《おじいさんの家》
「ここまでが、町まで来る道のりじゃ、覚えたか?」
「はい……」
(うぅ、正直、全然覚えてないよぉ……!)
だってさ!
どこ見ても木、木、木だし!
洞窟の中なんて道が入り組みすぎて、どう見ても迷路だよ!?
(ど、どうしよう……一人で行ける気がしないよ……)
今いるのは、カジノの町とは違う、小さな町。
名前はわかんないけど、昭和の魚屋さんみたいな、
建築ウッドをくり抜いた出店がずらっと並んでる。
(へぇ~、ちょっと懐かしい感じ……)
きっと、ここで食材を買うんだね。
「お前の居た町は人間嫌いが多くてな……
あそこでは人間はギャンブルしかさせてくれない。
それも金づるとして、の」
「……」
(……そっか、そんな事情があったんだ……)
「まぁよい。今日はワシが買うので荷物持ちを頼んだぞ」
「わかりましたっ」
「何がいる?」
「そうですね……最近、お肉が切れちゃってきてるので!」
「肉か、わかった」
(やったぁ!今日の夜はお肉だぁ!)
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《買い物後》
「家が見えたぞ、アオイ」
「は、はいぃ……」
(や、やっと……! 本当にやっとだよぉ……!!)
両手いっぱいに布袋を抱えて、へろへろになりながら歩く。
道を戻ってきたけど、もう腕がぷるぷるしてる。
(うぅ……手が痛い……肩から肘にかけて乳酸菌が暴れてる……!)
じいさんも、少しだけ荷物を持ってくれてる。
(まぁ、じいさんなりに気遣ってくれてるんだろうけど……)
だって、珍しい食材ばっかりで、
味もよくわかんないし、結局、片っ端から買っちゃったし……!
(この世界に来てから、なんか料理好きになりそうだなぁ……)
「…………」
「あれ? 誰か来てる?」
家の前に――誰かが立っている。
じっとこっちを見つめてるその姿が、だんだんはっきりしてきて――
「え……な、なんで……」
「……」
――忘れたくても、絶対に忘れられない。
獣人。全身真っ黒で、立派な『牛の角』。
舐め回すような視線と、下品な笑み。
「よぉ、待ってたぜぇ、奴隷」
……あの時、カジノで僕をボコボコにした、張本人だった。
「ふむ……あの時の獣人か」
「てめぇみたいな奴がこの奴隷を使うより、
俺の方が上手く使ってやれるから取りにきてやったぜ、ありがたく思え」
「んな!? 僕はこの人と契約しています、だから――!」
「てめぇは黙ってろ!」
「ひっ……!」
(ふ、ふえぇ……な、なんでこんなに怖いの!?)
目が血走ってるし、
元の世界でも不良に絡まれたら年下でもごめんなさいって言っちゃう僕には、
無理ゲーな空気だよぉ……!
「……コイツの言うことは正しい。それより、どうやってここまで来た?」
「あ? んなもん、ついてきたに決まってんだろ。
お前、あのカジノが消えてから、どこそこの町を回ってちょこちょこ稼いで帰ってるみてーじゃねーか?
そんなに勝ちまくれば俺たち《熊さん組》が黙ってるわけねーよな?
仕方ねーから俺が立候補してずっと見張ってたって訳よ」
「……」
(まさか、じいさんが最近帰ってこなかったのって……)
しかも、
朝から夜まで毎日大金を稼ぎ続けてるって――
「僕の……維持費……」
「そうだよなぁ?
こんな高級奴隷を維持すんのに大金は必須だよなぁ?
でもテメーは稼ぎすぎた、《熊さん組》に目をつけられて生きれると思うなよ? ゲッハッハッハ」
「……前にも話したが、ワシは《愛染家》と深い関係が――」
「安心しろ。
だからカジノとかで殺さないでやったんだ。
でもな、こんなアヤカシがうようよしてる山で死んだなら、
誰も殺されたなんて疑わないよな? ゲヘヘ」
「……」
(……ダメだ……完全に追い詰められてる……)
「だが……お前らの言う通り、この奴隷の権利はお前にある……てことで交換条件だ」
「お前の提案を飲むつもりはない。大人しく立ち去れ」
「おいおい、いつ死ぬかわからねぇじじいが、
わざわざ寿命を早める必要はねぇだろ?
……あのガキのようになりたくなけりゃなぁ?」
「……え?」
(ガキ、って……まさか!?)
「な! お前、ユキを!?」
「まぁ焦るな。その前に取引だ」
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