私は、深い暗闇の中を歩いていた。
果てしない暗闇。私が十二歳の時に見たものと同じようなものだった。
私、どうなったんだっけ?
ロンリア嬢に突き飛ばされて……。そうだ。ロンリア嬢に突き飛ばされて、階段から落ちたんだった。でも……、私あの後どうなったんだろう。死んだのかな。あの階段、結構高さあったし。
うん、ここはあの世かもしれないな。だとしたら、真っ暗闇だからここは地獄だな。とてもじゃないけど、天国とは思えない。……それにしても。
……怖い。ひとりぼっちにされたみたい。
彼に、会いたい。恋しくて恋しくて仕方ない。
私はぎゅっと目を瞑る。
……お願い。夢なら覚めて…!
私は、目を開けようとした。
だけど、瞼がやけに重い。
私はなんとかこじ開けた。
開けた視界には、もうあの暗闇は映っていなかった。
代わりに見慣れた天井が視界に入る。
と、そばにいたらしいリエルが「お嬢様が目を覚まされました!」と部屋を出て行った。
私は死んでいないことに驚きながら、手を動かそうとする。
が、身体が鉛のように重たかった。
何だか、魔力暴走を起こした時みたい……。
と、リエルと兄が部屋に入って来る。
「リリアーナ!大丈夫かい?」
「お嬢様!大丈夫ですか!」
二人の声が合わさる。
私は二人に問いかけた。
「私……、あの後どうなったんですか?」
すると二人は顔を見合わせ、丁寧に話してくれた。
その内容に、私は絶句した。
私は一ヶ月間記憶喪失だったこと、私が魔力暴走を起こし彼に迷惑をかけてしまったこと、彼は三週間、私は一ヶ月で目覚めたこと。
そんな……、記憶喪失だったなんて……。
何より、彼に迷惑をかけてしまったことが辛い。
なぜ私は大切なひとをこんなに傷つけてしまうの……。
私は彼らに微笑む。
「そうだったのですね…。わかりました。二人とも席をはずしてください。少しひとりにさせて」
すると彼らは戸惑ったような顔をしながらも頷き、退室してくれた。
部屋には私ひとりになる。
彼らが部屋を出て行った途端、涙があふれた。
何で……、どうしてなの…?
私には泣く権利なんてないのに。
もう、彼に会わない方がいい。
彼は私といると不幸になってしまう。
彼には、幸せになってほしい。
大切なひとだからこそ幸せになってほしい。
彼には、私よりもっと素敵な、お似合いの人がいるだろうから。
彼を傷つけるような私は、彼のそばにいてはいけない。
もう、彼には会わない。
私はそう決めた。