風呂から上がった二人は髪を乾かし、パジャマを着て寝室へと向かった。
侑がルームライトを仄かな明るさに調光させた後、瑠衣の手を引いてベッドへと誘(いざな)い、縁に腰を下ろして彼女を抱きしめた。
どことなく彼の振る舞いが紳士のように瑠衣は感じる。
いつもだったらすぐにキスを交わし、ベッドへ縺れ合いながら倒れ込み、前戯を始めるのに。
さっきバスルームで『風呂から上がったら、たっぷり可愛がってやる』なんて言ってたのに。
そういえば想いを通わせた時も、互いに一糸纏わぬ姿になったのに情交する事なく、唇同士が触れるだけのキスを交して、ただ抱きしめ合っていた。
(響野先生、一体どうしたの……?)
瑠衣が思考の海に漂っていると、侑が顔を覗き込み、穏やかな声音で問い掛けてきた。
「瑠衣? どうしたんだ?」
彼女は首を横に振り、何でもない、と呟いた。
節くれだった指先がパジャマに手を掛け、ボタンを一つずつ丁寧に外していく。
ズボンも下着もじれったくなるほどゆっくりと脱がせていく侑に、瑠衣はドキドキしてしまう。
全てを露わにさせた彼女へ腕を伸ばして引き寄せ、ベージュブラウンの頭を胸に抱きながら髪をそっと撫でた。
「…………瑠衣。綺麗だ」
綺麗だ、なんて言われたのは初めてだし、恥ずかしいけど嬉しい。
彼女は堪らず睫毛を伏せると、侑の無骨な手が彼女の頬に触れ、そのまま髪に触れて何度も指先で髪を梳かした。
「先生に『綺麗だ』なんて言われると……凄い恥ずかしい……」
「…………事実を言ったまでだ」
彼はまだパジャマ代わりの黒いスウェットの上下を着たままだ。
自分だけ一糸纏わぬ姿で侑に見つめられている事に、瑠衣の顔がカッと熱くなる。
いつまで自分だけが全裸の状況なんだろう、と朧気に考えていると、低めの渋い声色が斜め上から降ってきた。
「…………瑠衣。俺が着ているもの、脱がせてくれないか?」
予想すらしなかった侑の言葉に瞠目する瑠衣。
(どうしよう……何か緊張しちゃう……)
彼女は辿々しく肯首すると、トレーナーの裾に手を掛けた。