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「へぇ。そんな表情も見せるのか。可愛いな」


「かっ……か…………可愛い!? 変な冗談やめて欲しいんですけどっ!!」


「いや、冗談で言ったつもりはないんだけどな。君は結婚式で会った時、表情が硬い印象が強かったから、いい意味で意表を突かれた」


(冗談で言ったつもりはないって…………どういう意味だよ……もう……)


怜の言葉に戸惑いながらも、『とにかく!』と奏は口早に繋げる。


「あまり変な事言うの、本当にやめて欲しいんですけど!」


「変な事? 変な事言ったつもりはないが?」


「ああもう何かムカつく!!」


大人の余裕の怜と、彼に翻弄されているような奏の言い争いで始まり、今に至っている湘南ドライブであった。




***




「あの夫婦は海岸で勝手にイチャついてるだろうから、こっちは海に向かって楽器でも吹くか」


「そうですね。そうしましょう」


「あ、そうだ。何でも構わないから音出ししてもらっていいか?」


「わかりました」


奏は、高校時代に部活でやっていた基礎練メニューを、思い出しながら吹いてみた。


隣では怜が色香漂う音色で、サックスの名曲らしきフレーズを奏でている。


トランペットから離れて約九年のブランクは予想以上に大きい。


高音を出す時、息切れしそうになってしまうし、腹筋がじんわりと痛い。


十五分ほど吹いただけでも、かなり体力を消耗したように感じた。




「奏さん、ブランクがあるって割には、太くて伸びやかな音を出すなぁ。腹式呼吸がしっかりできてる証拠だ。吹いた感じはどう?」


「前よりも音が出しやすくなったような感じがします。それに、こんなに綺麗にしてもらって…………新品の楽器みたいで凄く嬉しいです。葉山さん、本当にありがとうございます」


奏は怜に向かってペコリと会釈すると、彼も緩やかな笑みを映し出す。


「いいえ、どういたしまして。俺自身も凄く勉強になったよ。オーバーホールさせてくれて、ありがとう」


奏が、手にした楽器を見て顔を綻ばせている。


そんな彼女の笑顔の花を見た怜の鼓動が、大きくドクリと打ち鳴らされた。


「楽器の状態を保つのは、やっぱり吹いてあげるのが一番だと思う。奏さんも忙しいだろうし、週一回くらいでも音出しするといいかもしれないな。それから、今日は潮風が吹いてる所で音を出したから、楽器をしまう時、手入れは普段よりも丁寧にした方がいいだろうな」


「はい。ありがとうございます」


奏は、よほど嬉しかったのか、今もトランペットを手にしたまま、小さな唇が弧を描いている。


トランペットのベルの先端に陽の光が反射してキラリと輝き、ベル部分には海と怜の顔が小さく映り込んでいる。


不意に、斜め上からの視線を感じ見上げると、怜の眼差しが奏へ送られていた。


「…………やっと、笑ったな」

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