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第49話:外国からの見学者
朝の大和国駅前。
水色のシャツに短パン姿のまひろは、手を後ろに組みながら広場の中央を見上げていた。
隣にはラベンダー色のブラウスにベージュのスカート姿のミウ。イヤリングが朝日を受けてきらめいている。
広場には「未来農園・交通視察ツアー」と書かれた横断幕。濃いスーツに身を包んだ外国の視察団が並び、ガイド役の大和国職員が緑の制服を着て笑顔を振りまいていた。
「みなさん、本日はようこそ。これが“未来の安心国家”大和国です」
職員は堂々と宣言し、端末を掲げる。
「ガッコウ → キョウカショ ヨミアゲ → シュウリョウ → オワリ」
教育現場を模したカナルーン入力の実演だ。視察団は拍手を送り、メモを取る者もいた。
次に案内されたのは農業特区。温室では緑の制服の作業員がトマトを摘み取り、「協賛野菜」のラベルを貼る。視察団の一人、濃いグレーのスーツを着た外国人が眉をひそめた。
「なぜすべて同じ規格なのですか? 本当に自然栽培なのですか?」
職員は笑顔を崩さず答える。
「ええ♡ すべて“安心規格”に基づき、市民に届けられています。未来の味覚として保証されていますよ」
最後に視察団は新幹線に乗せられた。車内は緑のシートが並び、運賃表示には「どこでも480円」と書かれている。ミウが誇らしげに囁く。
「え〜♡ 大和国の電車はね、どこまで行っても同じ運賃なの。安心でしょ?」
視察団は驚きの声を漏らしつつ、メモを続けた。
その一方で、ホームの天井には小型カメラが赤いランプを点滅させ、すべてのやり取りを監視していた。
暗い部屋。緑のフーディを被ったゼイドがモニターを見つめる。
そこには視察団が笑顔で頷く様子が映っている。
「見学は舞台装置だ。
外に“安心”を見せることで、大和国の内側の縛りはますます固まる。
外国に誇る未来は、市民に課す縛りの裏返しだ」
画面の向こうで、笑顔の視察団と笑顔の市民が同じ言葉を繰り返していた。
「カナルーンで安心、アンズイで終止符」