テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
38
74
如月 未澄斗
216
#刑事もの
鬼霧宗作
1,117
第2話 多重人格
橋本優太の取り調べから、一日が過ぎた。
捜査本部の空気は重い。
ホワイトボードには三人の被害者の写真、その隣には「橋本優太」の顔写真が貼られている。
「決定的な証拠がありません。」
若い刑事が口を開く。
「目撃証言だけじゃ弱いな。」
坂田は腕を組んだ。
「自白もない。」
「凶器も見つかってません。」
「殺害方法も不明です。」
静まり返る会議室。
「橋本優太を中心に捜査を続ける。」
坂田はそう言って立ち上がった。
⸻
最初に向かったのは、優太の自宅近く。
古くからこの町に住む女性は、優太のことをよく知っていた。
「あの子? 本当に優しい子よ。」
「優しい?」
「買い物袋を持ってくれたり、お年寄りに席を譲ったり。悪い噂なんて聞いたことないわ。」
「事件の日は?」
「知らないわねぇ……。」
別の住人も同じようなことを話した。
「あの子が人を殺すなんて考えられない。」
しかし、その印象は学校で大きく変わる。
⸻
中学校。
教頭は深いため息をついた。
「基本的には真面目な生徒です。」
「基本的には?」
坂田が聞き返す。
「時々……人が変わるんです。」
「どういう意味ですか。」
「授業中、突然机を思い切り叩いたり。」
「口調が荒くなることもありました。」
担任教師が続けた。
「『うるせぇな』とか、『黙れ』とか……普段の橋本くんからは想像できない言葉を使うんです。」
「本人は覚えている?」
「翌日には何事もなかったようにしています。」
「先生が注意しても?」
「『そんなことしましたか?』と言われました。」
坂田はメモを取る。
偶然では片付けられない。
⸻
廊下で数人の男子生徒に話を聞く。
「橋本?」
「優しかったですよ。」
「でもたまに怖かった。」
「急に?」
「うん。」
「目つきが違うんです。」
一人の生徒が思い出したように言う。
「そういえば……。」
「何だ?」
「いつも七人で遊んでました。」
どうでもいい事だが、一応メモをする。
⸻
夕方。
捜査本部へ戻ると、藤堂が資料を抱えて待っていた。
「坂田さん。」
「どうした。」
「橋本優太の医療記録です。」
坂田はページをめくる。
診察記録。
心理検査。
そして診断書。
『解離性同一性障害の可能性。』
「やっぱりか。」
「人格が複数存在している可能性があります。」
「本人は?」
「自覚はあるそうです。」
「人格同士で記憶は?」
「共有していない可能性があります。」
坂田は昨日の取り調べを思い出す。
『好きな食べ物は?』
『分からない。』
『趣味は?』
『分からない。』
あれは、はぐらかしていたわけではないのか。
本当に知らなかったのか。
⸻
「もう一つあります。」
藤堂は古いファイルを机に置いた。
「一年前の失踪事件です。」
坂田は表紙を見る。
満島凛一 十四歳 行方不明
「橋本優太の親友だった生徒です。」
「親友……。」
「失踪したまま、今も見つかっていません。」
「最後に会った人物は?」
「まだ調査中ですが……橋本と親しかったことは間違いありません。」
坂田は写真を見つめる。
笑顔の少年。
その写真の隣には、橋本優太。
二人で肩を組んで笑っていた。
「偶然か……?」
坂田は呟く。
三人の女子中学生殺害事件。
そして一年前の親友失踪。
点と点が、どこかで繋がろうとしている。
しかし、その間を結ぶ一本の線だけが、まだ見えなかった。
坂田は静かにファイルを閉じる。
「……満島凛一。」
その名前を口にした瞬間、不思議な胸騒ぎがした。
この事件の本当の始まりは、一年前にある。
そんな気がしてならなかった。
コメント
1件
おお、第2話も重くて引き込まれたわ…。優太が「優しい子」って評判なのに、学校では人格が変わるってギャップが不気味すぎる。解離性同一性障害の診断が出て、しかも一年前の親友失踪事件が絡んでくるって、もう点と点が繋がりそうで繋がらないもどかしさがたまらん。坂田の胸騒ぎ、めっちゃ分かる。続きが気になりすぎる🔥