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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「わっ、すごーい!」



衣装係の子たちが「先生の衣装はヒミツ」だって教えてくれなかったけど、これすごいクオリティ高い……!



裁縫のできない私はただただ感心してしまうけど、いやいや今はそんな場合じゃない!と慌ててたたみ直し、教室を出ようとした。



でも急いだせいで机の端に足をぶつけて、その拍子に派手にんでしまう。



「いっ、痛ったあ……」



ギッという、机と椅子がへんな方向に動く鈍い音と、私がしりもちをついた音。



そしてその後、「ビリッ」というイヤな音がして、私は「えっ」と声をあげた。



慌てて床を見れば、動いた机の下に衣装がはさまって、ドラキュラの衣装が破れてしまっている。



「えええっ!!ど、どうしよう……!」



急いで衣装を拾い上げると、腕のところが破れて、これじゃあとても着られそうにない。



「う、うそ……」



私は慌ててロッカーから裁縫道具を引っ張り出し、針に糸を通した。



でも私は裁縫が苦手だから手が震えて、なかなかうまくできない。



どうしよう。どうしよう。



仮装の時間もうすぐなのに。



その時、突然ガラッと教室のドアがひらき、ビクッとした瞬間に「みどり!」と名を呼ばれた。







「みどり!こんなとこにいたんだ。なにやってんの!


もうじき俺らの準備係の集合始まる……」



ドアのほうを見れば、息をきらした北畑くんが立っている。



「あ……」



「って、ほんとになにやってんの?


それ……衣装?」



「うん、これをとりに来て、慌てたせいでころんじゃって、破いちゃって……それで……」



言いながらふと涙が出そうになった。



……最悪、私ったらほんとなにやってるの。



「えっ? 転んだ? 大丈夫みどり」



「わ、私は大丈夫。


それよりこれ仮装に先生が着るやつだから、急いで直さなきゃいけないの」



目を合わせないようにプイと顔を背けた時、午前の競技が終わるアナウンスが流れた。



「急がなきゃ。これ着る先生がもう審判が終わってきっと待ってるから。


……北畑くんは先に行ってて。後で行くから」



そう言って修復しようとするけど、焦るせいでうまくできなくて……。



そんな私を見ていた北畑くんは、「ちょっといい?」と衣装を引き受けた。



「えっ」



「俺、こう見えて裁縫得意なんだ。ちょっとやらせて」



北畑くんはむかいのイスに座って、破れた部分を器用に縫っていく。



「えっ……すごい」



「いや、うちじゃ長い間家事は俺の担当だったから、実は裁縫も結構得意でさ。


ダサいからだれにもヒミツにしてたけど、今役に立ってよかったよ」



言っている間に縫い終わった北畑くんは、「はい」と私に衣装を手渡した。








「あ、ありがとう……!


ほんとうにありがとう!」



「よかった、じゃあ急ごう。


これ着る先生はどこにいるって?」



「退場ゲート!」



言って走ろうとすると、北畑くんはぱっと私の手をとった。



「えっ、な、なに?」



「ダメ、さっき急いで転んだんだろ?


急ぐけど走らずに俺と速足ね」



「は、速足?


わ、わかったよ。でも本当に急ぐよ?」



「うん、じゃあ行こう」



北畑くんは私の手を引いて、走る一歩手前くらいの速さで歩く。



それが……なんだか変な感じで、焦っているはずなのに、どこか嬉しくて、心なしかドキドキもしていて……。



つながれた手に意識が集まるけど、「離して!」とは思わない。



グラウンドに着き、本当に手が離れた時は……ほんの少しだけ寂しく思った。



え……。なんだろ、この気持ち。



こんな気持ちになるのはわけがわからないし、自分でもすごく意外だった。








それから先生に衣装を渡し、私は改めて北畑くんにお礼を言った。



「ありがとう、本当に助かった。


北畑くんが来てくれて本当によかったよ」



「うわ……。みどりにそこまで言ってもらえるとマジで嬉しい。


そろそろ俺のこと好きに―――」



「ならない」



「だよね、やっぱね……」



ガクッと肩を落とす北畑くんに、私は呆れたため息をつく。



「当たり前じゃん。


北畑くんこそなんで私と付き合いたいの? 相変わらず謎なんだけど」



「それは―――」



北畑くんが言いよどんだ時、真後ろを通りかかっただれかが北畑くんの背中をたたいた。



「唯くん!」



「あっ……智香ちゃん」



智香ちゃんを見て私は反射的に身構える。



案の定智香ちゃんは私に気づいておもいっきり睨んだ。



「もう!唯くんどこ行ってたの。


お昼休みにはそっち行くって朝伝えたのに」



「ごめん、ちょっと緊急事態でさ」



「緊急事態って……まさかこの人?」



「は?」とばかりの智香ちゃんに「違う」と言えたらよかったけど、今回は本当にそうだから……すごく気まずかった。



私がなにも言えずにいると、智香ちゃんは肯定だとらえたらしい。



さらにギロッと私を睨むと、ぐいっと北畑くんの腕を引いた。







「唯くん行こう。もういいでしょ」



「あ……うん。


じゃあねみどり。あとで」



「うん……」



智香ちゃんに引きずられる形で、北畑くんは人波の中に消えていく。



あぁ、またきっと智香ちゃんに嫌われちゃったよ。



智香ちゃんって本当に北畑くんのことが好きなのかな……。



重たい気持ちになっていると、「緑!」と声がして、見れば仮装を終えたばかりのあさ美だった。


うちのクラスの仮装は「不思議の国のアリス」で、あさ美はアリスの恰好をしていた。



「わっ、あさ美!すごいかわいい!」



「へへー、いいでしょー、緑もやればよかったのに」



「私はいいってば。アリスなんて恰好似合わないし」



「またまたー!絶対に似合うって言ったのに。


ってそうそう! 緑さ、北畑くん知らない?」



「え?」



「田口くんが探してるんだよね。騎馬戦のことで話があるとかで……。知らない?」



「あー……」



北畑くんといえば、さっきプール側に消えていったけど……。







「妹さんとプールのほうに行ったよ」



「えっ、北畑くんの妹ー?


ってか緑、なんでほんとに行方知ってるの。


そう言うってことはさっきまで北畑くんといたのー?」



「えっ……」



しまった、墓穴を掘った!



慌てて「いや……」と言ってみるけど、あさ美は目をキラキラさせてにじり寄ってくる。



「ねーねー、ほんとにさ、ほんとに北畑くんと付き合ってないのー?最近まじでいい感じじゃーん」



「も、もう。そんなわけないじゃん。


ほらあさ美、北畑くんあっちだから探して来て!」



「えー、緑が行ってきてよ。


私田口くんに北畑くん呼んでくるって言ってくるから。じゃなきゃ入れ違いになるもん」



「えっ、えー……」



「「えー」ってまたまたー!


ほんとは探しに行きたいくせにー!」



「なんでそうなるのよ!ぜんぜん行きたくないよ!」



わーわー言いながらも私はあさ美に押され、結局プール側に探しに行くハメになった。



今日はとことんついてない……。



智香ちゃんがいると思うとさらに行きたくないのに……。



仕方なくプール側に行っても、北畑くんたちの姿はない。



しまった、あれからどこかに移動しちゃったんだ……。



慌てて小走りであたりを探すと、体育館のほうから声がする。
















きみが付き合ってくれるまで

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