そして土曜日が来た。今日は岳大が優羽の実家に挨拶に来る日だ。
この日仕事が休みの優羽は朝食を食べた後流星とすぐに実家へ向かった。
そしてもう一つ嬉しい知らせがあった。兄の裕樹と舞子が正式に交際をスタートさせたのだ。
舞子は優羽の実家にもちょくちょく顔を出し母の恵子とはすっかり仲良しになっていると裕樹が嬉しそうに言っていた。
控えめで気が利く舞子の事を「裕樹にはもったいないお嬢さんだわ」というのが恵子の口癖らしい。
山岸夫妻には岳大が前もって報告してくれたようで二人が結婚を前提に付き合う事を知りとても喜んでくれている。
そんな山岸の計らいで今日は舞子も休みを貰い優羽の実家に行ける事になった。
舞子が傍にいてくれると知り優羽は心強かった。優羽は舞子の事を既に本当の姉のように思い頼りにしていた。
今日岳大は夕方の5時に実家へ来る事になっていたので母の恵子は商店街一美味しい寿司屋の寿司を注文してくれた。
裕樹は午前だけ休日出勤になってしまったので今は役所に行っている。
寿司以外の料理は優羽と舞子が担当になった。そこで優羽は舞子を連れてスーパーに買い出しに行く事にした。
流星にもおいでと言ったが恵子が買ってくれていたおもちゃが気になるらしく行かないと言う。
「ぼくはおばーちゃんとおるすばんしてる」
そこで恵子が二人に言った。
「流ちゃんと私のお昼は心配しないでいいからたまには二人でランチでもしておいで」
その言葉に二人は大喜びする。
二人とも最近忙しくしていたので二人でゆっくり話す機会がなかった。だから今日のランチは郊外にある舞子オススメの店に行ってみる事にした。
車は舞子が出してくれた。まずは混まないうちに早めのランチを取る事にする。
15分ほどドライブした後目的のレストランへ到着した。店は黄色い漆喰壁のかわいらしい佇まいでピザやパスタが絶品らしい。
店に入ると二人は窓際の席に座り『本日のパスタランチセット』を頼んだ。
舞子が水を一口飲むと言った。
「それにしてもびっくりよね。二人で同時期に交際が始まるなんて」
「いえいえ、舞子さんの方が先にスタートですから、先輩!」
優羽が冗談めかして言った。
「ううん、私が裕樹さんと正式にお付き合いを始めたのは二週間前だもの、ほとんど変わらないわ」
実は舞子はちょうど二週間前が誕生日だった。
その日舞子は裕樹と松本までドライブに行き裕樹に誕生日プレゼントを買ってもらう。そして帰りに安曇野に寄りフレンチレストランでディナーをした。その時に裕樹から正式な交際の申し込みがあったらしい。
今、舞子の左手の薬指には裕樹が買った赤いガーネットの美しいリングがはめられていた。
優羽は手を伸ばして舞子の左の手のひらを手に取ると、
「これがその指輪なのね。とっても素敵! うちの兄貴もなかなかやるじゃない!」
優羽の言葉に舞子は嬉しそうに微笑んで指輪を愛おし気に撫でていた。色白の舞子の手に真っ赤な石はとても良く似合っていた。
そこで舞子が言った。
「ガーネットは誕生石なの。知ってる? 誕生石を身に着けると幸せになれるって!」
「私もそれ聞いたことがあります」
だから優羽は昔自分でサファイアのピアスを買ったのだ。幸せになれますようにと願いを込めて。
それから二人は宝石の話で盛り上がった。楽しくお喋りをしながら優羽は兄・裕樹の事を考えていた。
優羽は兄の裕樹に心から幸せになって欲しいと願っていた。兄は常に母や流星、優羽の事を優先し自分の事は後回しにしていつも家族の為に尽くしてくれた。父親がいない森村家では長男の自分がしっかりしなければと常に自分を犠牲にしてきた。そんな兄が舞子という素敵なパートナーに出会った。だからもう心配はいらないだろう。自分の義理の姉になる女性が舞子で良かった。優羽は心からそう思った。
そこで優羽は姿勢を正して改まって舞子に言った。
「舞子さん、ふつつかな兄ですけれどどうぞよろしくお願いします」
すると舞子も姿勢を正して答える。
「はい。裕樹さんをちゃんと幸せにします」
二人は互いの目を見つめ合うと同時にクスクスと笑い始めた。その笑顔は幸せに溢れた笑みだった。
舞子の話しが一段落すると今度は舞子が優羽についての話を始める。
「優羽ちゃん達は急展開よね。でも私はこうなるだろうなって思ってたわ。だって佐伯さんが移住して来たのよ! それってやっぱり優羽ちゃんが心配だったからでしょう?」
「心配?」
「そうよ。ほら、去年だったかしら? 誰かにつけ回された事があったでしょう? やっぱりあれがきっかけなんじゃないかなって私は思ってるわ」
「え? 引っ越して来たのは店舗オープンで忙しくなるからだと思いますが……」
優羽の言葉に舞子は首を振りながら言った。
「それは表向きの名目よ。本当の理由は優羽ちゃんの事が心配だから近くにいたいって思ったんじゃない? 私からはそう見えるわ」
舞子の言葉に優羽は戸惑いを隠せなかった。
「佐伯さんは大人だから優羽ちゃんに余計な心配をかけないようにいつもさりげなく優羽ちゃんを支えているねって、いつも裕樹さんと話していたのよ」
優羽は自分だけが岳大の心配りに気づいていなかったと知り愕然とする。
言われてみれば思い当たる節がある。
金髪の男につけ回されて以来岳大は頻繁に連絡をくれるようになった。その内容は仕事の用件だったり他愛もない会話だったり色々で、何かにつけてこまめに連絡をして来た。そうする事でさりげなく優羽の様子を見守っていたのだろう。今更ながら岳大の深い愛情に気付いた優羽は涙が出そうになる。
優羽は今、自分が岳大の大きな愛に守られているのだという事を実感していた。
コメント
3件
ずーっと家族を見守ってきた裕樹さん🥹🍀今度はご自分が舞子さんと幸せになって下さいね💕💕💕 岳大さんの大きな愛にもキュンキュン(*´艸`*)🩷🩷🩷
ダブルの幸せだ〜💕💕 舞子ちゃんは最初の頃から気付いてたよ?優羽ちゃん🤭
鈍チン優羽ちゃんも舞子さんの言葉でようやく岳大さんの心配りに気づいたね🥰😉 それは優羽ちゃんを気遣って心配をかけないためのカモフラージュだったとしても岳大さんなりの愛情❤️🔥なんだよ〜🥰🥰 素敵な人とと出会えて良かったね、優羽ちゃん🩷舞子さんも家族思いで優しい裕樹さんと出会えたのも運命🌌だし、2人ともいっぱい幸せにならなくちゃね🥲😘👩❤️💋👩👍💕