしまったかな、と感じて
「でも俺、昔ヤクザに拉致られたことあって、ちょっとやそっとのことじゃ怖いとか感じないので、大丈夫ですよ!」
俺がそう言うと、犬飼さんは少し驚いたように目を見開いたあと
「ら、拉致?」
と、裏返ったような声を上げた。
「あっ、いや、はは…すみません、口が滑って」
「よく、無事でしたね」
「ははは…まあ、はい」
「って、話してばっかだとせっかくの肉が冷めちゃいますね……!」
これ以上この話を掘り下げられても困るので俺は慌てて話題を逸らした。
◆◇◆◇
数分後⋯
「…それはそうと合コンで会ったときはびっくりしちゃいました」
「びっくりですか?」
「まさかお客様と会うとは思わなくて」
「はは、それは俺もです。あんなことあるんだなあって」
「でも本当に、あの席に犬飼さんみたいな人がいてくれて助かりましたよ。」
「もう、そのことは気にしなくていいって再三言ってるじゃないですか。」
「はは、そうは言っても、ああいう場で助けてもらったのは初めてだったんで…まだ余韻が残ってて」
「ああいう場?」
「はい、だから本当に感謝してるので……!」
「今日はそのお礼ですし、ちょうど友人のツテで割引券もゲットしたので遠慮せず食ってください!」
◆◇◆◇
それから1時間後───…
網の上の肉は、焦げ付く寸前の最高の焼き加減。
ハサミでチョキチョキと食べやすい大きさにカットして、タレにつけて頬張る。
口の中に広がる肉の旨みと脂の甘み
至福の瞬間だ
二人で黙々と肉を食べ進める
「このホルモン、美味しいですね!すごいプリプリしてる…」
「こっちのハラミもうまいよ」
「うわ、お酒が進みますね…っ」
ジョッキを口につけてぐいっと喉に流し込むと
「花宮さんも結構飲むんだ」
なんて言葉が飛んできて
「ははっ、普通に下の名前でいいですよ、今はプライベートですし」
「そう?じゃあ……楓くん」
「はい。仁さんって呼んでも?」
「もちろん」
お互い少し酔ってきているのか、簡単に打ち解けてしまい前より距離が縮まった気がした。
「楓くん、今日は本当にごちそうさま」
「全然、俺も久々に焼肉食べれて美味しかったで す」
「…また今度、ご飯誘ってもいい?今度は俺の奢りで」
「え、いいんですか?ぜひ!」
社交辞令でも誘ってもふえたことが嬉しくて元気よく返事をすると
仁さんはそんな俺を優しい笑顔で見ていた。
お互い同じアパートで隣人同士ということで、タクシーでアパートまで着くと
そのまま別れの挨拶をする。
「仁さん、おやすみなさい!」
「おやすみ、楓くん」
お互い扉を開けて部屋に入った。
玄関にで雑に靴を脱いで
明日は休みだし、このまま寝ちゃってもいいかなぁと思い
俺は荷物を机の上に置くと、リビングのソファに身を沈めた。
◆◇◆◇
7月1日
出勤後、開店の準備済まし、エプロンに着替えるべく欠伸をしながら2階に上がる。
ロッカーからエプロンを取り出して身に付けている間、鞄をロッカーの中に置いて
ロッカーをバタンと閉めた拍子に